第3話 幽霊が現代を知る

 千久良の部屋についた。ベッドと勉強机があるだけのシンプルな小さな部屋だが、女の子が住んでいる部屋というのはこういうものだという典型のようなピンク色の多い部屋だった。

 昔、千草は父親と殺風景な屋敷に住んでいた。勇乃進は千草を娶りたかったが、千草は跡取り娘だったから、一人息子の勇乃進に嫁ぐことはできなかった。二人は泣く泣く別れたのだ。勇乃進は嫁に不満はなかったが、千草を心の底では忘れてはいなかった。だから幽霊になって子孫に会いに来たということかと勇乃進は思うことにした。


 

「お前、高校二年というのはいくつだ?」

「16歳です。勇仁さんは3年で17歳ですよ」


「お前らは交際しているのか?」

「いえ、私は遠巻きに見ているだけです。上級生だから話しかけるきっかけもなくて」


「そうか……これは運命だな。俺とお前のひい婆さんは恋仲だったんだよ。時を経てまた出会えたんだな」


 千久良が目を瞠った。


「そうなんですか?」

「ああ、お前らは絶対に恋仲になる。運命だ、これは。確信したぞ! 俺が幽霊になったのは、お前らの縁結びをするために違いないな!」


「藤原さん、どうやって勇乃進さんと話すんです? 私のように見えるとは保証できませんし」

「そうか? やってみなきゃわからん、明日学校に連れてけ」


「わかりました。ところで、お腹は減ってませんか?」

「減ってないな、多分、幽霊はなにも食わなくても死なない…というか、もう死んでるしな」

「では、ゆっくりしていてください。私は階下で夕食をとってきます」

「おお」


 千久良との会話から分かったことは、勇仁という曾孫か玄孫がいるようだ。自分にそっくりということなので、間違いないだろう。自分の命が脈脈と受け継がれていることに、勇乃進は感慨を持ち、千草と添えなかったことは苦痛だったが、嫁を娶り子孫を残せたことには深い幸福感と満足を感じた。


 そうしているうちに千久良が部屋に戻ってきた。しげしげと勇乃進の顔を見つめて言う。


「藤原さんは、今の姿はいくつなのでしょう?」

「ああ、多分なあ、23くらいだと思うな」

「そうですか、今の勇仁さんよりも年上に見えますし、勇仁さんはこういう大人になるのかなと思うとちょっとトキメキます」

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