第2話 幽霊と女子高生

 勇乃進はなにかムズムズとしてきた。下からじっと見ている目があることに気づいた。


 背丈が俺の胸のところまでしかなく海軍将校のような上着にスカーを履いた少女。



「貴方……藤原勇仁さんですか?」

「いかにも、俺は藤原だが、勇仁ではない、俺は藤原勇乃進という」



 少女のくせに、妙に大人びた表情のこの娘は、大きな瞳をしている。知っている、この目……。

 顔の造作、髪質、肌のきめ細やかさ。なんだが、とても既視感を感じるこの顔。少年だった頃、恋していたあの娘、早瀬千草に顔が生き写しだ。


「お前、俺が見えるのか? 他の奴は俺にまるで気づかないが」


「見えます。幽霊なんじゃないでしょうか? 藤原勇仁さんのご先祖ではないですか?」


「やはり俺、幽霊なのか?」

「自覚ないのですか?」


「待て、その前に、お前はいったい誰だ? 見たことある。その顔は早瀬千草にそっくりだが、お前は子孫か?」


「私は早瀬千久良です。貴方の仰る早瀬千草は曾祖母です」

「千草の曾孫か?」

「はい」


 懐かしさのあまり思わず、千久良の頭を撫でようとしたらするっと腕が彼女の身体を通り抜けた。



「藤原さん、幽霊は人に触れません」

「そうか……」

「俺は、幽霊だと思うか?」

「ええ、多分」

「そうか、どうして俺は幽霊になったんだろうな」

「どうしてでしょう……亡くなったのはいつですか?」

「昭和15年だ」

「今年は令和3年です」

「令和?」


「昭和は64年まであり、その後、平成が31年ありました。そして、今年はその後の令和3年です。つまり、藤原さんは……83年後の世界に幽霊として蘇ったようです」


 藤原は、現実を受け止められずに暫く無言だった。人は死んだら極楽浄土に行き、暫くの養生の後、生まれ変わるんじゃないのか? なぜ、俺は83年後の世界で幽霊になったんだろうと、藤原の頭の中にはなんとか現状を把握しようという解析回路が高速運転をしていた。昔、陸軍大将として、戦場で指揮をとっていた時よりも、戦況把握が難しいと感じた。


「千久良と言ったか?」

「はい」

「良い名だ」

「父が、私が曾祖母に似ていると言って、一文字とったそうです」


「そうか……」


「藤原さん… とにかくここで立ち話もなんです。うちに行きましょう」

「ああ、お前の家か?」

「はい」

「俺が幽霊だとして、お前は俺が怖くないのか?」

「怖くありません。多分、勇仁さんのご先祖様だと思いますし」


歩く道々、いろいろと話して、状況が自分にも掴めてきた。


「お前は何年生だ?」

「高校2年です」


「お前とその勇仁の関係は?」

「藤原勇仁さんは高校の上級生です」

「高等学校は今は共学か?」

「はい」

「そうか、どうして先祖だと思うんだ?」

「生き写しなんです。背丈も顔つきも仕草もなにもかも」

「どうして、俺はお前にだけ見えるんだろうな?」

「……」

「なんだ?」

「私、勇仁さんに憧れているからだと思います」

「そうか、俺は、お前の曾祖母の千草に惚れてたけどな、昔はな」

「え? そうだったんですか?」

「ああそうだ。そういう縁で、神仏がお前と引き合わせてくれたのかな?」

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