幽霊の恋愛指南

くしき 妙

第1話 転生したと思ったのに。


「勇之進様!勇乃進様!」


妻の声が遠くなる。


「「父さん!父さん!」」

「「お爺ちゃん!」」


 ああ、俺は幸せだった。大往生だ! 


 戦場で散っていった軍隊の同僚たちには申し訳なくはあるも、俺は子供も生まれた。孫もたくさん抱いた。幸福だったな。


 藤原勇乃進は、畳の上で死ねる最期を幸福だと思って58歳の生涯を終えた。



 しばらく空中を漂っていた。どれくらいふわふわしていたのだろう?

勇乃進は、ふと目を開いた。いつのまにか何処かに立っていた。



 周りを見回して気づいたことには、ここは、俺が生きていた世界と違う。全てが俺がみてきたものじゃない。ただ、人が多いので、ここは日ノ本の国の都であろうと思われた。

 建物が異常にノッポだ。見上げていたらクラクラと眩暈がしてきた。



 なんだ、ここ? 考えていてはたと思いついた。


「俺は、転生したに違いない!」


 きっとここは、100年後くらいの世界だ。


 聞いてみよう!


「よう、若いの! 今は年号はなんだ?」


 話しかけられた若者は、振り向きもしない。


「こら~! 無視するのか!」


 藤原は、それから誰に話しかけても無視される。


 ふと、商店の陳列窓に映った己の姿に気づいた。


「え? なぜだ? 」


 その姿は……。


 俺は、転生したんじゃないのか? どういうことだ? 転生したのに子供でもないし、死ぬ前の60がらみのジジイの姿でもない。働き盛りで戦闘能力が一番髙かった自覚があった22から24歳くらいの頃の姿だ。

 行き交う人々の背丈が、昔は俺の胸くらいまでしかなかったのに、肩くらいの奴がうじゃやうじゃいるし、時には、俺くらい大きいやつが闊歩している。 

 

 どういうことだ? ふと、思った。脚! 脚あるか? 触ってみた。ある! 脚はある。幽霊なら脚はないはずだから、俺は幽霊じゃない!



 なのに、誰も、俺の存在に気づいてくれない……。なぜだ?やはり、俺は、幽霊なのか……。勇乃進は絶望感に苛まれて呆然と突っ立っていた。

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