第4話 幽霊も男
「そうか、お前はきっと千草の生まれ変わりなんだよ。だから、勇仁に惹かれるんだろう」
「そうなんでしょうか?」
「ああ、そっくりだしな。千草は中年になってからのほうがいい女になったな。亭主に大事にされてたんだろう。妬けたよな」
「恋人だったのに、どうして結婚しなかったんですか?」
「昔はな、家同士が結婚したんだ。お互いの気持ちよりも大事だったんだよ。それに俺達が別れなかったら、お前は生まれてないぞ。勇仁もな」
「好き合っていて添えないなんて理不尽です」
「そう言える今の世の中は素晴らしいな。俺達が別れたのは、俺が21でな、千草が20の時だった。100年以上前だな。一世紀の時を経て世の中が変わって、好き合っている同士が自由に一緒になれる時代になったんだ。それは喜ばしいことだろう?」
「ひいおばあちゃんや、藤原さんたちの世代の犠牲があって今の自由があるんですね」
「犠牲なんて思ってはいないさ。人間てな、だんだんその環境に慣らされてしまう。そしてそれでそこそこ幸せなものなんだよ」
「そうですか? 家とか、しきたりとかに縛られて生きるなんて私は嫌だわ!」
「千久良、お前たちはまったく縛られてない。自由に恋をしろ」
「藤原さん……」
「明日、お前にくっついて学校で子孫を見られるのが楽しみだな」
「ええ、きっと鏡を見ている気分になりますよ。本当にそっくりだから」
「おお」
勇乃進は千久良を見つめていてちょっとソワソワした。年甲斐もなく千草そっくりの孫娘の千久良とひとつ部屋にいるというのは胸が高鳴る。年頃の娘の着替える姿が目に入ったりしたら、自分を制御できるだろうか?などど58の爺さんの煩悶する姿なんていただけないだけだ。いやいや、幽霊になって若返っているんだ。俺は23才の男盛りだ。ああ、困ったもんだと一人で悩ましがっていたら、千久良が話しかけるので飛び上がった。
「藤原さん」
「おおーっ」
「何考えてますか?」
「お前は俺がいても大丈夫か? 俺は幽霊と言っても男だからな」
「え? 幽霊は襲ったりできませんよね?」
「わからんな」
「いやだ! 勇仁さんのひいお爺さんなんだから……」
「いや、すまん、忘れてくれ」
「はあ……藤原さん」
「勇乃進と呼べ」
「勇乃進さん」
「なんだ?」
「幽霊も眠るんですか?」
「どうだろうな?俺は幽霊になりたてだからよくわからんよ。でも眠くはないな」
「そうですか、じゃあ、適当にお楽になさってくださいね」
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