第3話 Boy meets girl

「はぁ……。」


混乱に紛れて女子たちの群れから抜け出した雪がため息をつく。


本来ならこれも隠しているのだけど、流石にここ数日こんなことが続けば、表にも出したくなる。


雪は外見が良い。かなり良い。

中性的かつ整ったその顔は、モデルに誘われるほどだ。

彼自身にその気がないので彼は今でも一般高校生なのだけど、そんな顔の男の子が同じ学校にいれば女子達は憧れるし、このお祭り的イベントを見逃さない。


「本当に、やになっちゃうよ。」


そんなことが小学校以前から続いているので、雪自身は己の姿が嫌いだった。


何度も一般的な容姿になりたいと願った。けれど、ブスがイケメンになれないように、イケメンはブスになれないのだ。


本当に、この世界は人々に厳しすぎる。


マイナスなら当然困難の連続、プラスでもプラスで困難が待ち受けているなんて、無理ゲーも無理ゲーだ。


「ずっとこんなで。おかげさまで男の子の友達はできないし…。」


校舎の端っこに腰掛けて雪は空を見上げながらつぶやく。


青春の時期に友達というのはとても大きな存在だ。

多くの人は彼女よりも友達と過ごす時間のほうが多いだろう。


雪はその見た目のせいで女の子からモテる。それは当然男の子たちには嫌悪されるわけで…。


小学校から今まで友達ができたことがなかった。


いや、正確には小学校1年生のときには一人いたのだけど。


その子も雪によってくる女の子目当ての、真の友達ではなかった。


それは小3のときに発覚するのだけど、それのせいで雪は下手に傷付くくらいなら友達を作らないと決めているのだ。


「ちゃんと僕を見てくれるような彼女がほしいな。」


普通の男たちは顔は……とか、性格は……とかたくさんの条件を異性に求めるのだが、雪の要求は一つだった。


『僕自身を見て欲しい』


容姿とか外聞きとかそんなのに群がる女子ばっかり。

彼に告白してくるのは、彼の容姿に惚れたものか、はたまた雪と付き合ったというステータスがほしい女ばかりだった。


「せめて名前くらいは覚えててよ…。」


雪が学校で生徒会長をやってるので、皆彼のことを『会長』と呼ぶ。

ずっと会長と呼ぶので、告白してきた子に本名を聞いたら、答えられないなんてこともしばしば。


彼は自虐気味につぶやいて再び空を見上げた。


「ゆっ、雪さん!!!」


星に見惚れていた彼はその一声で現実に引き戻された。


「はい、なんですか。」


見つかってしまったかと半ば諦めて、彼は声の主を見た。


いや、本当は見てなんていない。ただ顔をそちらに向けただけだ。


相手の容姿とかは全くと言ってみておらず、その代わりにその少女越しに奥の木々を見ている。


失礼なと思うかもしないけど、それがこの君乃 雪きみの ゆきという男なのだ。


心のなかでこのあとに続く言葉が何かを予想しながら、彼はニコニコと少女の方を向き続ける。


「私、2年2組の春猫 雪乃はるね ゆきのと言います。」


そう言い切って雪のことを見つめ雪乃。

雪は普通は挨拶なんてせずに告白してくるのに、この子はそこそこにまともだなと雪乃のことを心の中で再評価して、


「ご丁寧にどうも有難う御座います。僕は2年1組の君乃 雪きみの ゆきと申します。生徒会長をやっております。」


そう自己紹介を返した。

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