第2話 Prince call

「雪っち、誰と踊る?」


大柄な元気そうな少年が、小柄で大人しそうな少年へと飛びつきながら言う。


「いや、僕ら実行委員ですから。キャンプファイヤーに火をうけないとですから。」


さっとその攻撃を避けて、小柄な少年ーー君乃 雪きみの ゆきは丁寧に返す。


彼らはこの学園祭の実行委員。

しかも、雪は実行委員長だ。


その証に、彼の細いな腕には赤の『委員長』腕章がつけられている。


「仕事は火をつけたら終わるでしょ。その後よ。やっぱ雪っちカッコいいから選び放題?」


さっき雪に飛びかかったが山本が口をとがらせて反論する。


彼も雪と同じく実行委員の一人だった。


「ほら、そんな無駄口叩いてる暇はありませんよ。もうすぐちゃっきゃ………着火ですから。」


「ねぇ、噛んだよね?雪っち誤魔化したよね?」


このキャンプファイヤーの点火という大役を担うことに若干緊張した雪が噛んだのを見逃さず、中山が追求する。


「…………うるさいです。」


不機嫌そうにつぶやくと、雪は火種を持った。

時間は夜の6時。


夜……と言うには早い時間かもしれない。

夕方というのが最も当てはまるような時間帯だ。


空も夏のせいで、まだまだ明るいままであった。


「中山君、火を。」


雪は準備を終えて、後はチャッカマンで火を点けるだけにして、後を中山に託す。


「了解。」


ふざけた表情から一変、中山はキリッと真剣になると、ゆっくりとでも確実に火種へと火をともした。


「「「オォ!!!」」」」

「「「きたぁ!!!!」」」


生徒たちが待ちに待った点灯に歓喜の声を上げる中、


「ほっ」


雪は無事にことが進んだことに安堵の声を漏らした。


「皆さん、お疲れさまでした。この後は自由ですので、各々この最終日の貴重な時間をお過ごしください。」


中山も含めた委員会メンバーに声をかけて、雪はペコリと頭を下げる。


「よっし!じゃあ俺は彼女が待ってるんで!!お先っす!」


中山はその挨拶が終わる前に動き出し、うほぉっいと奇声をあげながら走っていった。


「会長!


その姿を苦笑いで見ていた雪に、委員会の女子から声がかけられた。


「どうかしましたか?」


普段通りの丁寧語で、雪は対応する。


「その…私と踊りませんか?」


少しの照れと恥ずかしさを秘めて、少女は言う。


「ごめんね。お気持ちは嬉しいんだけど………」


雪はまたこれかと内心あきあきするが、それを微塵も外に出さず丁寧にお断りしようとする………


「会長!!ならば私と!!」

「会長!!私も踊りたいです!」


が、そんな複数の声に遮られた。

驚いた雪が周りを見渡せば、数多の少女たちが彼を囲んでおり、その外側では男子たちが羨ましげかつ憎しげな視線を飛ばしている。


「その僕は………」


雪が心でため息をついて、その全員へとお断りの返事を返そうとしているのだが、


「会長…!」

「会長」

「会長」

「会長」


やはりその声はそんな会長コールに遮られた。

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