第1話 INTRODUCTION

人間には誰しも、『誰でも良いから助けて』と言いたくなる時がある。


私は今…………というか生まれてからずっとその言葉を言いたかった。


「やーい障害者!!」

「目隠しババア!!」


私がうつむいている間にも浴びせられる罵詈雑言。


それは私にとってのコンプレックスを揶揄するものであった。


本来なら触れられたくないそこは生まれてこの方常に、色んな人に抉られ続けて、もはや何も感じなくなっていた。


「すみません。」


ぽそりと呟いて、私は両手で抱えたバッグの端を握りしめる。


大丈夫、あとは帰るだけだから。


「えいっ!」


自分を励ました私は、すぐにこれを後悔することになる。


さっき暴言を吐いた男子が、私の前に足を出した。


私はそれに反応できるわけもなく、


「ッ…………」


そんな声を漏らしながら地面に転げた。


「アハハハ、虫見てぇ!!」

「ざまぁ!!」

「おい、写メとろうぜ!!!」


その姿を指さして笑う男子たち。

本当に、最悪な日々だ。

こんなのならもういっそ……。


「や、やめてください……。」


写真なんかとられたら、ネットにばら撒かれたり。校内にばらまかれたりされる。


それはかなりの精神的ダメージになる。

数回された経験から分かるその痛みを想像して、私はそう懇願した。


「はっ?何指図してんの?」


直後、そんな零度の声が響く。

数秒の沈黙がクラスを支配したが、その後、


「あーあ切れちゃった。拓哉切れると怖いんだぞー!アハハ」

「ハハハ、そうよそうよ、俺って怖いのよ?」


そんなあざ笑う声が再び響いた。

あぁ、やだよ。

殴られるのも蹴られるのも、叩かれるのも何もかも全て。

やられすぎて痛みを感じなくなった心が、このあと襲ってくる恐怖にビクつく。


「おら、立てよ!」


髪の毛を引っ張られて立たせられる。


「す、すみません…。」


私はどうにかこれから行われることを回避しようと、そう謝罪の言葉を述べた。

知ってるのに、こんなこと言ってやめてくれるわけないことを。

…………余計にひどくなってしまうことも。


「おうおう!!行くぞ!!!」


ロッカーに私の体を押さえつけて、男子が叫んだ。


あぁ、ダメだったんだ。

今日もまた、私は………。


諦めて私が目を瞑ったその時、


「やめろ!!!!!」


そんな幼い声が響いた。












ーーーー“雪”


私はその名を一生忘れないだろう。

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