第二十六話「世界を守る意味」

  Side 谷村 亮太郎


 僕は日本って言う国が嫌いだ。


 選挙に行かず権利を主張する日本国民や国民をATMと勘違いしている政治家や官僚って奴にもだ。


 直接手を下して滅ぼそうかとも考えた事もある。


 だけど滅ぼさなくてもやがて衰退して、滅びゆく。


 だから手を下す必要はないと思った。


 しかしどっかの独裁国家のような状況になるやら介錯してやった方がいいとも考えてる。


 だけど出来ない。


 大切な家族すら巻き込むのもあるし、ヘレン・P・レイヤーがいるのもある。


 いや、それは言い訳だ。


 心の奥底でまだ人を信じているからだ。


 平行世界の自分から受け取った人の素晴らしい一面が目に焼き付いて離れないのもあった。 


 そして――緋田 キンジ。


 絶望の中であっても前に進み続ける男。

 彼の存在とその周囲の人間が僕を変えつつある。


 僕は理解した。


 僕はどうして主人公になれないのか。

 主人公になってはいけないのか。

 ああ、なんてことはない。

 

 本当の主人公って奴は眩しすぎるんだ。

 周囲を明るく照らせる存在なんだと。


 人間は確かに醜い側面はある。

 同時に素晴らしい側面がある。

 

 藤崎君、平行世界の僕は君に憧れたのはそう言う理由だったんだ。


 Side 緋田 キンジ


 防衛チームと攻撃チームの振り分けが終わり、またしても敵が攻めてきた。


 今度はゼッター軍とアジア連にドラゴンクロウの大部隊だ。

 

 此方も戦力が整っているし、どうにかなると思った。


 その時だった。


「なにを――」


 谷村君がパワーローダー、シュトラールを身に纏った状態で一人武器を持たずに先行した。

 そしてオープンチャンネルで。

 あらゆる周波帯で彼は呼びかけた。


『どうも僕は谷村 亮太郎であります。


 この世界だけでなく、幾多の平行世界は今存亡の危機に立たされています。


 戦争を止めろとは言いません。せめて、ディアボロスを倒すまではお預けにしませんか?』


「谷村君……」


 彼は呼びかける。

 

『人と言う種族は戦争を、殺し合いを止められない愚かな種族なのでしょう。


 ですがそれを乗り越えてこそ、人は人である事の証明になると私は考えています。


 どうか、考えてください。なぜ自分は戦うのか。なぜ自分はここにいるのか。それを考えた上で決断してください』


 射撃の嵐を避けてすらいない。

 ただ受け止めながら谷村君は訴え続ける。


『こうなる事は正直分かっていました。訴えても無駄に終わるんじゃないかと思っていました。

 

 でも訴えずにはいられませんでした。


 このままでは永遠と蛮族のように殺し合いを続ける戦いになるからです。


 それを止めるには相手を殲滅するしかないのでしょうか?


 僕はそれに疑問を持つようになりました。


 戦いのための戦いなどもう沢山なのです。


 だから僕は訴えます。


 訴え続けます。


 それが徒労に終わろうとも。


 それが無駄に終わろうとも。


 戦いの意味を問い続けます』

  

 本音を言うと谷村君が言うように無駄な行為に思える。

 一方的に戦いを仕掛ける侵略者相手に何をしているのだと。


 だが同時に耳が、目が離せなかった。


 皆同じだ。


 敵に届いているのか分からない。


 だが確かに俺達には届いている。


 そして今もなお、攻撃に晒されながらも平和を訴え続けている。


 ウチの父親と母親が見たらなんと言うだろうか。

 尊敬するだろうか?

 それとも馬鹿にするだろうか?


『何が人に絶望しているだ――ちゃんと信じてるじゃないか――』


 俺は一人の少年の無謀な大勝負に乗ることにした。


『各員は敵の迎撃を最低限に!! 命を奪うな!! 敵の戦意を奪え!! 無茶なオーダーだと言うのは分かってる!!』


 それに応じて次々と味方が発進していく。

  

 皆が谷村 亮太郎を。


 一人の少年を守るために。


 その意思を尊重するために最低限の攻撃で戦いに身を投じていく。


『何をしている? 平和だの何だの言いおって――』


『こんな時にディアボロスか――』


 ディアボロスが現れた。

 その軍勢のモンスター軍団も

 敵味方の概念など構わずあらゆる陣営に襲い来る。


『ディアボロス。貴方は何故戦うのですか? 何故邪神として振る舞うのですか?』


 谷村 亮太郎の問いかけはディアボロスに対しても行われた。


『絶対的な力を好きなように行使して何が悪い? 滅ぼしてもよい世界など幾らでもある。永遠の破壊。それが我の望みよ』


『ソレが本心だと言うのなら僕は貴方と戦います』


『そんなボロボロの状態で武器も持たずにどう戦うつもりだ』


『言葉をぶつけ続けます』


『なに?』


『貴方だけではありません。ザイラム軍、アジア連、ドラゴンクロウ、自衛隊、Aliceの少女、バハムス帝国、ディメンションクロスにも言葉をぶつけます』


『何を言っている?』


『言葉の通りです。


 僕は偉そうに大人ぶって振舞っているけど中身は子供です。


 そんなに頭も良くありません。


 力あるのにその力を使って世の中を正そうとも思わない自分勝手な人間です。


 この状況下で平和を訴える身勝手な人間なのです』


『そこまで分かっていながらなぜ平和を訴え続ける』


『平和を訴えて、平和に手を伸ばさなければ、平和のために行動をしなければ本当の平和など勝ち取れないからです。


 それが例え偽善者の行為だと言われようとも僕は言葉を止めません。


 もし今ここで言葉を止めればそれは本当に偽善者として終わるからです』

 

『ならここで朽ち果てるがいい』


 俺は『不味い!!』と思った。

 ディアボロスの攻撃が来る。

 

『なっ!?』


 ディアボロスが驚愕する番だった。


 一部のアジア連、ザイラム軍の兵士がディアボロスに攻撃を始めたのだ。

 それどころかドラゴンクロウの人間もだ。一部動きがぎこちないグループもいる。


 谷村君の訴えが無駄ではなかったのだ。


『馬鹿な!?』

 

 ディアボロスにはそれ程ダメージを与えてはいないだろう。

 だがそれでも精神へのダメージは大きいはずだ。


『ええい、うっとおしい――まずはお前から葬り去ってくれる!!』 

 

『まずい、逃げろ!!』


 谷村 亮太郎に向かってディアボロスの極太の閃光が放たれた。

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