第十七話「密会」

 Side 緋田 キンジ


 フィア・バハムス皇子が一旦女性陣から解放された。

 久しぶりに会う――と言っても一月も経過してないが再開を喜んだ。

 

 女性陣から少し離れた場所で二人きりでお話しする。


「そういや国のほうはどうなんだ?」


「まだまだ復興の最中で、周辺諸国との関係も余談を許さない感じです。帝国内部でもデスモンドなどを筆頭に姿を消した連中もいますしね――」


 どうやら火種が燻っているようだ。


「こっちはまあ見ての通りだ。ディアボロスの出現で表面上は元気だが内心ではどうだかって感じだ」


「その話ですがグラン皇帝はどうやらディアボロスの存在に感づいていたらしいです」


「なんだと?」


 グラン皇帝。

 昭和のアニメに出てきそうな大悪党でとにかく滅茶苦茶な奴だった。

 まさか今更そいつの名前が出てくるとは思わなかった。


「より正確にはディアボロスやその他の進化した存在についても触れられていました。今となっては皇帝の野望にどう関わっていたのか分かりませんが……」


「どうせロクでもない事を考えていたんだろう。しかしあんなのが他にもいるのかよ……」


「そうなりますね」


 終末論が現実になったら今の自分のような感覚なのだろうかと俺は思う。

 あんなのが二体も三体もいる?

 出るジャンル間違えているような奴が?

 

「まあそれでもやらなきゃこの世界どころか数多の平行世界が滅んじゃうから僕も表舞台に姿を現したんだけどね」


 そう言って谷村 亮太郎が現れた。


「プレラーティ博士と同じく何か秘密抱えてるのか?」


「まあそんな感じだね」


 プレラーティ博士も中々に謎が多い存在だ。

 ただの天才科学者の少女で片づけられるような人物ではない。

 何となくだが谷村 亮太郎も普通では説明できないような存在ではないかと思った。


 そもそもただの高校生が自衛隊の最重要機密となっているこの場所に来てパワーローダーの強化改造を行う時点でおかしい。


「緋田さんはどうしてそう思うの?」


 と、谷村君が訪ねてきた。


「ほとんど勘みたいなもんだ――思えば――フォボスの最終決戦の時、フォボスの本体へと繋がるゲートを開いた時から疑問に思った。いわゆるハッキングって奴かなと思ったが……それでもゲートを開けるのが早すぎるように感じた」


 俺は「まあこれも想像でしかないがな」と付け足した。


「平行世界の自分の記憶と何らかの形でリンクしたんだと思うよ」


「てことはあのフォボスの製造には平行世界のプレラーティ博士が関わっていた?」


「そう考えるのが自然だけど証拠がない以上は憶測でしかないよ」


「……そうだな」


 複雑だが谷村君の言う通りだ。

 例えどんなに疑惑が濃厚がだろうが証拠を提示しなければやってないのと同じだ。

 そもそも今はプレラーティ博士の正体ではなく、谷村 亮太郎の正体だ。


「で? 何者なんだ君は?」


「――三十代のうだつの上がらない大人の。成れの果てさ。憑依転生を繰り返していく内に今の自分が誕生したんだ。プレラーティ博士もそんな感じじゃないかな」 


「憑依転生?」


 ここでフィアが疑問を口にした。


「条件は良く分からないが他の世界の自分に憑依する体質って感じかな? 僕の場合は最低でも4度ぐらいは憑依転生をしていると思うよ」


「していると思うって……」


 何だか人間の死生観がトチ狂うような話だ。

 本来なら笑い飛ばすような話だが――まるで日常物の児童文学とかで唐突に現れる魔女だの魔法使いに遭遇した気分だ。


「プレラーティ博士もそんな感じだと思うよ。何て言うかある日突然、自分の体が変化して知らない記憶や知識が流れ込む感じ。便宜上憑依転生って言ったけど実際はコピーペーストしている形になるんじゃないかな?」


「ちょっと話の内容がよくわからないです」


 フィアが言うが多くの人間はそう言う反応を示すだろう。

 正直俺は理解しちゃいけないような話に思えた。


「ここまで来ると命の概念とかの話に踏み込む感じになるね。例えば生物のプラナリアに魂があったとして、体を二等分したら魂も一緒に二等分されるのみたいな……」


 谷村君は「まあそれは置いといて今は進化した存在に対する対処が優先だね」と語る。


「ディアボロスの対策か?」


「ああそうだね。アレに対抗するにはAliceの少女やマジックメイルが相性がいい。パワーローダーで対抗するにはブラッド粒子炉とマシン・シンクロン・システムが必要になってくる。つまり精神エネルギーを具現化するマシンだね」


「大丈夫かそれ? 精神が崩壊したりしない?」


 そう言うロボットアニメが昔あったのだ。

 いや、わりと最近でもあるか。


「大丈夫。自分もそう言う機体に乗って前線に出てるから」


「戦えるの?」


 俺は当然の疑問を投げかける。


「勿論さ。身体能力はなろう系勇者レベルだからね。下手なパワーローダーで戦うよりも生身で戦った方が強いぐらいさ」


「なんだその例え――」


 なろう系ってお前……

 

「谷村さん実際とても強いですよ?」


 とフィアが助け舟を出すように言った。

 そこでふと思った。


「Aliceの子達やフィア達があの場に駆け付けられたのってもしかして――谷村君のおかげ?」


「そうだよ。まあ無茶しすぎて最終的にフィア君やAliceの少女達にバトンタッチする事になったんだけどね」


 つまり谷村君は自衛隊や俺達にとって大恩人になると言うワケだ。

 俺は「失礼しました」と頭を下げる。


「ははは、本職の自衛官にお礼を言われるのは照れくさいね。ともかく今は協力してディアボロスをどうにかしないと――でないとユナイティアどころか他の並行世界の存亡にすら関わるから」

 

 と、谷村君は言うのであった。

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