第十一話「連絡要員のエリオット」
Side 緋田 キンジ
アルバトロスの内部。
一個分隊分の人員、物資、パワーローダーとなると狭く感じる。
前はパワーローダー身に纏って搭乗したせいかもしれない。
リオやパメラ、パンサーはどちらかと言うとトレーラーを置いて来て不安がっている様子だった。(トレーラーは自衛隊預かり)
「狭くてごめんな」
「いいえ、かまいません」
俺は連絡要員として寄越された少年に謝罪する。
連絡要員として寄越されたのは一人の少年だった。
青いマジックメイル付きで名前はエリオット。
金髪のボブカットで大人しそうな中性的な顔立ちと華奢な身体つきが特徴だった。
年頃は中学生か高校に入りたてぐらいだろうか。
彼は狭い格納庫内をキョロキョロと見渡していた。
「そんなに珍しいのか?」
「は、はい。見る物全てが変わっていて、それにこう言う乗り物もあるんだなって思って」
「この世界に空飛ぶ乗り物ないのか?」
興味本位に尋ねてみた。
「ありますけどそんなに数はなくて――」
「ある事はあるんだな」
内心で俺は警戒した方が良さそうだと思った。
「何度か乗ったこともあるんですよ。異世界にもこう言うのあるんですね」
「まあ厳密に言えばウチの世界の物じゃないんだがな」
「え? どう言う事ですか?」
「別世界で手に入れた奴なんだこの飛行機。それを使っているんだ。パワーローダーにしてもそうだ」
「と言う事は他にも世界があると言う事なんですか?」
「まあな」
世紀末世界。
ヴァネッサの世界。
そしてこの世界。
3つの世界が確認できている。
「他の世界ってどんな場所なんですか?」
「説明が難しいな――」
口で説明するよりも一度見て貰った方が早いが、世紀末世界は油断すると死ねる世界だし、ヴァネッサの世界もフォボスとの戦いで荒廃して復興途中だと言う。
案内するにしても自分達の世界がいいな、などと考えた。
そもそも渡航許可が下りるかどうか不明だが。
「どうしたんですか?」
「いや、そもそも渡航許可とか下りるのかどうか考えていた」
「え? いや、そこまでしてくれなくても――」
エリオットは申し訳なさそうに慌てた素振りをみせる。
「まあ今はそれよりもゲートの事だな」
俺は話題を切り替えた。
「はい。また侵略の手を伸ばすんでしょうか」
「……正直今回の一件、上の方はどこまで介入していいのかどうか悩んでいる部分もあるが、俺個人としては出来る限りの事はしてやりたい」
「どうしてそこまで?」
「さあな。あの世界の影響なのかもしれない」
以前の自分ならこんな事考えもしなかっただろう。
だがあの世紀末世界での一連の出来事を経験してからずっとこんな感じだ。
それまでは税金泥棒な感じの自衛官だったのに。
「正直ー僕は、このままで良いのかなと思ってます」
「どうした急に?」
突然雰囲気が変わり、語り出すエリオット。
「本音を言えば悩んでいます。バハムス帝国は確かに間違っていましたが、クーデターと言う手段も間違いだと思ってます」
まるでこの国で起きている事に罪悪感を感じているように語るエリオット。
「……言わんとしている事は分かるが、君一人が考え込む事じゃないだろ」
その姿に疑問は覚えるが俺はそう言った。
もしかするとエリオットは今回の一件に深く関わっているかもしれない。
ただそんな風に思っているだけかもしれないが。
だがどちらにせよ、国の責任を少年一人に全ておっかせぶるのは間違いし、まるで自分だけの責任のように考えるのも間違いだとも思う。
「でも……」
「なあに。なる様になるさ」
「自分は、そんな風には考えられないです」
(真面目なんだな)
などと思った。
「ならば迷えばいいさ。一緒にいる限りは愚痴ぐらいは聞くよ」
「え?」
「世の中、絶対に間違っている事は分かるが、何が正しいかなんて完全にはわかりゃしないもんさ」
「……なら、どうすれば?」
「一人で抱え込まない事かな。少なくとも今の俺は仲間達がいたからここまで辿り着けた」
「仲間達……」
「まあ、俺が言えるのはこれぐらいだよ。連絡要員君」
そう言って準備に取り掛かる。
エリオットは「えっ」と目を丸くしていた。
☆
パワーローダーを身に纏い、秘匿回線で同じくパワーローダーを身に纏っているキョウスケと会話する。
『中々いい兄貴役してたみたいだな』
開口一番キョウスケにそう言われた。
「そうか?」
『それよりもあのエリオットって奴――もしかして――』
「気のせいかも知れないし、そうじゃないかも知れないが――そう言う可能性は考えておいた方がいいだろう」
キョウスケも同じく感づいているようだ。
あのエリオットと言う少年からは*アーティス(リビルドシティの代表者)と同じような雰囲気を感じた。
勅勘的な物だがただの連絡要員ではないだろう。
『一先ずその事は脇に置いといて今はもう一つのゲートに集中しようぜ』
「そうだな」
もう一つのゲート。
一体何が待ち受けているのだろうか。
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