決戦前の一時

第八十一話「世界の危機」

 Side 緋田 キンジ


 俺達はグレイヴフィールドの自衛隊基地へ戻り、そこから日本へと戻った。


 隊員とは一旦解散。


 キョウスケの家へ向かう事にした。


 もちろんリオやパメラ、パンサーもいる。


 ヴァネッサはアーティスの付き添いなどで席を外した。


 こうして休暇を取ったのは何となく、決戦の予感を感じ取ったからだ。

  

 日本のテレビもネットも相変わらず、世紀末の世界の情勢などお構いなしだ。


 芸能人が結婚しただの浮気しただの、支持率がどうとかだの、次の選挙の争点だのなんだの。


 中には――何処かから漏れたのか、リビルドアーミーとの全面戦争について言及している番組などもあったが、話し合いで解決だの、武力で戦うしかないだの、最後は自衛隊に丸投げな議論をしている。


 まあ平和な国とはそう言う物かもしれない。


 本当に全面戦争が始まる前とは思えない状態だ。


 基地の周辺では相変わらず反戦団体の集会所と化している。


 まあそれはともかく、前回の例もあるのでパワーローダーや武器などを持ち込んでいた。

 

 またフォボスの連中がこの世界に秘密基地なりなんなり作っていて、掃討作戦に駆り出されたら大変だからだ。



 手続きが完了するまで、日本側の基地内で過ごしていると呼び出されて――


「で? またおたくか?」


 公安の女性――謎の女Xと出会った。

 ソファーに座ってくつろいでいる。

 相変わらず黒尽くめで怪しさ全開だ。 


「はい――例の件、フォボスについてです」


「世界中にでも現れたか?」


 冗談めかしに言いながら俺も反対側のソファーに座る。


「正にその通りとしか言いようがない状況でして――日本国内にも複数」


「まじかよ――」


 そんなとんでもない事になっていたのか……


「今は極秘事項として扱っていますが、情報が市民に洩れるのは時間の問題でしょう」


「……どうするんだ? 世界中回って虱潰しに潰していけとか言うんじゃないだろうな?」


 正直嫌だぞ――体力的にも精神的にももたん。


「ありえないでしょうね。どこの国も超テクノロジーが欲しくて独占しようと考えるでしょう。まあ結果は散々ですが――」


「どうして結果が分かるんだ?」


 独占云々は分かるが結果が分かるのがどうしてだと思った。


「それだけ目に見えて分かる大被害が出ているからですよ。国によっては弾道ミサイルや爆撃機が撃墜されたりしてます」


「だろうな……」


 フォボスの戦闘力は身を持って知っている。 

 21世紀地球の科学力でどうかにするにはテクノロジー差を理解した上で持久戦に持ち込んでハイテク兵器による大部隊を投入して戦うしかない。


「そう言えば俺達が破壊したフォボスの残骸はどうなっているんだ?」


「あれから解析しましたが――」


「その様子だと有益な情報も技術も得られなかったんだな」


「はい」


 中々上手くいかないらしい。


「今話したこと全部、耳に入れてるのは?」


「この基地の主だった人間には――」


「そうかい――」


 てことは佐伯 麗子の奴も知ってたに違いない。

 休暇させたのもこれ絡みだったんだろう。


「最近、国の終わりではなく、世界の終わりと言うのを感じています。その命運をこの世界にいる自衛隊に丸投げする他ないのが今の状態です」


「日本政府はどうしてる?」


「ハッキリ言って混乱状態で、収拾がつかない状態です。アテにはなりません。自衛隊も戦力が日々減少している状況です。他の国も似たような状況です。第3国にも出現情報があります」


 まあ想像通りだ。

 まともな国家でも対応は難しいだろう。

 まともでない国に対応は酷だと言うものだ。


「リビルドアーミーとフォボス、両方相手にしなきゃならんのか――」


 酷い状況だ。

 考えようによっては他国の横槍が入る余地などないだろう。

 

「幸いなのは拠点を攻撃、あるいはする素振りを見せなければ攻撃してこないのですが、何時襲ってくるか分からない状況です――」


「……はあ、親への反抗で自衛隊に入った罰が当たったか……まさか世界の命運なんてもんに関わる事になるとはな」


「フォボスと対決するつもりで?」


「敵の本拠地の凡その位置も分かっているからな。それにもう俺は向こう側の世界の住民だ」


「そうですか……私から伝えられる情報は以上です。せめて休暇中の安全は我々が確保します。幸運を」


 そして謎の女Xは退席した。


 ふと俺は思った。


「俺も、現実に向き合ってみるか――」


 やり残しはよくないと思い、俺はある事を決意した。

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