第六十九話「狭山 ヒロトのお話」

 Side 緋田 キンジ


 来客者である自分を出迎えるために四階建てのコンクリート建造物に招かれた。

 しかもエレベーター付き。

 

 部屋にはソファに絨毯、カーテン、ドリンクサーバーなどが色々と置かれている。


「改めまして初めまして。狭山 ヒロトです。高校二年生でなぜかこの土地に跳ばされて頑張ってきました」


 そして傍にはメイド服を着た美女がいる。

 青く長い髪の毛。

 ボリュームあるバスト。

 あんまりじろじろ見るとリオから冷たい視線を向けられそうだ。


「私はサポートアンドロイドのシズクです。狭山様の補佐をさせて頂いています」


「あ、アンドロイドなのか?」


 俺はその事に驚いた。

 狭山君は苦笑しながら「他にも仲間はいますが代表して連れてきました」と言った。


「本題ですけど――自衛隊はどうしてこの土地に?」


「あ、そこからなんだ――」


 狭山君は此方の事情をあまり知らないようだ。


「まあ異世界から来たことまでは知っている感じですが」


「ちょっと長い話になりそうだね」



 そこから長い話になった。

 

 簡潔に言えば狭山 ヒロトはこの高級住宅街に飛ばされて、アンドロイドのシズクに出会い、一緒にこの高級住宅街を中心にして発展させていったそうだ。


 建造物などはドローンが作ったらしい。


 そこから化け物やら野盗やらと戦ったり。


 リビルドアーミーに目を付けられたりしながらも頑張ってきたようだ。

 


「ヴァイパーズは壊滅して、リビルドアーミーと全面戦争中で、オマケにフォボスって言う奴が暗躍しているんですか……」


 と、狭山が嫌そうに言う。

 逆の立場で考えてみれば厄介ごとを持ち込まれたのと同じだ。

 この反応は当然だろう。


「だけど狭山様、これは渡りに船と言う奴では?」


 シズクさんはそう言うが――


「でも今更、日本の法律を押し付けられるような真似をされるのはどうかと思うんだけど」

  

「あ~そこか……」


 狭山君は意外と政治家の素養もあるらしい。

 自衛隊と協力体制を取るとその流れで従属を強いられて日本の法律を押し付けて町の運営を行う事を危惧しているのだ。


「どうする? キョウスケ?」

 

 困り顔でリオも顔を向けてくる。


「まあ今、この世界で使わせてもらっている自衛隊基地の周辺と考えればいいだろう。日本の法律の適応外さ」


 そして最後にこう付け加える。


「政治家やら外交官がしゃしゃり出て脅迫染みた真似をしても突っ撥ねればいいだけだし」


 と、言い終えるとホッとしたように「無理やり連れ戻すとかそう言うの覚悟してたんですけど――」と言ってきた。


 こう言う心配するのは仕方ない。

 この世界で長く生きてないと分からない感覚だろうが、この少年は俺以上にもうこの世界の住民なのだ。


「特殊な事情で自衛隊への視線は色々と厳しいからな。それに政治家先生方はリビルドアーミーとのイザコザやらフォボスとの一件で色々と忙しいし暫くは大丈夫だよ」


「ホッとしていいのやら悪いのやら」

 

 狭山君がホッとすると――


「一種のハーレム状態ですもんね」


 唐突にメイドロボのシズクさんが爆弾を投げてきた。


「そ、そう言うのじゃないから?」


 慌てて否定する狭山君だが俺は「は、はーれむ?」とちょっと思考停止してしまった。


「ああ、それはね」


 助け舟を出したのはリオだった。


「この世界は法律なんてない、武力が物を言う世界だから――政略結婚って言うんだっけ? そうやって信頼関係を築く手段とかあるの。弱い集団が強い集団に取り入ったりするためのお決まりの方法だね」


「成る程な……そう言えば俺達が足を運んだところって強い武道派な集まりばかりだったな」


 俺はまだまだこの世界の事について理解に及んでなかったらしい。


「うん。皆、必死だったよ。今は大丈夫だけど、体を差し出すから村を救って欲しいとか、今後こういう関係を続けていくためにも結婚してほしいとかさ――」


「だけど皆様はまんざらでもないかと」


「でも日本に帰れるようになったし、一度親に顔を見せた方がいいかなとかは思ってるんですよ」


(親か……)


 当然の事を言う狭山君に対して俺は複雑な気持ちになる。

 あの屑両親は今頃何をしているのだろうか。

 

「ここに残りたいか?」


「はい。ここに残りたいです――ふと思ったんですけど自衛隊が管理しているゲートを使用するにはどうすればいいんですか?」


「とにかく自衛隊の上の方と接触する必要があるな。五藤陸将は話が分かる人だし、何なら公安の人もつくと思うから」


 公安の女X、彼女も今は何してるんだろうな。


「そうですか――あーよかった」


 一通り話し終えたところでサイレンが鳴り響く。

 

「敵襲か?」


「はい。何が来たかは分かりませんが、未だに不安定ですから中々離れられないんです」


「成る程な――」


 元の世界に帰るのも色々と問題がありそうだなと俺は思いつつ戦闘態勢を整えるために走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る