第四十二話「小休止」

 Side 緋田 キンジ


『こいつら相手が生身だろうがなんだろうが殺して回ってやがる!?』


 キョウスケの言う通り、三つめの黒いパワーローダーは人間だけを殺すマシーンのようだ。

 それに底知れない不気味さを感じる。

 陣地は半分は既に逃げ遅れた自衛官達による血の海であり、遠くの方ではマスコミのヘリが市街地に落下している。

 救助作業などしている暇もない。 


『まるで幽霊みたいなユラユラと!!』


 相手の動きは幽霊のように左右にユラユラと動いていてまるで幽霊を相手にしているようだ。

 機動力もあり、狙いも正確で装甲も厚い。

 狭い陣地内を何の障害も感じていないかのように駆け回っている。


『接近戦だけでどうにかなる相手じゃねえぞ! 陣地からの撤退はまだか!?』


 キョウスケは悲鳴のように叫ぶ。

 確かにキョウスケの言う通り接近戦だけで勝てるような相手ではない。

 一旦後退するかどうか悩んだ。


『なんだ!? 戦闘ヘリに機甲部隊!?』


 俺は驚いた。

 味方の戦闘ヘリに装甲車や戦車。

 完全装備の歩兵が雪崩れ込んで来たからだ。


『援軍!? こんなに早く!?』


 キョウスケも驚いた様子だった。

 敵も一旦後退する。


『こちら、女クソ上司こと佐伯一尉。その部隊は後方で待機して難を逃れた部隊だ――』


『そうかい・・・・・・』


 それだけ返しておいた。

  

『こちら小林一佐だ。第13偵察隊は臨時に編成した守備隊の援護を頼む。その間に我々は生存者の救助を行う』


『了解――』


 ふと俺は突入する事を進言しようかと思ったが、ここはあの荒廃した世界ではなく日本で小林一佐も本格的な実戦は初めてだ。

 

 それに自衛官はなんだかんだ言って軍事組織であり、上の命令は絶対である。

 

 俺達も隊員やリオ達に態勢を整える時間を与えたかった。


『あいつらひでえことしやがる・・・・・・軽く地獄絵図だぜ』


 キョウスケの言う通りパワーローダーの武器で殺害されたら人間はどうなるだろうか想像するまでもない。

 

『緋田隊長、これからどうするんですか?』


『水瀬(第13偵察隊のWAC)か。上からの命令でもあるしな。このまま待機する。長丁場になると思うから武器、弾薬、体の管理はしっかりな』


 そう言い終えると俺は『佐伯一尉、境界駐屯地から支援物資を回せますか?』と佐伯一尉に通信した。


『お互いよく生きてたな・・・・・・言われずとも手配済みだ。このままだと味方の被害が拡大する。最悪強行突入する心構えでいてくれ』


『やっぱり貧乏くじ引かせおって・・・・・・了解』


 心の中でくたばれクソ上司と毒付きながら通信を切る。


『俺達だけで強行突入? 凄い無茶振りな任務だな。これで死ななかったら奇跡だろ』


『まあな――』


 キョウスケの意見がもっともなんだろう。


『聞こえますか?』


『今度はXさんか――どうぞ』


『上の方は事態をより厳重に受け止めたようで増援を派遣するつもりのようです』


『気持ちは感謝するが、ヘタに増援を送り込んでもこの辺り一帯が死体かスクラップの山になるのは覚悟しておいた方がいい。少なくとも増援はパワーローダーで完全武装した第7偵察隊クラスじゃないと余計に被害が出るぞ』


 第7偵察隊。

 宮野一尉率いる部隊でシップタウンでの防衛戦から久しく会ってないが腕は確かな部隊だ。


『アナタ程の実戦経験者がそう言うのならそう言うのですね・・・・・・手配するように進言してみます』


『頼む――』


 それだけ言って通信を切った。


『なんだかんだで隊長が板についたな、キンジ』


『不本意ながらな』


 そう返しておいた。


 次の作戦をどうするかまで時間はあるだろう。


 それまでどうするか。

 

 その前に敵の襲撃がこない事を祈ろう。

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