第四十話「将来」
Side 緋田 キンジ
とりあえず棚上げして都会に行くことにした。
何時も通りすぎる人々の日常は彼方での出来事が嘘のようだ。
彼方の世界の出来事など、この世界の人間にとっては嘘なのだろう。
リオ達は彼方此方町を見てはしゃぎ回っている。
そうそう。
Xさんによると謎の武装勢力は此方の呼びかけにも全く応じず、容赦なく攻撃を加えてくるだけらしい。
海外からの工作員やジャーナリスト、マスコミも消されているらしい。
もうこれは運が悪かったとしかいいようがない。
Xさん曰く、警察も自衛隊を抑えるのは時間の問題のようだ。
特に自衛隊――上の方は何を焦っているのか戦闘ヘリや戦闘機、戦車や装甲車などを送り込もうとしている。
そしてどう受け取っていいのか、米軍も本格的に動こうとしているらしい。
ぶっちゃけもう米軍に丸投げした方が手っ取り早い気もしたが――向こうの世界の戦いを経験した身としては、米軍ですら敗北する予感はしている。
米軍が最強なのは大規模かつ真っ当な戦争の時であり、高品質かつ高性能な軍事兵器を大量に運用し、それを末端の兵士に行き渡らせる程の財力と維持力、そして強力な戦力を的確に運用する能力があってこそだ。
最強ではあるが無敵ではない。
例え同盟国であっても、他国で大規模な部隊展開など出来る筈がない。
爆撃機や大陸間弾道ミサイルを持ち込んだとしても何かしらのイヤな予感が付き纏う。
「リビルドアーミーの一件が一段落したと思ったら一気にまたきな臭くなったな」
「ああ、そうだな」
隣にいたキョウスケも同意した。
だがキョウスケは「だけどな」と言葉を続ける。
「あれこれ考えても仕方ねーと思うんだけど。今は休暇を楽しもう」
「まあな・・・・・・」
遠回しに自分らしくないと言われているような気分だ。
両親とあんなことがあったせいもあるのかな。
☆
ふと気がつけばリオとショッピングモール内で二人きりになった。
キョウスケとヴァネッサが気を遣わせてくれたのだろう。
「こう言う世界で住んでたんだ・・・・・・キンジって」
「まあな。でもタマにあっちの世界が恋しくなるのはなんでだろうな」
荒れ果てたあの世界。
それが何故だか恋しくなる時がある。
どうしてかは分からないが、そう言う時があるのだ。
「私も・・・・・・変なのかな?」
顔を真っ赤にしてどこか色っぽい感じで言われる。
「さあな。だけどそう言う選択の自由はあってもいいと思うぜ」
「そう?」
「ああ、おかしいことじゃないと思う」
「――ありがとう」
心がドキドキするような微笑みをリオは返してくれた。
「どういたしまして」
俺は照れくさくなって視線を逸らしてそう返した。
☆
Side キョウスケ
都会に来て色々と買い物に付き合う。
そしてショッピングモール内でパメラと二人きりになる
気を利かせてパンサーとヴァネッサが席を外してくれた。
まあ悪戯心かもしれないが。
「正直、私と結婚するってどうよ」
「なんの脈絡もなくとんでもない事をいうな?」
ド直球すぎて呆れたわ。
「だって私、その、リオやパンサーとは違ってその――何て言うか、地味だし――」
「俺は可愛いと思うけど――」
「そ、そう」
「結婚か・・・・・・」
ふと緋田 キンジの奴の事を思い浮かべる。
もうそろそろ腐れ縁解消してもいい頃合いかもしれないなと思った。
実家の仕送りも十分してるしな。
ここらで自分の人生って奴を考えてもいいかもしれないと思ったのだが――
「どうしたの?」
「いや・・・・・・ずっと、なんだかんだでくそ真面目に生きてきたせいでな。夢とか将来の目標みたいなもんみたいなのが思いつかないんだわ」
「将来の目標?」
「ああ。子供の頃は好き勝手に色々と考えたけど――年齢重ねるごとに現実って奴を知って、妥協点探して自分を誤魔化して生きている。そんな感じがしてな」
「そうね-――私達はつい先日まで危険を厭わずに生きるために戦ってきた。皆そう。それが当たり前だった。あなた達の御蔭で私もそう言うのを考える事ができた。だから結婚とかも考えられるようになった」
「結婚ってそんな簡単に決めていいものなのか?」
俺は呆れながら言うが。
パメラはムッとなって顔を真っ赤にして
「じゃあ逆に聞くけど結婚ってどう言う時に決めたらいいわけ?」
「それを言われると困るな――」
「でしょ?」
「だけどもうちょいお互いの事を知ってから、その、結婚? してもいいと思うぞ」
「なんかキョウスケ結婚から逃げてるみたい」
「かもな」
俺が父親になる。
実感が湧かなかった。
キンジはどうなのだろうかと気になってしまうが――
(まあキンジはキンジ。俺は俺だよな)
俺は改めてそう考えた。
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