第三十七話「キョウスケの家に」
Side 緋田 キンジ
キョウスケの家は久しぶりだ。
田舎の町工場と言う奴らしい。
キョウスケが機械いじりが得意なのはこの辺りが原因だろう。
喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、キョウスケの家はとある事情で裕福だったりする。
と言うのも日本は超少子高齢化社会でその波は職人業界にも及んでおり、また日本政府と言うか日本の社会も日本が技術立国でありながら技術社や職人を冷遇する社会体制なのも拍車を掛けており、キョウスケの家はある種の独壇場なのである。
だけど歳には勝てず、引退も視野に入れて農業に手を出し始めたようだ。
「へえ~ここがキョウスケの家なんだ」
「中々良い感じの家じゃない」
「綺麗な家が多いけどなんかウチら好みって感じ」
リオ、パメラ、パンサーの順で反応した。
キョウスケは苦笑しながら「念のため言うけどここに止まるワケじゃないからな」と釘を刺して隣の綺麗な家を指さした。
「あらま、キョウスケってば。こんな可愛い子をこんなに連れてくるなんて――」
家に上がってキョウスケの母さんに挨拶したらすっかりハイテンションになった。
父さんも「自衛隊の仕事大変だって聞くけど、本当に大変なのか?」とあきれ顔した。
「それにキンジちゃんも一緒に――」
「どうも――」
どちらかと言うとキョウスケの母親の方が実の母親らしく感じている。
「どうもヴァネッサです。宗像 キョウスケさんの仕事仲間です」
そしてやはりくっついてきたヴァネッサ。
もう俺は色々と諦めた。
「あらまあご丁寧に。このお嬢さんも向こうの世界で知り合った人かい?」
「まあそんな感じだ」
と、キョウスケは苦笑しながら答える。
本当になんなんだろうな、この女は。
「ちょっと兄貴!? この美女軍団はなんなの!? 剣と魔法のファンタジー世界じゃ無くて暴力が支配する世紀末の世界じゃなかったの!?」
ここでオカッパ気味のヘアースタイルのキョウスケの妹が搭乗する。
宗像 マユミ。
女子高生でリオやパメラ、パンサー達と同い年ぐらいだ。
他にも宗像 ユキがいたが都会の大学とかで上京したと聞いたな。
☆
Side 宗像 キョウスケ
久しぶりの実家だ。
やはりと言うかリオ達の事をあれこれ聞いてくる。
途中からヴァネッサが間に入って応体してくれた。
そして妹のマユミはと言うとリオ達と早速意気投合していた。
問題はキンジだが――
「大丈夫かキンジ? おたくの両親が来たらどうする?」
「そん時は腹括って俺が相手するよ」
「オーライ。そっちの方が助かる」
緋田 キンジは両親が嫌いだ。
まあ当然だ。
両親が左翼よりのせいで大変な人生を歩んできたからな。
同じ立場だったら間違いなくグレてるか洗脳されているだろう。
だがキンジは幸か不幸か賢い奴だった。
もしかすると天才少年と持て囃される人間だったのかもしれない。
それが両親との軋轢を生んだ。
それがなければこうして腐れ縁は続かなかっただろう。
全く持って人生って奴は分からんもんだ。
正直複雑だ
☆
Side パメラ
(ここが日本の住宅――それにキョウスケの家か・・・・・・)
キョウスケとは何だかんだで馬が合う。
よく一緒にパワーローダーを整備する仲でもある。
気がついたらリオとキンジのように恋したい仲になっていた。
「ねえねえ、三人はあの二人とどんな仲なの?」
と、キョウスケの妹さんのマユミが尋ねてくる。
「死にかけてたところを助けてからずっと行動を共にしてるの」
パンサーが代表して答えた。
強ち間違いでもない。
「私はキンジと結婚してもいいかなって思ってるの」
「私はキョウスケとはどうかな~?」
リオに釣られてキョウスケとの仲を考える。
マユミは顔を真っ赤にして驚いた様子だった。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待って? 二人とも、ちゃんと意味分かってる?」
「あ、そう言えばこの国では私達ぐらいの年代の子が結婚するのって珍しいって聞いた」
思い出したかのようにリオが言った。
「マユミはそう言う相手いないの?」
パンサーがマユミに尋ねた。
「い、いないわよ!? そっちこそどうなってるのよ!?」
マユミは顔を真っ赤にして尋ねた。
「って言われても、大体私達ぐらいの年齢の子が結婚するのって普通だし?」
パンサーが代表して言うと「本当に違う世界なのね・・・・・・」とマユミは呆れたような様子になりながら続けてこう言った。
「――やっぱり人も殺したり?」
「うん」
「殺さないと殺されるしね」
「安心して。誰彼構わず殺すってワケじゃないから」
「正直信じられないというか話がぶっ飛んでると言うか・・・・・・」
顔を真っ青にして少し後退った。
人を殺さずに一生を終えるのが普通の国だと聞いていたが本当らしい。
それだけここは平和なのだろう。
「その辺はキンジかキョウスケ辺りに聞くといいよ。つかそれを言うならキンジもキョウスケも結構殺してるよ?」
ここでパンサーは新たな話題を出した。
「そ、そうなの?」
「うん。この前の戦いで敵も味方も大勢死んだし」
パンサーの言う通り、リビルドアーミーとの戦いは本当に危なかった。
特にキンジは危うく死にかけたらしいし。
「あ、もしかして――何か生中継の戦闘の後、なんか駐屯地に大量の兵器や武器、弾薬が運び込まれて、大量の殉職者が出て――大規模な戦闘があったって聞いたけど、それかな・・・・・・」
「あ――たぶんそれだと思う」
マユミの説明にパンサーはそう答える。
「キンジも兄貴もどうしてそんな危ない目に遭わなければならないんだか・・・・・・ちょっとしか観れてないけどまんまSF映画の戦争だったし。あんな危険な目に遭ってまでどうして戦おうとするのかな――」
「本人に聞けば?」
マユミの悩みにパンサーはそう返した。
「そうなんだけど――そもそも兄貴はウチの家系とか私達の学費を稼ぐために自衛隊に入ったんだし、あんな激しい戦争にいくなんて聞いてないよ。遺族も怒るよ」
「これはキンジの受け売りだけど、自衛隊は武装した災害救助隊でも便利屋でもなくて、有事の際に戦う組織なのが仕事だって聞いていた」
リオが模範的に答えるが――
「確かにそうなんだけどさ・・・・・・」
「それにあの世界に行った志願者は覚悟して戦う道を承諾している。あまりどうこう言うと彼達を汚すことになる」
言い淀むマユミにリオが続けてそう答えた。
「そんなこと言われても分からないよ・・・・・・なんか妹の私より兄貴の事理解してない?」
「それは分からないわ。けど、彼達も好き好んで戦ってるワケじゃないと思う」
と、リオは言った。
私はと言うとリビルドアーミーとの決戦前後の事を思い出しながら
「そうね。ジエイタイの人達、死ぬかもしれないのに泣きながら私達の事を心配してくれてたもんね――泣きながら水とか食料とかただ同然で放出してさ――」
だけどそれが私達の、皆の覚悟を決めた理由の一つになった。
「あの土地で出会ったジエイタイの人達は何て言うか、ほっとけないって言うか、馬鹿正直って言うか、なんなんだろうね。最初は物資があるからそう言う態度に出れるんだと思ったんだけど――平和な日常に身を置いておきながらジエイタイになる道を選んだからこそ辿り着けたのかな?」
パンサーの言ってる事は私達の意見を代弁してくれていた。
自衛隊を否定する大勢の人間。
様々な物で溢れた町。
銃を持たなくてもいい、人を殺さなくてもいい平和な日常。
こんな世界でも、この国でも私達よりも酷い貧困の暮らしをしている人間はいるらしい。
そう言うことをキチンと伝えてくれる辺り、キンジもキョウスケもお人良しなのだろう。
過度に夢を見てショックを受けないように。
「ねえ、マユミ。教えてくれない?」
私は勇気を振り絞って言った。
「え? なにを?」
「この世界のこと。学校とかのこと。色々と教えて」
私はマユミにそう頼んだ
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