第三十六話「公安の女、X」

 Side 緋田 キンジ


「しかし――駐屯地の周辺はアレだけど人が多いな。外国人の姿も多いぞ」


「たぶん異世界特需って奴じゃね?」


 今近所のショッピングモールにいる。

 流石に市民団体の連中はいない。


 だが人で賑わっており、外国人もよく見掛けられる。

 スパイかジャーナリストか――あるいは物好きな観光客であろうか。


「核で武装した軍隊が異世界から攻めてくるのに観光ってか? 呑気だね」


 キョウスケに愚痴を漏らすが、


「まあそんだけ平和ってこったろ」


 と、キョウスケは返した。

 俺は「そうかねぇ」と返す。


 今いる場所は子供向けの玩具屋だ。

 ヴァネッサが引率役で――特にロボット系のプラモやゲーム機の映像とかに興味津々だ。

 

「つかキンジ、SNS覗いてみたけど早速あの三人話題になってるぞ」


「うわ本当だ――」

  

 市民団体相手に口論になり、胸倉を掴み挙げてツバを吐きかけたことまで書いている。


 しかもそれをやったのが向こう側の世界の住民であることもバッチリ書かれていた。


 さらに一部始終がバッチリ録画までされている。

 たぶんあの場に居合わせた客が撮影したのだろう。


 多少の否はあるが、概ねあの三人娘に賛同がなされているのが救いか。


 もちろん彼女たちが向こうの世界の人間なのかどうかについても議論が起きている。

 エルフ耳とか角とか羽とか生えてるとか分かり易い特徴はないのだからこれは当然だろう。

 見た目はタダの女の子だ。


「・・・・・・気づいてるとは思うが」


「・・・・・・ああ、だけどまあ放置でいいだろう」 


 バス停辺りから付けられてる。

 敵か味方かは分からないが。


「流石ですね。此方の尾行に気付くとは」

 

「あーおたくは?」


 黒服のスーツ姿の女。

 黒いサングラス。

 長い黒髪の美女。


 全身黒尽く目でとても怪しい。

 怪しすぎて逆に怪しまれないのではとか想像してしまう。


 そんな俺の思考を読み取ったように彼女はこう言った。


「公安の女、Xです」


「「怪しいわ!?」」


 公安の女、Xってなんだ。

 メチャクチャ怪しいわ。

 怪しすぎてGの13のスナイパーも引き金を引くのを躊躇うレベルだ。

 

 そもそも公安の人間が堂々とこんな怪しい格好をして人通りの多い場所で所属を明かすだろうか。


「なあ? この姉ちゃん本当に公安か?」


「いやいや、そう言うコスプレイヤーかもしんないんだろう? てかもしかしてあちら側の世界の住民? それともヴァネッサの知り合い?」


「あ――」


 キョウスケのヴァネッサの知り合い説を出した途端、なんだか納得してしまった。


「お二人の疑問はもっともです。だけど安心してください。私はアナタ達の味方です」 


「なにを安心して信用しろと?」


「だけどここまで逆に怪しいと一周回って信用できるのでは?」


「おい、キョウスケ――気は確かか?」


「逆に考えるんだキンジ。何か起きたらこいつのせいにすればいいんだって」


「あ、確かに」


「お二人とも女性の前で不穏な会話を堂々としないでもらえます?」


 俺は「その元凶が何を言うか」と返し、キョウスケはキョウスケで「もっとこう、スパイ映画とか観て勉強した方がいいんじゃ?」と返した。


「まあいいです。コンビニの一件はどうにか処理しましたけどなるべく問題は起こさないで欲しいですね。特に緋田さんは間違っても実家には近寄らないでくださいよ」


「分かってるよ。両親とあいつらを引き合わせるのは火薬庫に爆弾投げ込むようなもんだ」


 俺はもう謎の女Xが公安の人だと言う前提で話を進めることにした。

 

「それとさっき、ヴァネッサさんの名前が出ましたけど知り合いでしょうか?」


 それを聞いて俺は、


「なに? オタクらとも知り合いなの?」


 と、尋ね返した。

 ヴァネッサさんと知り合いらしい。 


「はい。コンタクトを取ってきました」 


「本当になにもんだ」

 

 キョウスケの言う通り本当に何者なんだ。

 ヴァネッサは。


 謎がどんどん出て来る。


「それと実は――休暇が一段落した後でいいですから第13偵察隊の人達に頼みがあるんです」


「頼みだって?」


 なんかイヤな予感がしてきた。 

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