第十九話「ヴァネッサと言う女」
Side 緋田 キンジ
「どうも、突然すみません。わたくしヴァネッサと言うものです」
日本の説明会も一段落したところで現れた闖入者。
名をヴァネッサと言うらしい。
何て言うか会社のキャリアウーマンだか出来るOLのような雰囲気が漂っている。
短いピンクの髪の毛に程良い大人の魅力を感じさせるナイスバディな体付き。
この世界相応の、世紀末ライズ(継ぎ接ぎ、当て布、汚れ)された堅そうな黒いスーツにスカートにブーツ。
太もものホルスターには拳銃が収まっている。
何というかとても怪しい。
現代日本人が無理して世紀末風キャリアウーマンのコスプレしているような違和感を感じれた。
「アナタ何者?」
とリオが尋ねる。
「ヴァネッサです。リオと緋田 キンジさんとお近付きになりたくてこうして接触を図った次第です」
「正直言って胡散臭いぞ」
「キンジの意見に同意見・・・・・・周囲にいる何人かはアナタの手下?」
そう言われて俺は周囲を見渡す。
確かに此方をチラチラと遠巻きに様子を伺っている奴はいるが。
「流石リオ様。お見破りになられましたか。安心してください。ここはグレイヴフィールドです。ここでドンパチすれば今後の商売だけでなく、私の生命にも危険が及びます」
「あなたもしかしてリビルドアーミー?」
リオが俺が言いたいことを尋ねる。
「そうとも言えますね。リビルドアーミーがブイブイ言わしてややこしい事態になる前にこうして私が接触して下調べにきたんです」
「リビルドアーミーとは違う派閥みたいなもんか?」
「その認識でかまいません。いや~話が早くて助かります」
図々しいがここまでくるといっそ清々しさを感じる。
それにリビルドアーミーはこの世界の住民に嫌われている筈だ。
なのにこの場所で誰かに聞く耳立てられてるのに明かすと言うことは相当な度胸だろう。
正直油断できない。
「リビルドアーミーはぶっちゃけ装備は立派なだけの蛮族集団みたいなもんですから間違いなく戦闘は避けられませんね。さて、本題に入りましょうか?」
「本題?」
俺は警戒しながらヴァネッサと言う女に尋ねた。
「私と契約しませんか? 色んな情報が手に入りますよ」
「キンジ? この人を信用しちゃダメ」
ヴァネッサの提案にリオが切り捨てた。
「まあまあそうは言わずに。基地に開いている日本に通じているゲートの秘密とかも手に入るかもしれませんよ」
「・・・・・・話す相手間違えてないか? そう言うのは俺みたいな下っ端ではなくて、上の方に話すべきじゃないのか?」
「なら上の方への仲介よろしくお願いできますか?」
あー言えばこう言うなこの女。
どこでこのトークセンス身につけてきたんだか・・・・・・
「デタラメ言ってる可能性あるのに仲介できるワケないだろ」
「では少しだけ――そちらの境界駐屯地にゲートが開かれたのは偶然ではありません。少しだけネタバレするとニワトリが先が卵が先かと言う感じですね」
「ねえ、キンジ? これどう言うこと?」
リオが俺に尋ねてくる。
「正直説明するのが難しいが、俺の世界に、俺が配属されていた基地にゲートが開いたのは偶然ではないって言いたいらしい」」
と、説明するとヴァネッサは――
「その通りでございます。異世界のゲートがそこら辺にポンポン開くのならこの世界はもっと混沌とした状況になっているでしょう。まあそれでもゲートが開きやすい場所と言うのは存在します。アキハバラ、ハラジュク、ギンザ、オオサカニホンバシなんかも怪しいですね」
秋葉原。
原宿。
銀座。
大阪日本橋。
どれも聞いた事はある地名だ。
「・・・・・・本当に何者だ?」
「今は謎の事情に詳しいお姉さん程度でよろしいかと。さて? 上の方と引き合わせてもらえます」
「わかった」
「キンジ? 本当にいいの?」
「この世界の人間にしては此方の世界のことに詳しい気がする。それに言ってる事が嘘か本当か俺で判断していい状況を越えている――」
一件丸投げに聞こえるがもしもこの女の言う事が本当だった場合、目も当てられない惨劇が引き起こされる可能性がある。
「うーん、情報の押し売りはやはり主義に反しますね。まあそちらの上の方には対価をお支払いしておきますが」
「それ、厄介事を押しつけるの間違いじゃないだろうな?」
「そうなる可能性もありますね」
「・・・・・・はあ」
イヤな予感がしてきた。
だが多くの人名が掛かっているかもしれないのだ。
ここはグッと堪えて案内することになる。
☆
今頃上の方は大騒ぎだろう。
もしかして他の場所にゲートが開かれるかもしれないと言うとびっきりの爆弾情報が投げ込まれたのだから。
「で? どうしてここにいるんだ?」
夜中になったにも関わらず、ラウンジでまた俺に接触を試みてきた。
自衛隊の基地内を監視付きでだが平然と歩き回っている。
周りの自衛官はギョッとしている。
「どうもこのたびジエイタイの皆様と協力関係になりましたヴァネッサです」
「名前を何度も名乗るのはなんでだ?」
ふとその事を疑問に思った。
「名前を覚えて貰うためのコツみたいなもんですよ。ちなみにヴァネッサと言うのは偽名じゃありませんよ? ヴァネッサは本名です」
「シツコイぐらい名乗らなくていい・・・・・・んで、ヴァネッサさん? なんか用ですか?」
「今後ともよろしくお願いしますと言う挨拶みたいなものですよ」
どんな用件かと思えばそんな事かと思った。
「あんまり関わりたくないんですがね」
「まあそう言わずに。例えゲートが閉じても開けばいいだけの話ですしね」
「おいそれどう言うことだ」
またとんでもない爆弾発言したぞこの人。
「ふふふ、いい女には秘密がつきものなんですよ? それではまた――あ、今度来た時に服と化粧品のラインナップ増やしておいてくださいね? それとロボットのプラモデルとかも」
「はあ・・・・・・俺に言われてもな」
なんかとても疲れた。
なんなんだあの人は。
もしかして今回の騒動の黒幕かその一味とかじゃないだろうな。
などと思いながらご機嫌な様子のヴァネッサを見送った。
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