【新釈】人間っていいな

うおさとかべきち

本文

 くまの子が歩いていると、人間がかくれんぼをしているのを見つけました。アパートの中に隠れているようで、鬼はドアを叩いて叫んでいました。

「出てこいや! 今日こそ返してもらうぞ!」

 鍵がかかっているらしく、ノブを回しても開きません。

―それはずるいな―

 くまの子はそう思いました。

 少し経って、中から男が出てきました。そして小さな声で言います。

「もう少しだけ待ってください」

 それを聞いた鬼は、さっきよりも大きな声を出します。

「待てるか! おい、中入るからな!」

 隠れていた男は慌て、それを止めようとしました。

「入らないでください。どうしても渡せないんです」

 しかしそれは無駄でした。

「どけ!」

 鬼は押し退けて入っていきます。ドアが閉まる直前、中の男は最後にこう叫びました。

「あなたは鬼だ!」

―何を当たり前のことを―

 くまの子は男のセリフを不思議に感じました。

―鬼がいなくちゃ成り立たないだろうに―

 ドアが完全に閉まると、辺りは少し静かになりました。

 それからくまの子は、その静けさの中で考えました。

―僕も帰ろう。あ、でもさっき電車に轢かれて死んだんだった。全く、何であんな危ない邪魔なものを人間は作るのだろう。ところで、僕は人間がいいとは思えないんだよな。人間っていいのかな―

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【新釈】人間っていいな うおさとかべきち @swanK1729

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