第18話 お兄ちゃんは聞いたんです!
「これより辺境領主ラローンの身辺を改める。神妙に致せ。」
ラローン疑惑は噂に噂を呼び、元勇者の軍閥化を懸念する王宮の意思も相まって、大規模な騒動へと発展した。
辺境防衛隊の解散、ラローン本人の領主資格の停止、さらには身辺への過剰な捜査が行われた。
「王のお言葉である。全ての武装を解除して王都へ投降せよ。」
「投降だと?私は罪を犯してはいない。説明ならキチンとする。」
「ラローン殿、貴方は王に逆らうのか?反逆の意思があるのか?」
「そんなもの、あるわけがない。」
「であるならば、大人しく聖剣デュランダルも渡してもらおう。」
「おい!デュランダルに触るな!」
「ラローン、言われた通りにするんだ。私は大丈夫だ。」
「聖剣の方が賢明だな。この反逆者め。」
反逆者。そう言いながらこの男は剣を抜いてしまった。
この言葉を聞いた瞬間である。デュランダルの願いも虚しく、ラローンは易々と一線を超えてしまう。
「デュランダル!」
「やめろラローン!私は同胞を傷付ける刃を持たぬ!クッ…!」
「すまぬデュランダル。お前を守る為だ。」
「違う!お前は自分の為に刃を振おうとしている!」
「刀身解放!」
そこから先、デュランダルの意識はない。気が付けば、あたりは血の海であった。
「なんと言うことを…。」
「すまぬ。」
「我が刃は民を傷付けるものではない。」
しかしラローンはここで声を荒げる。
「俺がどれだけ国に尽くした!民に尽くした!この結果がこれか。名誉を汚され、権利を侵され、社会から疎まれて。挙句に反逆者だと?この恩知らず共め!」
「お前はもう立派な反逆者だ、ラローン。」
「…なんだと?」
「王の兵を、そして民を殺した。」
「違う!俺はお前と、権利と、そして尊厳を守る為に剣を払ったんだ!」
同じだ…。
そう声が聞こえた気がした。地獄へ落ちたものの、呪われた声が聞こえた気がした。あの残党の声が、耳から離れない。
「うわぁぁあああ!!」
「ラローン!落ち着くんだ。共に罰を受けよう。」
「もう終わりだデュランダル。俺は反逆者だ。ならば、全てを破壊する。俺は自分の為に剣を振るう。」
「では、ラローン。君と歩むことはできない。私は、民の剣だ。」
「そうだな。」
そう言うと、ラローンは禁忌術の詠唱を始める。
「何をしているんだ!?」
堕天だよ。それだけ答えると、禍々しい魔法陣から、ドス黒く染まった魔剣が伸びてくる。その姿もまた、禍々しく、闇に染まっていく。かつてのラローンの姿は、もうそこにはない。
「少し話そうか。」
そう言いながら、ラローンは歩を進め、谷底を見下ろせる場所に着いた。
「出会ってから色々あったな。お前を引き抜いてから、俺は強くなった。全てが変わった。人生の全てが。だが、今は不思議とスッキリした気分だ。」
「何をする気だ!」
「さようならデュランダル。我が友よ。」
ラローンはそれだけ言うと、魔剣でデュランダルを刀身の根本から真っ二つにへし折り、谷底へ放り投げた。
それからのラローンの蛮行は、聞き及ぶ通りである。
各地で燻っていた元勇者候補達を組織化、堕天させると、服従しない魔族をまず殲滅した。
その後は各都市を陥落させ、最終的には王をも手にかけると、大陸を統一したのである。
「そんなことが…。」
デュランダルの回想を聞き終えたタクマは、終始神妙な顔で聞いていたが、意外とアッサリとこう答えた。
「止めよう。君の友達を止めよう。」
「もちろんだ。」
デュランダルは答える。
「でも、勇者様は魔王のようにはならないわね。」
一通り話を聞いて、ドロシーは思ったままを口にした。
「勇者様はやめてくれ。タクーマ、いや、タクマでいいよ。」
「分かったわ。忘れないで、あなたには仲間がいる。それに…。」
そっとアリスの方を見やり、ウインクをしてみせる。
「ええ、私がおりますわ。…って何を言わせるんですか!?」
「まあアリスがダメでも、私がいるからね!」
その力強い励ましに、タクマも全力で応える。
「…2人とも…いいかな?」
「良いわけないでしょ!?」
「…バカ。」
ローエンとフリートも頭を抱えている。
それを見ていたデュランダルは、笑いながらタクマの方を見やる。
「変わらないね。変わらないでいてくれ、タクマ。」
もちろんさ。そう答えたタクマ。
それを確認し、微笑む仲間たち。
「さあ、妹達を、世界を、助けに行くぞ!」
力強く歩き始めるタクマ。一行の足取りは軽く、使命感に燃えていた。
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