第15話 お兄ちゃんは助けたいです!
「久しぶりよのぅ、デュランダル」
突如闇から訪れた男はそう言うと、不敵な笑みを浮かべて次の話題に移った。
「ザベスよ。私が割って入らねば、貴様は今、勇者に負けていたな?」
「そんなことはございません!そんなことは!」
お馴染みの口調も忘れ、必死に弁明を試みる女幹部ザベス。その姿は、敵である勇者から見ても、ひどく哀れに映るほどであった。
「もう良いのだザベス。」
そう言うと、男の手刀が彼女の胸を貫く。
突然の出来事に、勇者一行を始め、ザベス本人も驚きを隠せないでいた。
「魔王様…どうして…。」
「魔王だと!?」
フリートの声が、闇の静寂を切り裂いて木霊する。今、この女幹部は、確実にこの男を魔王と呼んだ。
その声を聞いて、あたりの静寂はより一層増すのである。そしてその静寂は、ザベスの断末魔をも飲み込むが、聖剣の一言で、やっと切り裂かれた。
「久しぶりだなラローン。最強の魔王にして、最強の元勇者。そして、古き友よ。」
「…デュランダル、今なんて言った?」
タクマは、信じられない一言をこの会話から聞き取った。最強の元勇者?古き友だと?
「ああ、懐かしいなデュランダル。現勇者殿も、私のように友達になれそうかい?」
ラローンはおどけて、挑発するような言葉で話している。
「デュランダル、話は後でゆっくり聞くよ。今はとにかく、あいつを倒さないと。」
タクマは早速、迎撃の体制に入る。
だが、ラローンはマトモに取り合わない。
「教えてやろうか勇者殿。いかにして私が魔王になったのか、友を裏切ったのか。まあ正確には、そいつの方から縁を切ってきたんだがな。」
「そんなことはどうでもいい。お前が魔王なら、今ここで倒すまでだ。」
「それは無理だ。ザベスを葬ってやらなければならぬのでな。戦うのは今度にしよう。コイツとは古い付き合いだったんだ。人間だった時分、それはそれは妖艶で欲深い女だった。だから堕天させてやったが、今となっては戦力にもなるまい。」
「だから殺したのか。利用するだけして。」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。コイツのような悪人に、役割を与えてやったのは俺だ。」
「なんだと?」
少し昔話をしよう。そう言って、魔王はツラツラと話を始めた。
「刺激がなかった。何かをぶっ壊したい衝動に駆られたんだ。それが全てだ。私が魔王を倒した後、世界は急激に復興し、発展した。だが、悪という存在が許されない戦後世界は、偽善や建前で塗り固められていた。白黒で塗り分けられた世界に、息が詰まるような不快感を覚えた。」
不思議と、タクマはその言葉に共感してしまった。以前にも、同じような世界で、同じような感覚を…。だが、その共感を振り払うように、彼は剣を握り直す。
「デュランダル!」
そう叫ぼうとするが、口が開かない。
「無駄だ。ここは私のテリトリーの上だからな。まあ落ち着いて話を聞きたまえ。反論は許可するから。」
なるほど、足元まで広がる魔法陣は、領域魔法の類いなのか。
反撃の許されぬタクマは、なす術がない。魔王はそれを確認すると、話の続きを始める。
「それでだ。世界はそう単純じゃない。白黒に塗り分けられない色、つまりグレーが存在する。そういう連中は、行き場を失い、黒に転ずる以外なかった。」
「当然だ。ダメなものはダメだろう。」
タクマは、ありきたりな論調で議論を封じ込めにかかる。
「それはそうだ。だから壊した。かつては救世主と崇められ、私が慕っていた王も、平時の手腕は凡庸であった。世の中とはそんなものだ。情勢が変化すれば、かつての英雄も大量殺人者と同義。私も力を恐れられ、虐げられた。」
「それが前の話とどう繋がるんだ?」
「まだ分からぬのか。世の中とは、多少混沌としていた方がいいのだ。誰にでもチャンスがあり、存在の意義がある。硬直し、制度化された世界に、その余地はない。」
「結局は、お前が環境への適応を疎かにしたからだろう。」
「一理ある。だが、人はそう簡単には変われない。私と同じような者も沢山いた。だから仲間に引き入れ、堕天させ、我々の持つ能力が輝く時代をもう一度取り戻した。」
「それで傷付き、悲しむ者がいる。」
「今となってはどうでもいい。力無き者は、どのような世界でもその立場に甘んずることしかできぬ。」
「俺とお前は、そこが決定的に違うぞ。」
「そうか。ならば勇者よ。貴様の持ち得る全ての力を使い、私より世界を取り戻してみせろ。それまで、妹は預かっておいてやる。」
「クッ。エリーナ、メルティ、必ず。必ず助ける…!」
「楽しみにしているぞ。」
ラローンはそう言うと、闇の中に消えていった。
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