第13話 お兄ちゃんは険悪です!

「それでは、行って参ります。」


フリートの普段の姿からは想像できないような、深々としたお辞儀をしている。


「本当に…ありがとうございました…。」


ドロシーも、泣いて別れを惜しんでいる。


「さてと…。」


一方の勇者は、気楽なものである。なぜなら、森の賢者バウムから、敵の詳細について話を聞けたからだ。


「まあ、この先は特に難所はないようだし、敵の幹部も、そこまでの手練れはいないと言っていたな。」


この旅、実はデュランダルが上手にナビゲートしてくれたお陰で、道に迷うということはなかった。

秘匿されたエルフの街は見つけにくかったが、運良くローエンとフリートに会えたので、こちらも苦労はしていないのである。


「うまく行きすぎている…。そろそろ俺の修行パートとかが無いとおかしい…。」

「タクマは既存の知識に毒されすぎだ。私は対魔の聖剣だぞ。私と力を同調させれば、魔の軍勢相手に押し負けることはない。」

「すごい自信だな…。デュランダルがそんなに強いなら、わざわざ俺じゃなくても…。」


そこまで言いかけて、デュランダルが声を荒げる。


「そんなことはない!」


「うわっ。急にデカい声を出すなよ…。」

「す、すまない。だが、お前をこの世界に…。」


そこまで言い掛けて、デュランダルは急に口をつぐんだ。


「この世界になんだよ。」

「…なんでもない。」


そう言われると追求しづらいが、勇者としては知らなくては気が済まない。

更に追求を重ねようとした時だった。デュランダルがまた声を荒げる。


「話す気はない!」


「わ、わかったからそんなに声を荒げるなよ。」


「おやおや、勇者様は喧嘩ですかぁ?」


フリートが、茶々を入れてくるが、2人は押し黙ってしまった。


「アタシ、何かマズいこと言っちゃったかな。」


空気が悪くなったので、たまらずアリスに声をかけるフリート。アリスもそれを察したのか、明るい声で皆に声をかける。


「少し休憩にしましょうか!エルフの皆様に頂いたお菓子があるんです!ローエン様とフリート様、すみませんが薪を拾ってきてください。ドロシー様は私と。勇者様は…。」


このポンコツ勇者に割り振る仕事が無く、困っているようだ。タクマもさすがに馬鹿ではない。その空気を察して、自ら申し出る。


「じっとしてるよ。」


「そうしててくださいっ!」


その笑顔は、実に優しいものであった。だが、その優しさが時に人を傷つける。


「何か手伝いが出来るようにならないとな。」




「っ!これはうまいな!」


湯を沸かし、お茶を淹れ、一行は休憩を取る。

エルフから貰ったお菓子は、ほのかに香ばしい香りがする焼き菓子で、黄金色の焼き色が眩しい。


「これにハチミツをたっぷり付けて…と。」


見るからにうまそうだ。

そして、これまたエルフから貰った芳醇な香り漂うお茶とよく合う。


「んん〜ほっぺが落ちそうですぅ。」


ドロシーがこう言うと、フリートがすかさず問う。


「なんだそりゃ?人間特有の表現か?」


「おいしいものを食べた時に、こう言うんです。深く考えたことはありませんでした。エルフでは何と言うんです?」


「そうですね…。」


今度はローエンが答える。


「1000年に1度の幸福…ですかね。」


「まあ、ホーリーエルフはキザだからな。長生きしすぎるから、1000年なんて表現が出てくるのさ。要するに、暇なんだ。」


フリートが嫌味たっぷりでそう言うが、ローエンは気にも留めてないらしい。


「あはは。フリートだって長生きじゃないか。」

「馬鹿を言え。ダークの寿命はホーリーの約半分だ。先祖が聖域を出て、加護を失っちまったからね。」

「そうだね。それじゃあ僕は、君のいない時間を倍も過ごさないといけないのか。」

「まあ、一緒に死んでくれてもいいんだぜぇ?」

「ふふ、そのつもりだよ。」

「なっ!馬鹿言ってんじゃねえよ!」


エルフ2人のやり取りに、ドロシーはたまらず問いかける。


「お2人は付き合ってるんですか?」


それを聞いたフリートは、顔を真っ赤にして、大槌を手にしながら叫んだ。


「そんなわけねーだろぉ!」

「キャーー!」


ドロシーはニヤニヤしながらフリートの攻撃を避けまくる。しかし、口撃はやめない。


「好きなんでしょ?ねえ?ねえ?」


フリートは更に激昂しているが、ローエンはそれをニコニコしながら見ている。

一方のアリスは、エルフの関係性を見て、自身の立場に置き換えていた。

その顔はフリートと同じくらい赤くなっている。


「熱でもあるのか?」


タクマがそう問いかけると、大きく顔を左右に振って。


「ま、薪を。追加の薪を取ってきます!」


そう言って、そそくさと去ってしまった。

ローエンは、そんなタクマの肩を叩き、こう囁く。


「お互いモテる男は辛いですね。」

「え?モテてるのはローエンだけだろ?」


ローエンは、ウインクをしてタクマが察せるように努めたつもりだが、どうやら通じなかったらしい。


「この鈍感勇者め…。」


デュランダルのため息は深かった。

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