第12話 お兄ちゃんは驚きです!

「そんな急に言われてもなぁ。」


困惑するフリートに、ローエンも同調する。


「…。」


だが、一方でドロシーは俯いてしまった。


「ありがたい申し出だが、どういう風の吹き回しなんだ?森の賢者バウムよ。」


そうデュランダルが話しかけると、バウムと呼ばれた老人は、少し表情を崩しながら続けた。


「おお、デュランダルか。懐かしいな友よ。お主にまた会えるなんてなぁ。」


デュランダルの交友関係の広さには驚かされる。どこへ行ってもコネで何とかなるようだ。おかげで、冒険の仲間もトントン拍子で見つかってきた。戦闘に付いても特に努力して身に付けたことはない。

これなら、別に俺でなくとも、誰でも適当に勇者を見繕って魔王を倒せばいいのに。タクマはそう思わずにはいられなかった。


「デュランダル、お前は知り合いがたくさんいるんだな。」

「ああ、古い友人さ。彼は森の賢者バウム。エルフ族の長老だよ。」


なんでも、彼は魔王の支配に対していち早く抵抗の意思を示したそうで、ホーリーエルフとダークエルフを統合し、強固な砦を築いて皆を率いているそうだ。

道理で、この街には肌の色が違うエルフが共存している。従来であれば反目し、住処の異なる両者を率いているのだから、その手腕は相当なものであろう。

その彼が、タクマのパーティに3人を加えるのだから、何か考えがあるに違いない。


「私は賛成ですわ。」


先程まで気を失っていたアリスが、ドロシーの魔法により元気を取り戻している。


「アリス!治って良かった。ドロシー、本当にありがとう。君がパーティに参加してくれるなんて、とても心強いよ。」


タクマは、ドロシーの返答を待たずに、仲間に引き入れる気でいるようだ。


「私からもお礼を言わせてください、ドロシー様。お噂はかねがねお聞きしています。」

「え?噂?」

「勇者様はご存知ないのですか?ドロシー様は大陸唯一の回復魔法の使い手。ギルドが壊滅した今、回復魔法はドロシー様が伝えるのみとなっております。」


「あら、知っていたんですね…。恐縮です。私の魔法特性から、魔王に執拗な追撃を受けておりまして、こちらのエルフの街にお世話になっておりました。ですが…。」


「どうしたんだ?」


「私の居所が知られ、ここはもうじき魔王軍の標的になるでしょう。そうなれば、ここの戦力で大陸中の敵と戦うことは不可能です。ですからバウム様は、歴戦のローエン様とフリート様と共に、私を勇者様のお供につけ、元凶を絶つようにと、考えておいでです。」


なるほど。そういうことなら筋が通る。やはり、どこの街も防戦一方では魔王の脅威から身を守れないと判断しているようだ。


バウムは続けて、口を開いた。


「ドロシーの言う通りだ。我々エルフとて、これ以上の持久戦では勝てぬ。ならば可能性に賭けるのが自然。お主らが旅に出るまで、ワシらが敵を引きつけよう。」


それを聞いて、ローエンは答えた。


「ふむ。急な話ではあるが、事情は分かった。バウム様をはじめ、エルフの民が我々に希望を託していると言うのなら、それに応えねばならんな。フリート、そうと決まれば支度を急ごう。」

「ああ。だがバウム様、ワタシ達がここを離れれば…。」

「心配するでない。方々に援軍は要請してある。お前達が魔王を倒すまで、我々は絶対に倒れたりせんよ。」


そのやり取りを聞いていたタクマは、改めて自身の置かれた状況と、役割の大きさを実感した。


「女の子が2人も増える。これが異世界ハーレム英雄譚…。」

「タクマ…。」


おっと、デュランダルに聞こえるところだった。心の声はそっとしまっておこう。


「聞こえているぞ!」

「アバババババババ!」


しかしこれも、デュランダルなりの気合の入れ方であろう。そう都合よく解釈したタクマは、準備の為に皆が去った部屋で、残っていたアリスにこう告げた。


「このあと少し時間をくれないか?」

「え、ええ。構いませんけど…。」

「見せたいものがあるんだ。」



2時間後、再度集合した2人。タクマは、アリスを気遣った。


「気が滅入っているかなと思ってね。素敵な場所があるってローエンに聞いたんだ。気分じゃなかったら申し訳ないけど。」

「そ、そんなことありませんわ。そのお気持ちが嬉しいです…。ありがとうございます。」

「改めてそう言われると照れるな。」


地下に繋がる階段をしばらく降りると、夜光草の群生地との看板がある。


「確かもうすぐ着くはずなんだけど、暗いな。」

「私の魔法で照らしますわ。」

「おお、ありがとう。さてと、ここらへんのはずだが…。」


しかしあたりには何も見えなかった。

迷ってウロウロしているうちに、タクマは草に足を取られて転倒してしまった。


「うわぁあ!」「キャッ!」


情けない声を出しながら、ちょうどアリスに覆い被さるような格好になってしまった。

これはマズイ。咄嗟に離れようとするが、こういう時に限って、うまく体が動かない。


「うわぁあ!ごめん!」


必死にもがいて、ようやく離れることに成功した。この男には、変質者の前科がある。事を長引かせなくて良かった。そう思いつつ、ふと横を見やると、そこには美しい光景が広がっていた。


「アリス…。目を開けてごらん。」


アリスは目を瞑って、頑なにそれを拒否する。


「するなら早くしてくださいっ!」


アリスは目を強く閉じ、唇を緩めていた。完全に勘違いをしているようだが、暗くてタクマには見えていない。


「アリス、綺麗だ…。」

「は、恥ずかしいです…。」


力なく答えるアリスに、タクマは答えた。


「夜光草は、光のないところで輝く植物だったのか。」

「へ?」


アリスは、そっと目を開けると、自身が盛大な勘違いをしていたことに気がついた。タクマが見ていたのは自分ではなく、夜光草の輝きだったのである。

顔が真っ赤に沸騰させるが、暗闇がうまく掻き消してくれる。とんだ恥をかかされたものだ。思い切りタクマに文句を言ってやろうと思ったが、次の一言で、そんな気は失せてしまった。


「また見に来よう。魔王を倒して、2人でまた。」


「そ、そうですわね。2人…で…。」


しばらくの間、その光景に見惚れていたタクマだが、その時間は、沸騰した顔を冷ます為に、アリスにとっても都合が良かった。


「絶対にまた見ましょうね。」

「ああ、絶対だ。」


2人は固く誓い合った。

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