第8話 お兄ちゃんは知るのです!

魔女の孫もまた、最強であった。


彼女の放った一撃は、戦場から生命の温もりの一切を消し去ったのである。


「クソ、このファクト様がやられるなど。」


さすがの大男も、高位魔法をまともに受ければ太刀打ちなどできない。だが、それでもまだ生きている辺りは、彼の実力が相当に高い次元にあったことを窺わせる。


「お主、ファクトと言ったな。」


ルダスがそう語りかけると、ファクトは動揺しながらこう返す。


「貴様ルダスか。陛下に楯突いた愚か者め。これは陛下の覇道の障害となる。至急報告せねば…。」


「報告などさせんよ。昔のよしみじゃ。ワシの手で葬ってやる。」


そう言うと、ルダスは一瞬で急所を刈り、ファクトにトドメを刺した。


「ルダス…。」


服を着てやっと前線に駆け付けた勇者達。

デュランダルがそう声を掛けると、ルダスはゆっくりと語り始める。


「この者はファクトといってな。かつては、ワシらと同じく魔王討伐を目指して、勇者を志す身の上だった者じゃ。」

「じゃあ、どうして魔人なんかに…。」


タクマがそう尋ねると、ルダスはためらいながらもこう答える。


「堕天じゃよ。」

「堕天?」

「ああ。力を使う方向を誤り、悪に染まった者達は、更なる力を求めて堕天する。そうして魔人となるのじゃ。」


タクマにとって、これは衝撃だった。今まで戦っていた魔人達は、元は皆人間であったということだ。


「ということは、俺も力を欲せば魔人になれるのか?」


「ああ、なれる。じゃが、デュランダル無きお主では、堕天しても脅威ではないがの。」

「どうじゃ、魔人を斬ることに罪悪感を覚えたかの?」


「いいや、微塵もないね。今の話でハッキリした。俺は勇者だし、守りたい人の為に敵は倒すしかない。それに、どんな背景があっても、人を傷付けることを正当化できる理由なんてない。」


「少しは勇者らしくなってきたじゃないかキモ魔人。堕天したのは備え付けのテーブルナイフだけのようだ。」


…デュランダル?


「あ、え、あ、その…。」

「本当は、ハーレム?とやらを魔王に邪魔されるのが気に食わんだけであろうが!筒抜けだ!」


…バレていたか。


アリスは、このやり取りを困惑しながら眺めていたが、次第に勇者を見る目は温度を失っていった。


「いや、結構結構。それでこそ真の勇者殿じゃ。」

そう言って老人の顔はほころんでいたが、やがて真剣になって、こう続ける。


「どうやら魔王は勇者殿に追っ手を出しておるらしい。居場所もじきにバレてしまうじゃろう。まだ夜が明けぬうちに、出立した方が良さそうじゃ。」


「そうですわ勇者様。先を急ぎましょう。」

「うん、分かった。ルダスさんありがとう。そしてアリス、これからよろしく。」


アリスは、懐かしそうに街を見渡したあと、祖父であるルダスに丁寧な別れの挨拶をした。


「必ずまた帰ってきますわ。お爺さまもお元気で。」

「ああ、アリスよ。この街は任せい。気を付けてな。」


勇者一行は、こうしてウラヅチを旅立ったのである。


「次は何をすべきかな。デュランダル、アリス。」

「まだまだ戦力が欲しい。実戦経験を積みながら仲間を探すべきだ。」

「そうですわね。点在する街を探して、情報を集めましょう。」


「分かった。それと、出来ればでいいんだけど。」

「次の仲間も、女の子優先で探すことにしないか?」


…チュドーーーン


「おや、この音は爆破魔法かの。勇者殿も物好きじゃ。」


この日、ウラヅチの平原の一角に、小さなクレーターとパンツの燃えカスが発見されたと言う。

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