第7話 お兄ちゃんの仲間は強いです!

トントン拍子に話が進み、冒険の仲間に加わった魔法使いのアリス。戦力も華やかさもパワーアップした勇者一行は、早速身支度を整えて、翌朝には出立することに決めた。


「さて、今晩はゆっくり寝られそうだなデュランダル。星が綺麗で、静かな夜だ。」

「チッ。この一級フラグ建築士め。」


デュランダルの予感は見事に的中する。事件が起こったのは、この能天気発言から数時間後のことであった。



「勇者を倒した者には、魔王様から褒美が出るぞ。そして、征服した街は好きにして良いとのお達しだ。者ども、蹂躙せよ!」

「グオオオオオ!」


なんと、魔王軍やならず者の追っ手が、褒美目当てに勇者を倒そうと、大挙してウラヅチに押し寄せたのである。

おそらく、昼間に倒し損ねて逃した敵により、居場所がバレてしまったのだろう。


タクマは、そんな気配には全く気付かず爆睡していたが、鬨の声で目を覚ました。

うわぁ、と慌てふためきながら、急いでデュランダルだけ持って宿を飛び出す。


「キャー!」


毎度おなじみ、街娘の悲鳴だ。敵の軍勢に対してか、パンツ一丁のタクマに向けられたものか定かではないが、危機が迫っていることには違いない。


「勇者様、お待ちして…キャー!」


アリスもまさか、勇者がパンツ一丁で来るとは思わなかったのだろう。敵が塀の向こうまで来ているというのに、緊迫感が全く感じられない。


「て、敵が来ているんですよ!早く戦わないと…。」

「よし、では戦おう!」

「その前に服を着てください!」

「時間がないから服は後で!行くぞデュランダル!」


「おっと勇者殿、ここは私にお任せくだされ。ゆっくり服を着る時間はありますぞ。」


大きな戦斧を担いだルダスは、そう言うと身軽な身のこなしで敵陣の前に立ち塞がり、切りかかった。


「す、すげぇ。」


その豪快な戦いぶりに、思わず感嘆するタクマ。格段に強い。彼なら、魔人の軍勢程度1人で片付けられるだろう。アリスが居なくても、この街は安泰だ。

そんなタクマを見て、デュランダルは懐かしそうに、過去の話を始めた。


「ルダスとは、古い付き合いなんだ。前の魔王を討伐した時、一緒に旅をしていた。」

「え?ルダスが魔王を倒したのか?お前を使って?」

「いいや、私を使っていたのは別の奴さ。そいつとルダスがパーティを組んでいてね。それで彼を知っている。」

「そうだったのか。通りで強い訳だ。」

「ああ、彼は大陸で最強のタンクだったよ。そして、そのパーティにはもう1人、最強の魔女が居たんだ。その魔女は銀髪で、何より美しい人だった。」


銀髪の美女か…。俺のパーティにも、そんな人が居れば…って、まさか!


「2人は愛し合っていたんだ。そこまでは知っていたが、私も会った時は驚いたよ。まさか、2人の孫にお目に掛かれるなんてね。」


その視線の先には、銀髪の美しい魔女、アリスの姿があった。


「お爺さま、お下がりください。ここなら皆を巻き込むことなく一撃で決められます。」


最強の魔女の孫が、そう叫ぶと、説得力がある。タクマは、そのロマンティックな血脈に、不思議な縁を感じていた。



「なんだこの爺さん。強すぎるぞ!ファクト様!お助けください!」


ところ変わって前線では、魔人達が狼狽えていた。驚くのも無理はない。1人で前線を支えていたルダスは、いつのまにか街の塀から見渡せる平原まで、敵の軍勢を押し返していた。


「分かった!頼んだぞアリスよ。」


ルダスはそう叫ぶと、撤退しつつ魔法の射程から離れる。

それを見て、アリスは呪文の詠唱を開始した。よく聞き取れなかったが、タクマの知る言語ではない。おそらくは、高位魔法発動に使用する特殊な言語なのだろう。

発生した魔法陣からは、凍てつくような冷気が漂い、それはやがて、平原を包んでいく。


「逃がさんぞジジイ!」


魔法発動により万事決すかと思われたその時、軍勢から1人の魔人が飛び出してくる。

一瞬、魔獣であるかのような錯覚を受けたが、その者は間違いなく魔人であった。

なぜなら、大きな角を生やし、肉体は毛で覆われてはいるものの、二足で歩き、棍棒のような武器を携えていたからだ。知性がある。


「おお、ファクト様だ。ファクト様に続け!」


にわかに、魔王軍の士気が上がる。どうやら、今回の軍勢を率いる大将格のようだ。


「この役立たずの雑魚共が。我輩の手を煩わせおって。しかしこのジジイ、どこかで見覚えがあるぞ。腕も確かなようだし、このファクト様の手で葬ってやる。まだ大陸に強者が残っていたとはなぁ!」


意気揚々とルダスに襲い掛かるファクトであったが、出てきたタイミングがマズかった。


「レヴィナント・エイナス!」


魔女の凍った吐息が、戦場を駆け抜ける。


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