過去篇 第2話 女神との会話

 トラックにはねられた瞬間、いろんな思いが脳内に浮かんだ。


 あぁ、これマジなやつっぽい、このまま死んじゃうのか……。


 お父さん、お母さん、お兄ちゃん、麗未れみ美華みふぁ、先に逝っちゃってごめんね。


 てか、もっとキャンパスライフ謳歌したかったな。


 駿先輩と少しでも話したかった……まぁ、逃げたり隠れたりしちゃってたから、あのまま時間が過ぎてても一生無理だったかな。


 一人暮らしもしてみたかったし、犬や猫も飼いたかった。


 それから、彼氏と手を繋いだりキスしたり、デートとかもしてみたかった……ていうか、そもそも彼氏出来なかったのが辛い。


 マッチョな彼氏欲しかったなー。


 そこで意識が飛んだ。




――――――――――




「突然じゃが、わらわの世界の為に、おぬしにはここへ来てもらった。そして、重要な役割を持つ人生を送ってもらう事になったのじゃが、何か意見はあるかのぅ?」


 目が覚めると、駿先輩が好きそうな銀髪のボンキュッボン(駿先輩の表現がうつった)な美女が、突然目の前に現れて、そんな事を言い出した。


 いや、ほんと、突然すぎるんだけど……。


「その前に、ここはどこであなたは誰? 私、さっきトラックにひかれたよね?」


「おっとすまぬ、そうじゃな自己紹介がまだじゃったな。妾はアルティア。お主が今から行く世界の女神じゃ。そして、お主はトラックにひかれ亡くなったが、妾がこの神の世界へ、魂を連れてきたのじゃ」


 神秘的な紫の瞳で、こちらをまっすぐ見ながら、その美女はそんな事を言った。


「えっ、女神? あっ、えーと……はぁ?」


 女神? 女神って女神?? えーと、何だこれ夢なのかな?

 あっ、そういえばトラックにひかれたわけだし、臨死体験的なやつなのかも? あっでも今亡くなったって言われたな。


「大丈夫かえ? お主の世界には、目に見える神がおらんから、信じ難いかもしれぬが、妾はれっきとした女神なのじゃ。そして、妾の世界を存続する為の力が必要なのじゃが、それを発生させる為に、お主が役割を持って妾の世界で過ごす事になったのじゃ」


 えーと、どうやら夢では無さそう? とか思いつつ、やっぱり臨死体験してるのかも?

 何かよく分からない説明されてるけど、混乱してきて頭に入らん!!


「えーと、女神……様? えーと、私以外にもこんな話を、同じ様に話した人はいたりするのかな?」


 とりあえず夢ではないと仮定して、混乱を収めるために、気になる事を聞いてみた。


「お主の前に1人。ダニエルという人間が勇者として世界へ降り立ったのじゃが、ちょっとした手違いで、神の様な存在になってしもうてな、後で説明するが、とりあえず、また世界を存続させる力が不足してしもうたので、お主を召喚したということなのじゃ」


 とりあえず、私の前に1人前任者がいたのか。

 でも、神のような存在になったってどういう事なんだろう? 私もなるの? 神様なんてモノにはなりたくないんだけど?


 それから、女神アルティアにいろんな質問をして、ある程度の情報を得ることが出来た。


・元々この世界は4人の神が創造し管理をしていたが、今はアルティア1人になってしまい力が不足している。


・世界の存続には神の力とやらが必要。その名の通り、その力は神が発生させる力だ。神が発生させる力以外でも、異世界から人間をぶと召喚時に一定量発生し、その人物にを与えることでさらに力が発生する。そして、その人間が寿命を迎えれば、その魂が神の力に変換されるので、神の力を大量に増やすことが出来るらしい。


・喚べる人間は神の力に同調できて、現世から魂が離れつつある者……所謂いわゆる、神の力と相性が良い死にたての人間。とはいえ、アルティアはあちらの世界の時間を好きに移動できるから、結構な候補が居るらしい。ダニエルさんと私は、魂の色(魂には色があるらしい)の好みで決めたそうな。


・召喚された人間は、召喚時の見た目のままで100年ほど生きることができる。


・前回召喚したダニエルという人が、手違いで神っぽい存在になったので、神の力は一時的に安定していたが、元人間なので神の生活に耐え切れず、息抜きに80年ほど下界へ降りることになった。たまに神の世界へ戻って補充はしていたが、20年ほど経った今、また神の力が不足してきてしまい、仕方がないので2人目の私を召喚した。


 仕方なく召喚ってどうなんだ?

 まぁ、2度目の人生過ごせるみたいだから私的には良かったんだけど、寿命が100年あるのは長くない?

 しかも見た目が変わらないって、化け物扱いされないのかな? と思ったら、与えられる役割のお蔭で、見た目が変わらず長生き設定でもなんとかなるらしい。


 それは良かった。でもその後だよね……またイレギュラーがおきて、神様になっちゃったらヤダなぁ。


「私は、神様になりたくないんだけど、役目を終えたらなっちゃう可能性があるんだよね?」


「ダニエルの事は予想外だったのじゃが、次も起こる可能性が無いわけではないのう」


 そんな賭けにはのりたくないなぁ。


「うーん……あっ! が神の力になるんだったら、魂が不完全だったら間違えても神様にはならなそうだよね」


「うむ、そうかもしれないのう。しかし不完全な魂とはどういうことじゃ?」


「私の魂を半分にして、それに役割を与えたらいいんじゃないかな?」


「ほほう、半分とな。残した魂はどうするのじゃ? 役割を与えた方の本体が亡くなると、残した魂は本体と連動して消えてしまうのじゃが」


 えー、何かそれは勿体ないなぁ。


「何か方法はないのかな?」


「うーむ、その魂を転生させて、違う人間になれば大丈夫じゃが……それだと記憶も少しだけ残せるしのう」


 違う人間に転生! しかも記憶が少し残るんだ! それいいね!


「なら、身体の寿命が少なくなってきた時点で、残した魂をこの世界の人間に転生させて欲しいな」


「ふむ、なるほど、しかし魂が半分じゃから、これから役割を与える身体の寿命も、半分の50年ほどになるが、それでも良いかのう?」


「前は20年で終わったんだから、それを考えると倍以上生きれるんだしそれで充分だよ」


「わかった、では魂を半分にしてからお主に役割を与えよう……じゃがその前に、お主の生前の話を聞かせてもらってもよいか?」


 うん? とりあえず話すけど、何故生前の話が聞きたいんだろ?

 不思議に思いながらも、簡潔に生前の話をする。


「……なるほど、お主はやっと出会えた理想的な駿先輩とやらに恋をしたが、奥手すぎて告白もできずに亡くなったと」


 うわぉ、他人の口から聞くと可哀想な子みたいじゃん。って、実際可哀想な子か。


「そうだね。だから、次はちゃんとした恋愛がしたいけど、奥手なのは変えられないだろうし、見た目が変わらない人間に普通の恋愛は無理かもしれないなぁ。半分残した魂に、来世で頑張ってもらおうかな」


「うーむ。では転生する魂は、少し活発な性格にしておこうかのう」


「そんなことが出来るんだ!? 是非そうしておいて欲しい!!」


「うむ、久々に人間と話すのは楽しかったから、これはおまけじゃ」


「えっ? 久々? ダニエルさんとやらも元人間だし、話をしてるんじゃないの?」


「……あやつは、癖が強くて話すのが面倒なのじゃ」


「そ、そうなんだ……」


 そして新しい世界では、新しい人間関係とかちょっと心配だと伝えたら、なんか夢見の巫女っていう地位が高い役割を充てられるみたいで、王様と同等とか言ってたから心配ないとの事。


 という事で、魂を半分にして、いざアルティアの世界へ……行く前に、女神との会話の内容だけを覚えて、女神の顔や話し方等の記憶を消してもらう事にした。


 何故かというと、なんだか親切で素直すぎて神様っぽくなかったし、神秘性が足りないと思ってしまったからだ。


 なんか、こう、忘れていた方が神秘性が増して、女神から託された役割を果たすのにも力が入りそうじゃないかな? と思ってしまったのだ。


 今のままだと、ちょっとしんどくなったら、アルティア優しいしちょっとぐらい手を抜いてもいいか……とか思いそうなんだよね。

 魂を半分にしてとか我儘を言ったわけだし、与えられた役割はしっかり果たさないといけないよね。


 ということで、まず、魂を半分にして役割を与えてもらったんだけど、その時に発生した神の力が少なすぎるという事態に。

 仕方がないので、身体の方から少し神の力を抜くことになり、最終的には寿命が40年になった。

 アルティアにかなり謝られたけど、元はといえば私の我儘のせいなんだから、気にしなくて良いのに……ほんと、そういうとこだぞ!

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