過去篇 第3話 夢見の巫女として降臨

 ざばぁぁっっ!!!


「なっ、何っ?! えっ、水っ?!?!」


 アルティアに『行ってらっしゃい』と言われた瞬間、突然水の音がしたからビックリしたわー。っていうかこれ、水の中にドボンしてるよね。


「おおっ!! 女神様の信託しんたく通り、巫女様が降臨こうりんされたぞ!!」


 私の声がかき消されるほどの声量で、誰かがそう叫んだ。

 その後に、おおーっ!! と大勢の歓声が響く。……地味にうるさい。


 とりあえず、状況を判断する為に周囲を見渡すと、色とりどりな髪の色をした褐色な肌の人々がずらり。


 うっ、うわぁ、とっても異世界じゃん。

 しかしながら、褐色の肌とか健康的でいいね! マッチョは居ないかな?


 ……あっ、騎士っぽいマッチョが居た!


「なんて可憐かれんな少女だ」


 マッチョを探してた私の前に立ち、そんな事を言った人物は、肩下まである金髪ブロンドにルビーの様な紅い瞳の、超絶美人な男性だった。


 ってか可憐な少女って何? 私もう20歳なんだけど……少女はないわー。


 ……えっ? そんなことより、男性に美人って言うのはおかしいって?

 いや、だって美人としか言いようがない容姿なんだもん。


 まつ毛フッサフサだし、お肌もツルツルだし、中性的で凄く整ったお顔立ち。美しい以外の形容詞が無いのだ!


 そして、体型は細いけれどちゃんと男だとわかる、でも細マッチョまでは行かない、ホントに少しだけ鍛えた感じ……残念……。


 上から下まで、品定めをしていた私の視線に気づいたその美男子びなんしは、見られていることに恥じらいポッと頬を染めた。


 うん、やっぱり美人だな。

 でも、美しいとは思っても、残念ながら筋肉が無いので食指しょくしは動かない。全然動かない。


 それよりも、斜め後ろに控えている騎士っぽいマッチョさんが、さっきから気になるわー。


「夢見の巫女よ、貴女あなたの名は何というのだ?」


 むぅ、いきなり名前聞かれたよ。

 マッチョじゃない人はらんのですよ、後ろのマッチョを出しなさい! と言うわけにもいかないし、普通に名乗るか。

 ていうか、こっちの名前を聞く前に、自分から名乗ろうよ。


「人の名前を聞く前にまず名乗るのが礼儀じゃないのかな? まぁいいや、私は神城空良かみしろそら。女神アルティアから話は聞いてるよ。この国で夢見の巫女として働けば良いんだよね」


 私のフランクな話し方に、美男子以外の人達がざわついた。


 おや? 女神が、夢見の巫女は王様と対等って言ってたから、話し方は間違えてはいないはずだけど。一応、敬語を使ったほうが良かったのかな?


「カミシロソラ……カミが名前で良いのだろうか? そして名乗り忘れて申し訳ない。私はこの国の王、アベル・ラミレスという。アベルと呼んでくれ」


 あっ、この美男子、王様だったのか。だから周りがざわついたのかな。

 立場は対等とはいえ初対面だし、無礼に見えちゃったかな? まぁやっちゃった事は仕方ない。


「空良が名前だよ。アベルは王様なんだね。分からないことだらけだから、色々知りたいんだけど、誰が教えてくれるのかな?」


「私が――」


「巫女様への説明は、予定通り私が致しますぞ」


 アベルが、何かを言おうとしたけど、白髪交じりの青く長い髪を後ろで縛り、白いローブっぽい服を着ている初老の男性が、その言葉を遮って前へ出てきた。


 女神がいて、騎士っぽい人が居て、王様がいる、とってもファンタジーな感じだから、この人は魔術師的な人なのかな? てことは魔法とかあるのかな? 巫女って魔法使えるのかな? ちょっとワクワク。


「エイダン……王である私の言葉を遮れるのはお前ぐらいだな……」


 アベルが初老の男性にそう言った。


 よくある世話役的な人かな? 偉い人でもその人には頭が上がらない的なアレ。


「予定と違うことをされると、周りが困りますのでな」


 おー、何か圧があるなぁ。筋肉は無いけど。


 なんか、すごく仕事のできる執事っぽい。

 セバス……セバスって呼びたい。心のなかではセバスって呼びたい。

 でも、呼ぶ時に間違えちゃいそうだから諦めるか。


 という事で、部屋を移動し、濡れた服を着替えさせてもらってから、セバスなエイダンに、この国の事や夢見の巫女について説明を受けた。


・ここはエブラータ王国といって、基本的に1年中暑い国。


・魔法はない(残念だ)けど、魔法のような力を使える魔道具がある。


・夢見の巫女とは、予知夢を見ることができる巫女で、予知夢によってこの国を守ってくれる存在。


・夢見の巫女は長年現れていなかったので、王と同等という事があまり認知されていない。

(王族は代々、夢見の巫女について教育させられて来たのでちゃんと理解している)


・北にあるファーラル王国という国と戦争中のため、夢見の巫女の召喚を女神に祈っていたら神託が成された。


 えーっ! 今戦争中なの?! 嫌過ぎる!


「戦争か……。うーん、夢見の巫女の予知夢ってどんな感じでどうすればいいのかな? 全く未知なんだけど」


「おや? ソラ様はこちらへ召喚される前から夢見の巫女ではなかったのですかな?」


 あっ、そか、そう考えるのが普通だよね。


 やばい、全然そういうの分かってなかった。女神に聞いておけば良かった事が、後から沢山湧いてくるなー。


 それにしても、女神と話した内容は覚えてるのに、姿や顔や話し方等の印象が全く無いのはなんでだろ?


 情報も色々足りないし、実は意地悪だったのかなー? って思考がそれちゃった。

 ちゃんとセバ……エイダンの質問に答えないと。


「私は、こっちに来る直前に死んでるんだけど、それまでは普通の人間だったんだ。後天的に女神から力を与えられたから、使い方は分からないんだ」


「死んだ……と? ソラ様は、死んでからこちらへ来られたのですかな?」


 セ……エイダンは、私のという言葉に反応した。


「そうらしいよ。だからこの姿で、ずっとこのまま過ごす事になるみたい」


「そうだったのですか……」


 なんだか、あわれみの目で見られているような気がするな。普通は死んだら終わりだから、私的にはラッキーって感じなんだけど……まぁいいや。


「とりあえず、今夜夢で何かをるかもしれないから、その時は内容を伝えたら良いのかな?」


「そうですな。そうしてもらえるととても助かりますな。ところで、ソラ様はその姿のままずっと変わらないとおっしゃいましたが、亡くなったのもその姿の時ということですかな?」


「うん、そうだけどなんで?」


「いえ、とても若くして亡くなったのだなと。その割にはしっかりしておられるので、もしかしてこちらへ来る時に若返ったのかと思ったのですぞ」


「まぁ、一応20年生きてたから……あっ、もしかして実年齢より若く見える?」


「20歳……?」


 エイダンが呆然と呟いた。

 やっぱり10代と思われてたかー。


「14歳ではなく20歳ですかな?」


「まぁ向こうでも童顔だったから2歳くらい若く見られて……って、えっ? 14歳?!」


 いやいやいや若く見られすぎっ!!


「もっ、申し訳ありません。とても若く見えたもので……。ということはアベル陛下と2歳違いですな」


 ほほう、アベルは22歳なのかー。


「アベル陛下は今年18歳なので――」


「18歳?!」


 あれか、向こうの世界での欧米系とアジア系の違い的なやつか! むむむ、あれが歳下って……ていうか18歳で王様? 若すぎない?


「先代が病気で早くに隠居した為、昨年王になられたのですよ」


 考えが顔に出てたのか、エイダンがそんな説明をしてくれた。

 それから、さらにこの国の現状等、色々な説明を受けた。


 さっき言ってた戦争は、戦争といっても、国境付近でワチャワチャしている程度で、今はそんな大きなものではないらしい。


 でも、これから大きくなる可能性もあるので、夢見の巫女の召喚を女神に祈ったら神託が届いたらしい。


 たまたま私の召喚の時期と重なったから、女神が良い感じに神託してくれたのかな? てか神託ってどうやって受けるんだろ?

 って、そんな事今はどうでもいいか。


 とりあえず戦争について、今夜の夢で何か視れれば良いけどなぁ。

 でも、夢見の巫女の力の使い方なんて知らないから不安しかないや。

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