第16話 ◎カイル・ブラウン②

引き続きカイル視点のお話です。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


 そして、騎士となってから3年が経ち、私は19歳になった。

 騎士の仕事も忙しくなり、あまりエドガー王子と個人的に会うことは少なくなったなぁ……と思っていたら、久しぶりに王子に呼ばれた。


「それにしても、まさかカイルがこんなに育つとは思わなかったー」


「年上に育つって言い方はどうなんだろうか……」


「あんなに虚弱だったのに、まさかこんなゴリラに……げふんげふん」


「ゴリラは酷いだろ」


「それはそうと、騎士って寄宿舎生活でしょ?女の子とか連れ込んだりできるの?」


「は?」


「いや、だからさ、やりたくなったらどうしてるの??」


「は???」


「えー、カイルってそっち系の話を他の騎士としたりしないの??」


 いや、そういう意味での、は? ではなく、礼儀正しく品行方正で下ネタなんぞ言いそうにない王子から、突然そんなことを言われたから驚いているんだ。


「いや、驚いただけだ」


「なんで驚くの?? 私も、もう15歳だよ? そりゃーそーゆーの気になるでしょ? それに、カイルと私の仲だし驚かなくてもいいでしょ」


 私と王子の仲……まだ友達と思ってくれてるのか? そして、そうか、王子も普通の人間だもんな。


「いや、寄宿舎でそんなことをする騎士はいない……というか、女性は待合室までしか通せないことになっているから無理だと思う」


「え? じゃぁどうしてるの???」


「?? 何を?」


「まさかその歳で1人で処理?! まさかまさかカイルってば童貞?!?!」


「あー……私は店を使っているし、他の騎士もそうだと聞いている」


「やっぱりそうなのかー。一応他の騎士にもそれとなく聞いてみたけど、婚約者いない人は同じ事言ってたしなぁ。私は店に行けないよなぁ……。騎士達羨ましいなぁ。ずるいなぁ」


「たしか、王族は特別な措置があったと思うけど……側近に聞いてみたらどうだ?」


「側近たちに聞くのー……あっ! そうかそっちの先生に聞いたらいいのか!」


 なんだか1人で納得したようだ。

 そして、その後エドガー王子はすぐに伽相手を呼んだようだ。


「いやぁ! やっぱ胸が大きくて顔がキツめの良かったー! でも、しいて言えばお尻はもう少し小さめで、ウエストも細かったら良かったのになぁ」


 はぁ、そうですか。なんか人格変わってませんか? 二重人格?? 大丈夫??


 毎回、伽の翌日に何故か呼ばれて、好みのタイプについて熱く語られ続け、そのうちエドガー王子にはこういう一面もあるんだなぁ、と思うようになった21歳の頃、私は最年少の騎士団長に選ばれた。


 そして翌年、エドガー王子も18歳になったが、なかなか婚約者を決めないので、王や王妃や側近達は業を煮やし、早く婚約者を決めなさい! と言い続けていたら、さすがの王子も仕方なく首を縦に振った。

 しかし、婚約者を決めるために、国中の未婚で婚約者もまだ決まっていない14〜18歳の女性を、すべてを集めてお茶会をするという事になり城内はてんやわんや。


 王子の護衛である第一騎士団の団長になっていた私は、お茶会中の護衛をすることに……。

 女性から怖がられている私を隣につけて大丈夫なのだろうか……という不安の中、とうとうお茶会が開催された。


「お茶会に好みの来るかなぁ? 可愛らしくて大人しい娘ばっかりきそうだけど、少しぐらい好みに近い娘居るよね?」


 なぜ職務中の私に、小声で聞いてくるんだ。


「なんとも言えませんね」


「だよねー。とりあえず側近たちは、なんかアメリア嬢って娘を推してくるけど、可愛いだの可憐だの……ちゃんと見ておいてくださいって言ってくるけど、その娘絶対好みと違うよね」


 だから職務中だから答えられないって……。


「なんとも……」


「もー、近くには誰もいないんだし小声で話したら大丈夫だってのに、ほんとカイルは真面目だね」


 やっぱり二重人格を疑うな。普段は、真面目の塊みたいな人に言われたくない言葉だ。


 そうこうしているうちに、1日目のお茶会が始まった。


 集まった令嬢達は、あからさまにエドガー王子に好意をアピールしてきているが、私が斜め後ろに立っているせいか近づいては来ない。

 そして皆、エドガー王子の好みのタイプとは程遠い。

 見た目は王子スマイルで対応しているけれど、心中ガッカリしてるんだろうな。


 そして2日目、エドガー王子がよく言っていた胸の豊かな令嬢が1人居た。

 どうかな? と様子をうかがってみたけど、どうやらお気に召さなかったようだ。


 そして最終日、王子の警護前にしていた訓練中に場違いな令嬢が現れた。


 あぁ、そういえば先程見学していいか聞かれたな。

 ひと目見て思った、『エドガー王子の好みそのままの女性だ!』と。

 しかもその女性は、私に気づくと普通に笑顔を浮かべて、優雅に向かって歩いてくるではないか。


 私に対して全くこれっぽっちも恐怖しないとは! 何たる豪胆! 次期王妃に相応しいのでないか?


 そしてソフィアと名乗った女性と話をしてみると、騎士達は普段どのような訓練をしているのか? とか、どんなものを食べているのか? とか、休日は何をしているのか等、本当に領地の騎士達の為の質問ばかりだった。

 領地を大事にしてるんだな……しかし、次期王妃になったら領地とは疎遠になってしまう。自分が王子に選ばれるとは思ってもいないのか?


 更に、こちらに物怖じすることもなく……いや、むしろ好意的にみえるぐらいの態度で話しかけてくる。

 話してる最中はコロコロ表情が変わり、キツイ見た目とは正反対の小動物的な可愛らしい令嬢だった。


 エドガー王子の好みのキツめの顔で以下略……は合っているが、この小動物的な可愛らしさはどうなのだろうか? と思ったが、エドガー王子はそれも好きそうかな? と思い直す。


 しかし、こんなに美人でスタイルがよくて、この上目遣いと、この笑顔の可愛さと、この人懐っこさ……危なっかしいなあ。

 と思いながら話し終わったら、何と私に控室まで送って欲しいと頼んできた。


 私と楽しそうに会話をしているだけで、周りの騎士たちは物凄い表情でこちらを見ていたのに、その発言で更にざわついた。

 私自身も驚いたが、エドガー王子の好みの女性に変な虫がつかないよう、丁度良いかと思い控室まで送っていった。


 その間もソフィア嬢は楽しそうに話しかけてくる。

 うーん、これは男が勘違いしてしまう、なパターンだな、気をつけよう。


 そして程なくお茶会が開催され、自己紹介が始まった。

 この2日も似たような感じだったが、みんな自己アピールが凄い。

 そんなにアピールしても、当の王子は全然聞いてないけどな可哀想に……。


 そしてソフィア嬢の番が来た。


「ソフィア・ジョーンズです。北の領地です。よろしくお願いいたします」


 そして席に座った。


 ――――は?? それだけ??


 会場の皆の気持ちが一致団結した。


 しかし、エドガー王子に笑いかけられたら恥ずかしそうに赤面して視線をそらし(何故か視線をそらす先が私の身体付近なのだが)、エドガー王子の質問に対しては、先程訓練場で話していた時とは違い、真剣な様子で思案してからの素晴らしい返答。


 これは、脈アリかな? エドガー王子良かったなぁ! と、嬉しいような少し寂しいような気持ちでいたら、案の定エドガー王子がこの後ソフィア嬢を呼び出す気満々の台詞を言って、お茶会は終了した。


「ソフィア嬢を呼びたいのだが」


 エドガー王子が側近たちにそう言った。


「えっ? アメリア様は?」


 そういえば、側近たちはアメリア嬢が一番の候補だから、もし気になる人が居たら相談しろとか言ってたな。


「とりあえず、ソフィア嬢と話がしたいのだ」


 エドガー王子舞い上がってるな……相談しろよ……。

 あっ、違うなこれは、『両思いだから』と押し通すつもりなのか。


「はぁ……、とりあえず呼び出しますが、アメリア様も後で呼び出してくださいよ」


 そしてソフィア嬢を呼び出す為に控室の魔導具をチェックしたら不在。

 エドガー王子は私にソフィア嬢を探しに行ってほしいと頼んできた。

 多分私なら呼び出す理由がわかってるだろうから頼んだんだろうな。


 そして、また訓練場に行ってるのかな? と思いながら向かうと、案の定レオと会話をしているソフィア嬢を発見した。


 よくみたらちょっと赤面していて、あわあわとした様子でレオに何か返事をした瞬間、レオが狼の表情になったので慌てて近づき声をかける。


 なぜ呼ばれたのかわからない様子で、こちらを見たソフィア嬢……そう、赤面しながら潤んだ瞳でこちらを見上げている。

 神秘的な青紫の瞳、その瞳が潤んだせいで年齢以上の色気がでていた。



 ――――これ駄目なやつ――――



 レオの様子をチラ見して、ちょっと遅かったかな……と不安になりながら慌てて連れて行く。

 やばいやばい、この子思った以上に天然の人たらしだ。

 勘違い野郎どもに手を出される前に、エドガー王子と仲良くなってもらわねば。

 と焦る私の気持ちも知らず、また楽しそうに話しかけてくるソフィア嬢。

 ほんとに心配になるなこの子……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る