第15話 ◎カイル・ブラウン①

カイル視点のお話です。

幼少期から始まります。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


「あはは!」


「ちょっとまってよ~!」


「みーつけた!」


 晴れた空、広い庭園に子どもたちの楽しそうな声が響く。


 僕は、皆が楽しそうに遊んでいる姿をベッドから眺めていた。

 産まれた時から体が弱く、少し体調の良い時に外へ出てはすぐに倒れてしまい、周りに心配をかけるたびに申し訳なくなり、そのうち外で遊ぶことを諦めてしまった。


「坊ちゃま、少しは日に当たってみてはいかがですか?」


 執事のヴィクトルが、最近毎日言ってくる聞き飽きたセリフだ。


「どうせ、すぐ気分が悪くなってまたベッドへ戻ってくるんだ。手間をかけたくないから行かないよ」


 と、いつものセリフで返す。そうすると、ヴィクトルは困った表情で仕方がないですねと言って引き下がる。

 毎日同じ繰り返し……同じベッドで起きて食事をして、また寝て起きて同じ会話をする。

 ……僕も普通に外で遊べる身体に産まれたかったな……。


 1日の大半をベッドで過ごし、たまにテラスで読書、以前は体調が良ければ外へ出て、走ったりしていたけれど、倒れるのが嫌で最近は出なくなった。

 全然動かないので食事もあまり食べられない。おかげで成長が遅く、実際の年齢より3歳ぐらいは下に見られた。


 9歳になった頃、あまりにも外へ出ない僕を心配した父が言った。


「カイル、たまには私の職場へ遊びに来てみないか?」


「倒れたら迷惑をかけてしまうので……行きません」


 頑なな僕の返事に、後ろに控えていたヴィクトルが優しくこう言った。


「私がつきっきりで面倒を見ますので、坊ちゃまは気になさらず行動してください」


「いや、ヴィクトルにめいわ……」


「それが私のお仕事ですよ、坊ちゃま」


 さらに拒絶しようとしたら、さらに優しく言い聞かせるようにヴィクトルが言ってきた。


「……わかった。じゃあ行きます」


 そして僕は、生まれて初めて父の職場である王城へ向かった。



―――――――王城―――――――



「おや? ニコラス、今日は息子を連れてきたのか?」


「はい、陛下。カイル、こちらは国王陛下だ、挨拶をしなさい」


 えっ!? ここへ来て早々国王陛下に挨拶!? いくら職場が王城だからって、陛下に突然挨拶とか、先に言ってくれないと……と混乱しながらも挨拶をする。


「うちの息子と歳は近いのかな?」


 王子ってまだ5歳だったよな……。


「カイルの方が少し上ですね」


 少しって4歳も上だけど……。


「そうか、肩書のせいか同年代の友達がなかなかできないのでな。カイル、良ければ息子と遊んでやってくれないか?」


 ええー? 僕、5歳の子と遊べるのかな? それくらいの子って、凄く走り回ったり元気なんだけど……。

 でも陛下の頼み事なんて断れるわけないよね。


「はい、分かりました」


 そして僕は、ヴィクトルと共に王子の部屋へ案内された。


「失礼します」


「こんにちは。先程父の使いの者が来て、君が来ることを教えてもらったんだけど、僕と遊んでくれるの??」


「私で良ければ、よろしくお願いします」


 丁寧に答えたら、エドガー王子は苦笑した。


「今から一緒に遊ぶのに、そんなに堅苦しいのはやめようよ。あ、名前聞いてなかった! なんて言うの?」


「カイル・ブラウンです」


「カイルっていうんだね! よろしくカイル! とりあえず遊ぶ時は王子呼びは無しで! 敬語もやめてね」


 敬語なしで王子呼びもなしって難しいな。でも本人がそう言ってるからそうすべきなのかな?


「はい、わかり……うん、わかった」


 そして遊ぶと言っても何をするのかな? と思ったら、エドガー王子は文字の書き方を覚えたばかりで、今は単語の勉強をしているらしく、それにまつわる遊びを側近たちとしているそうだ。

 ただ相手が大人なので、どうしても手加減されてるのがわかってて、それが嫌なので、子どもと遊べるのが嬉しい! と言われたけれど、僕も4歳上で、外で遊べない分勉強ばかりやってたから、王子が思ってるような相手になるのかな? という不安がいっぱいだった。


「カイルって凄いなー!」


「だから、僕の方が4歳も上なんだからあたりまえだよ」


 結局こてんぱんにしてしまい、エドガー王子が半泣きになってしまったので慌てて歳を伝えたら、ずっとこの調子で褒めてくる。


「でもやっぱり凄いよ、カイルの時は側近たちが手を抜かずに相手してるもん」


 そうなのかな? 確かに側近たちに勝てないけれど手を抜かれてないから勝てなかったのか。

 僕って結構頭良かったんだ??


 そうしているうちに父が迎えに来た。

 結局ボードゲームや本の朗読など、身体を使わない遊びだったので倒れることはなく、初めて楽しかったと心から思える1日だった。


 それから、ちょくちょくエドガー王子の元へ遊びに行くことになったが、ほぼ頭を使う遊びばかりだったので、一度も倒れることはなかった。

 エドガー王子と遊ぶことによりストレスが減ったせいなのか、段々ご飯も食べれるようになり前よりは、少しだけ健康になっていた。

 


――――そして5年の歳月が流れた――――



 今日もまたエドガー王子の元へ遊びに行く……遊びにというか、ほぼ勉強だな。

 私も今年で14歳になった。

 でもまだ虚弱体質なのは変わらず、2歳ぐらいは年下に見えてしまう。

 対してエドガー王子は10歳になって、どんどん立派になっていった。

 昔から運動神経は良かったみたいで、私が居ない時間には武芸の稽古をしていて、身体つきもしっかりしてきた。頭は昔から良かったので文武両道だ。

 ほんと羨ましいなぁ、と思いながらいつも通りに部屋まで歩く。


「!!!」


「?!!!」


 おや? 珍しく王子の部屋の方が騒がしい。どうしたんだろう??


「カイル様、大変申し訳ありませんがエドガー王子が高熱を出してしまったので、今日はお帰りください」


「えっ? 高熱? 大丈夫なのですか?」


「安静にしていれば大丈夫だと思われます。またご連絡致しますね」


「わかりました」


 王子の側近たちに言われ、エドガー王子大丈夫かな? と心配しながら帰った。

 それから、なんと3日も高熱が下がらず、もしかしてこのまま聡明な王子は亡くなってしまうのか?? とみんなが絶望に包まれていた4日目に、やっと熱は下がりエドガー王子が目を覚ました。


 すぐに駆けつけたかったけど、大人達が騒がしく王城がバタバタしていたので、結局会えたのは、王子が目を覚ましてから1週間後だった。


 そして、王子が目を覚まして初めて遊びに行った日……。


「あ、カイル!! 久しぶり!! カイルの虚弱体質って多分栄養と運動とあと日光が足りてないと思うんだ。これレシピ、コックに渡して食事改善やってみて。あと、僕ももうちょっと鍛えたいし、カイルも運動しないとだから、ついでに一緒にこれでトレーニングしよう!」


 突然エドガー王子が言い出した事に頭が回らず、


「はっ??」


 としか返事ができなかった。


 突然のエドガー王子の変わり様に私は驚いた。こんなにぐいぐいと物事を押し付けてくることはなかったのに一体どうしたのかと。

 熱のせいでおかしくなったのか? でも2人でいる時以外は、今までと変わらず王子然とした態度で周りは何とも思っていない。


 謎に思いながらも、あまりにも押してくるので、家では食事療法なるものをやり、遊びに行った時には、エドガー王子が作った器具で簡単にできるトレーニングを一緒にやってみた。


 すると、1ヶ月もするとトレーニングをする時の身体が軽くなってきた。

 2ヶ月、3ヶ月と続けていくうちに遅かった成長が一気に進み、倒れることも無くなり、楽しくなってきた私は、エドガー王子と一緒にやるトレーニング以外にも自己トレーニングをはじめた。

 そして、その変化に喜んだ父親に剣の使い方を教えてもらったりして、1年経った15歳には年相応に育っていた。


 そして、私の父は騎士団の総司令官という仕事をしている。

 なので、父は私が健康だったら騎士に育てたかったみたいだ。

 普通は12歳から騎士学校へ入り、16歳で騎士になるけれど、私は虚弱だった為12歳で学校へは入れず、父は私を騎士にするのは諦めていたようだ。


 だが、それが今になって年相応以上になり、更にどんどん成長しているという事実に父は我慢ができず、途中編入を国王にお願いした。

 国王も私がエドガー王子と仲良くしているのと、昔の姿を知っているので15歳という異例の歳での入学にOKを出した。


 そして、私は色んなやっかみや陰口を物ともせず、たった1年で化け物と呼ばれるほどに成長し、無事に騎士になったのであった。

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