第9話 好みの筋肉

 あっ! いけない、ついついエドガー王子を放置してすんごく考え込んでしまっていたわ。

 ハッと我に返るとエドガー王子も何か考え込んでいたようで、ハッとした表情で目があった。


「すまない、トレーニングをどのようにしたら良いか等、これからのことを考えこんでしまっていた」


 何という事でしょう、筋肉の育成のことを考えるなんて素晴らしいわ!!


「いえ、大丈夫です。それより半年待ってくれということですが、その間はこのように会ってお話はしないのでしょうか?」


 待ってくれと言われたけれど、単に待てばいいのか、それとも待つのは筋肉だけで、今日みたいにたまに会って親睦も深めるつもりなのか、わからなかったので聞いてみた。


「それは……とりあえず月一ぐらいで会ってもらえたら嬉しい……毎月どれぐらい理想に近づいているのか、見て教えてほしい」


 月イチねわかったわ、やる気があるならゴリマッチョになってもらいましょう! といっても、筋肉は好きだけれどはぐくみ方は知らないから、アドバイスとかはできないけれど、理想に近づいてるかどうか言うだけでいいのかしら?


「筋肉の育み方は存じ上げないのですが、私の理想だけ伝えればいいのですか?」


「筋力アップ方法はある程度は知っている。一応これでもそれなりに鍛えてこうなっているんだが……。まぁ、ソフィア嬢が好きなのは騎士団長達のような身体きんにくだから今まで以上に頑張るだけだ。ただ、筋肉にも付き方とか色々あると思うから、それを聞きたいのだ」


 まぁ! ちゃんとそういう事がわかっているのね! そうなのよ、筋肉にも好きな付き方というか形というか、まぁフィーリングなんだけれど、好き嫌いがあるのよ。

 ただ沢山筋肉がついてたらいいのではなくて、実用的でその方の身体に合っているかとか色々あるの。


 私は、ボディビルダーみたいなのは嫌なのよね……ゴリゴリでも格闘家系の筋肉が好きだわ。


 だから前世のゴリマッチョ俳優だと、母親が好きだったシュ〇ちゃんよりドウェ〇ン・ジョ〇ソン! 顔は置いといて筋肉イチオシだったのよね。


 騎士団長達は訓練しながら育んでるからか、すごくいい感じなのよね。


 そこら辺をわかってくれたらいいのだけれど……しかしボディビルダーとかこの世界にいないから説明できないわ。


 基本的に細マッチョばっかりだし、ゴリマッチョは騎士団長達と傭兵とか冒険者達でみんな実用的筋肉、もしエドガー王子が間違えてボディビルダー第1号になったら困るわ! どうやって伝えればいいのかしら。


「ええと、とりあえず先に言えることは、筋肉は筋肉でも実用的な筋肉が好きなのです」


「えっ、そうなのか……では筋トレよりは騎士達と訓練したほうが良さそうだな」


 良かった! わかってもらえそうだわ。


「はい、そのほうが私の理想に近づけると思います」


「方向性はわかった。……まだ時間は大丈夫だろうか? 筋肉以外の話もしていいか?」


 おっといけない、そうよね一応人となりを知るために会っているのだから、筋肉以外の話もしないとね……って言われても何を話せばよいのやら?


 と、思ったのだけれど、意外と筋肉以外の話も楽しくできたわ。


 昔の話とか私が興味を持っている騎士団長達の話とか(ただし筋肉抜き)、何故だかわからないけれどとっても話しやすく、いつの間にか時間が過ぎていて、来る前の億劫だった気持ちが嘘みたいに楽しかったわ。次は1ヶ月後ね。


 こんな感じで話せるのなら、会うことも全然大丈夫そうだし、筋肉もどうなるのかがとっても楽しみだわ。



――――――馬車内――――――



「お嬢様、ちょっとよろしいですか?」


 馬車に乗るなりミアが真剣な様子で訊ねてきた。

 あっ! しまった、そういえば本音を暴露したから、愛想尽かされちゃったかな? どうしましょう……。


「いいけれど、どっどうしたのかしら?」


 噛んだわ……長年付き添ってくれたミアに愛想尽かされるのはキツイわね……。

 でも仕方ないわよね、嘘ついちゃったんだし。


「エドガー王子のことも、視野に入れたほうがよろしいのでしょうか?」


「……えっ???」


「いえ、お嬢様がカイル様に好意を持っていることはわかったのですが、今日の様子を見る限り、エドガー王子も、筋肉が増えれば、お嬢様の旦那様候補に挙がるのでは? と思ったのです。一応引き下げたとはいえ、婚約者に望まれているわけですし」


「ん? んん??」


「レオ様は候補外ということで、なるべく距離を取るよう心がけますが、王子ともなると、やはり不敬にあたることはできませんし、候補になるのならばその方向で色々考えようかと」


 ミア……不敬にあたる様なことをしようと考えていたのかしら。そして、旦那様候補って?


「ええと、ミア? 一体何の話をしているのかしら。私の嘘について怒られるかと思っていたのだけれど……」


「えっ? お嬢様の旦那様になる方は、私にとっても将来仕える旦那様です。お嬢様が好意を持つお方がいらっしゃるのならば、応援するに決まってるではありませんか。そして嘘とは? あっ! 訓練場見学のお話ですか? 確かに驚きましたが、理由が理由なので仕方が無い事だと思います」


「そっそうなのね……。王子の事は私もどうしたらいいのかわからなくて……しばらくは様子見かしら。そしてカイル様との距離も半年の間は縮めないようにするわ」


「そうなのですね。でもカイル様の事は無理に距離をとらなくてもいいと思います。自然に任せればいいと思いますよ。その間にエドガー王子への気持ちが変わるようでしたら、その時はその時に考えればよいのです」


 えぇ……そんな考えでいいのね。

 確かに、自分の気持ちもわからないのに、考え込んだところでどうしようもないものね。よし! 変に頑張らず自然に………ん? 自然に任せるってことは筋肉鑑賞はひかえなくてもいいってことよね? 私にとっては自然なことだし。


 てことは、今後も頻繁に騎士団長達と会ってもいいわよね? それなら半年くらい頑張れそうだわ!

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