第4話 散策

「あら、お嬢様。こちらに庭園があるみたいですよ」


 散策ということで、先ほど行った訓練場とは逆の方向へ(盲点だったわ。そりゃーさっき行ってない方へ行くわよね散策だもの)歩いていたらミアがそう言った。


「花とか広さとか、うちの庭とは全然違いそうね。ちょっと行ってみましょうか」


 誰にも会わないし、とりあえず綺麗な庭だけでも見て帰ろうかしら。


 まぁ、よくある物語では、素敵な庭で素敵な出会いがあったりするのだけれど、そんなベタな話はないわよねぇ……と考えながら庭園へ入っていったら……


「あら、ソフィア様ではありませんか」


 と、庭園に居た可愛らしいご令嬢に声をかけられた。


 えーと誰だったかしら? 淡い金髪で瞳は青灰色、身長は150cm位かしら、ちっちゃくて可愛いなぁ。

 でもお茶会では、お茶とお菓子と王子とカイル様しか見てなかったから覚えてないわ……。


「名乗りもせず、突然声をかけてしまってごめんなさい。私は西の領地のアメリア・エバンスですわ」


 私が狼狽えたのに気づいて名乗ってくれたわ……ありがたやーありがたやー。


「いえ、ありがとうございます。ご存知と思いますが、私はソフィア・ジョーンズです。アメリア様も散策ですか?」


「そうですわ。すぐに帰るつもりでしたのに、いきなり時間がかかると言われたので、部屋にいるのも退屈でしょう? せっかくなので綺麗だと噂の庭園へ来てみたのですわ」


「噂の庭園……」


 そんな噂があったのね? つい呟いてしまったわ。


「ご存知なくいらっしゃったの?」


「はい、偶然近くを通ったので寄ってみたのです」


「まぁ! それは運が良いわ。奥の方には美しいガセボもあるらしいの。私はそちらを見るつもりなのですが……ソフィア様は?」


 んーどうしよっかなー。

 なんか他にも令嬢来そうだしやめとこっかなー、私は騎士の筋肉が見たいのよ!


「私は他を散策します。王城は広いので色んな発見がありそうですし」


「まあ、そうですの……ソフィア様と少しお話をしてみたかったのですが、仕方ありませんわ」


 ちょっと上目使いで寂しげに話すアメリア様。

 うぉぅ! なんだこの可愛い生物は。

 私もこれくらい可愛さがあれば、カイル様を落とせるかもしれないのに! って、まぁ会えもしないのにどうこうできないけれどね!

 ははは(乾いた笑い)


「また、お会いできる機会があれば、是非お話しましょう」


 そう言って私は庭園を出た。

 さて、次はどこに行こうかしら?


「庭園の奥には行かなくてよろしかったのですか?」


 ミアが心配そうに聞いてきた。


「ええ、私はもう一度訓練場へ行きたくなったの」


 やっぱり筋肉が見たい! 思わず心の声が駄々漏れてしまったわ。


「まぁ! お嬢様は、そんなに領地のことを心配なさっているのですね」


 またミアが、都合の良い方向へ解釈してくれたわ。ラッキー! これでまた訓練場へ行けるわ♪


「ここから訓練場へ行くのには、結構時間がかかりそうだけれど、部屋に戻らなくても大丈夫かしら?」


「それは大丈夫みたいですよ。部屋に居るかどうかは、魔法で感知できるようです。例え遅くても、戻ってきた時にお知らせするので、時間は気にしないで良いとの事でした。そんなに遅くなると思わなかったので、説明不足で申し訳ありません」


「いいえ、元々遅くなる予定ではなかったもの、大丈夫よ」


 本当は、速攻で訓練場へ行って、騎士達きんにくを堪能するつもりだったし。

 確かカイル様の情報では、第一から第三まで順番に訓練をしてるみたいだから、今頃は第二か第三がやっているのかしら?



――――――訓練場到着――――――



 やっと着いたわ! やっぱり先程とは違う人達きんにくだわ。第二か第三かはわからないけれど……。

 とりあえず目の保養♡ じゅるり。


「お嬢さん。こんなむさ苦しい所に何の用かな〜?」


 まだ少ししか観察できてないのに、邪魔が入ったわね……。


 後ろから声をかけられたので振り向くと、カイル様ほどではないけれど、とても立派な身体きんにくが!

 わーい! こんな近くに筋肉ラッキー♪ 髪は緑で瞳は黄緑、身長は190cmぐらいかしら? って観察してる場合じゃなかったわ。


「午前中にも見学させていただきました、ソフィア・ジョーンズと申します。王城の訓練場は素晴らしいですね」


 挨拶ついでに、ついつい誉めてしまったわ。


「へ? 素晴らしい?」


「ええ、騎士達の(筋肉の)質の高さが素晴らしいです。うちの領地は騎士達(の筋肉)は育っていないので、訓練場を見れば何かヒントがあるかと思いまして……やはり地道なトレーニング量の違いかしら? 後は……やはり上に立つ団長(の筋肉の仕上がり)――――」


「あ、何か長くなりそうだし割り込むよ、ごめんね〜。俺はレオ・コリンズ。第三騎士団の団長だよ。綺麗なお嬢さんが、こんなむさ苦しい場所を真剣に見てたから何事かと思ったよ〜。そういえば、第一の時に見学者が居るって言ってたけれど、こんな綺麗なお嬢さんだとは思わなかったな」


「え? きれい……?」


 綺麗って褒められたわ! そういえば、身内以外で容姿を褒められたのって初めてだわ、ちょっと恥ずかしいものね。

 思わず赤面してしまったわ。

 王子のご尊顔といい、今日は赤面しまくる日ね……。


「あれ? 赤くなった、か~わい~い♪」


「なっ、かっかわいい?!」


 何言ってんのこの人!! 私が可愛い!?

 まぁこの容姿だし綺麗なのはいいとして(おいw)可愛いとな!


「ははっ、ほんと可愛いね〜♪ ソフィアちゃんは、王子の婚約者決めのお茶会で来たんだよね? 嫁いだら領地には戻らないのに、領地の騎士の育成のために、わざわざ訓練場まで来たんだ?」


「レオ様、からかわないでください。婚約者なんて、なれないものに興味は無いのです」


「えっ? 何でなれないって思うの?」


「それは……この容姿ですし、他に特別なこともありませんし」


「ええ? その容姿で何でそんな後ろ向きなの?!」


「えっ? だって、華奢でおしとやかな女性の方が喜ばれるでしょ?」


「あ〜、それは世間の勝手な妄想。俺はソフィアちゃん好みだな~って、こんなゴツいおっさんに言われても嬉しくないよね〜」


 ゴツいおっさんって、たしかに一回りほど年齢は違いそうだけど……。

 私も少しだけある前世の記憶のせいで、中身は年齢よりも高い……のかはわからないけれど、そんなに違和感はないし、それに何と言っても、それだけの筋肉をお持ちの方に、"好み"と言われて嬉しくないはずがないでしょう!


「いえ、とんでもないです。そう言っていただけると嬉しいです」


「え、まじ? じゃ……」


「ソフィア嬢。こちらでしたか」


 こ、この声は!? レオ様が何か言いかけた時、聞き覚えのある低音ボイスで呼び掛けられた。


「カイル? わざわざお前がソフィアちゃんを探しに??」


 レオ様がカイル様にそう言った。確かにわざわざ何故?


「部屋の魔法で不在なのがわかっていたので、こちらかなと思い呼びに来ました。王子がお待ちです」


「え?」


 王子がお呼びとな。『また話したいと思った令嬢には後ほど連絡する』とか言ってたけれど、まさかの私? あっ、私だけではなくて、他にも何人かいるのかしら?


「わかりました」


 とりあえず、行ってみるしかないわね。

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