鹵獲した魔道具たち
ブリリアントの守りは、攻略作戦に参加したブヒオの手に任せられていた。
「アリシア様、ようこそいらっしゃいました」
「戦局はどう?」
「それが……、恐ろしいほどに敵は守りに徹しているようです。レジエンテ兵など、最近はめっきり戦場で見かけなくなりまして……なんとも不気味なことです」
ブヒオは、そう困惑していた。
今や最前線にして、一番の激戦区。
激しい戦闘を予想していたが、想像に反して敵兵に動きは見られない。王国兵には、もう戦線を押し上げるだけの余力は存在していないのだろう。
反面、絶対防衛ラインと定められたニルヴァーナ砦の防衛は、強固の一言であった。
「ニルヴァーナに向かうなら、ここを通ると思うんです。何かレーダーに反応はありませんでしたか?」
「それが……、残念なことに――」
その反応を聞き、私は唇を噛む。
アルベルトも、彼なりの考えで、確固たる決意を持って結論を出したのだろう。
そう簡単に居場所を知られるようなヘマをするはずがない。それでも、もしかしたらという期待もあっただけに、失望は大きかった。
「ブヒオ隊長にご報告申し上げます」
そんな中、数人の魔族が報告に入ってきた。
「今はアリシア様が、いらっしゃっている。報告なら後で聞こう」
「いえ。そのような気遣いは不要です」
むしろ、こちらの突然の訪問を詫びるべきだ。
伝令で来ていた魔族は、やや恐縮した様子で頭を下げていたが、
「それでは配備されていた魔道具の解析結果についてですが……」
何やら興味深いことを話しだした。
「解析結果、ですか?」
ブリリアントに配備されていた魔道具は、実に多岐にわたる。
客観的事実として、魔道具の研究はヴァイス王国に軍配が上がる。そのため、ブリリアントに取り付けられていた最新型魔道具は、ブラックボックスそのものであった。
以前なら、そのまま放棄されていた可能性がある。
しかし今や、魔族たちは魔道具の重要性も認識しつつあった。フレッグの出した研究成果や、私たち12隊が魔道具を取り入れ、多大な戦果を上げたからだ。
「はい。王国兵のやつらが、そのまま残していったので……」
「それはまた――なんとも杜撰な……」
「まあだからこそ、我々はありがたく再利用させて頂いてるんですけどね」
有用性を理解した一部の魔族は、率先して敵国の魔道具の解析に取り掛かろうとしていたらしいのだ。
ブリリアントの魔道具を、魔族がそのまま手にしたのは、ひとえに王国兵の怠慢と言えるだろう。魔族が魔道具に興味を持つはずがないという油断。長年の研究成果の結晶であり、それをそのまま敵国に明け渡すなど、あり得ない失態だというのに。
「アリシア様も、魔道具に興味をお持ちで?」
「馬鹿っ! アリシア様は、フレッグ室長にも認められた凄腕の魔道具師だぞ!?」
「んなアホな。アリシア様は、戦場でエース級の働きをしておられる。そんな人間が、魔道具にまで精通しているなんて。精通しているなんて……」
この2人は、フレッグさんとも知り合いなのだろうか。
大げさな驚きように困った私は、とりあえず曖昧な笑みを浮かべておく。
「そうだ。例の装置はどうなった?」
ブヒオが、そう尋ねた。
「例の装置、ですか?」
「それが……。ブリリアントの入り口に、まるで効果の想像が付かない魔方陣が残されていてな。研究途中で打ち捨てられたのか、まるで効果は無かったんだが――」
「なるほど……」
興味深い話ではあったが、今はアルベルトの件が先だ。
「それが……、やはり損傷が激しく、動かすには至らずといったところで……」
「魔方陣の精密さが、他のものとは桁違いです。恐らく最新型の魔道具であることは疑いようがないのですが――」
「素直に解析結果を見るなら、恐らく効果が正しく発動した場合には物を転移する機能を持っていると思われます」
「さすがに机上の空論だろう……」
私は、話を聞き流しつつあったが――
「転移、ですか」
気になる言葉を耳に挟み、私はそう聞き返していた。
「アリシア様も、魔道具に興味があるのですか?」
「はい。見せて頂くことは可能ですか?」
許可を取り付け、私はその魔道具を見に行くことに。
あまりにも都合の良い考え。
アルベルトが最終的に、シュテイン王子とともに王宮に向かうのなら――、転移魔法でそこに乗り込めれば。そんな、戦争の在り方そのものを否定するような、あまりに都合の良い考え。
そんな細い糸にも縋りたくなるほど、私は追い詰められていたのか。
内心で、そう自嘲しながら、二人の魔道具師に案内されて向かった場所にあったのは……、
「これは……!」
圧倒された。
効率化された魔術式が、独特な光を放っていた。
イルミナが組み上げた結界の魔方陣は、都市全体を使った大規模な術式であり、あれもある種の天才の所業だと思ったものだけど――これは、芸術作品だ。
食い入るように見つめてしまう。
術式の一部が欠けているけれど……、たしかに機能すれば、物を転移させる仕組みとして成立するかもしれない。
「アリシア様、どうなさいましたか?」
「なるほど……。この魔方陣の製作者は天才ですね――」
惚れ惚れするほどの美しさ。
同時に、思う。
もしこれが実用化され、王国兵が運用していたらどれほどの驚異になり得たかを。
しかし結果として、この奇跡のような魔道具は放棄され、こうして魔族の手に渡って出番が来る日を待っている。
なんという皮肉だろうか。
それでも今、こうして巡り合えた奇跡に感謝を。
「え? まさかこの短期間で、魔術式の構造を読み取ったとでも!?」
「馬鹿な……、あり得ない――」
私をここまで案内した研究員が、そんなささやきをかわしていたが、
「私に、これの修理を任せてもらえませんか?」
私は、気がつけばそう頼み込んでいた。
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本日、書籍版2巻の発売日です!
よろしくお願いします!!
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