転移装置を直します
「え、アリシア様……?」
「正気ですか?」
研究員2人に、困惑されてしまった。
「アルベルトを連れ戻すのに使えると思うんです。戦術的な価値も高いと思います――一刻も早い修復を、どうか――」
「アリシア様の腕を疑う訳ではないのですが……」
「そうですよ。さすがに、あまりにも無茶ではないかと――」
それはそうだろう。
いきなり現れた戦闘を専門に行っていた人間が、突如として貴重な魔道具に手を出そうというのだから。
とはいっても、今の魔族たちにとってこの機会はオーバーテクノロジー。
持て余しているのは見え見えだった。
この装置は、アルベルトを取り戻すために必要だ。
私は、そう確信していた。どう説得しようかと考えていたところに――、
「第4隊隊長、ブヒオ・エスタールの名において許可しよう。アリシアに、この魔道具の修理を任せるものとする」
なんとブヒオが、そんなことを宣言した。
「良いんですか?」
「許可を出さねば、最悪、おまえは反対する者すべてを斬り捨ててでも認めさせようとするだろう? そうなるぐらいなら……、そういうことだ」
いくら私でも、そんな過激なことしませんって!?
他に手がないなら、たしかに選ぶかもしれないですが……。とりあえずリリアナやユーリまで頷いていたのは、後でとっちめよう。
そんなこんなで、一縷の望みをたくして転移の魔道具の修理に取り掛かるのだった。
***
「アリシア様、その……あまり根を詰めすぎないで下さい」
「大丈夫。あとちょっと、あとちょっとだから――」
欠けている術式を補完していく作業。
それは困難を極めた。
恐ろしいほどに精密な魔方陣を、一部の狂いもなく描き出す必要がある。
精神力を摩耗する作業であったが、今やこれは、アルベルトと再会できる唯一の希望と言っても差し支えないものなのだ。
「なんという精密さ――」
「なるほど。ここは、こうなっていたのか……」
気がつけば、多くの研究員が作業現場に集まってきていた。
誰もが感嘆の声を漏らしていたが、施術に集中する私の耳には届かず――
「できた……!」
実に、丸々2日ほどの時間をかけ。
ついに私は、転移装置を修復することに成功するのだった。
「嘘、だろう!?」
「本当にやっちまったよ……!」
「これが勝利の女神・アリシア様の奇跡だ……!」
同時に、どっと歓喜の声が湧く。
「室長! やっぱり、アリシア様を引き抜いて下さいよ!」
「そうです。こんな天才を、軍部に置いておくなんてあり得ません!」
「ああ、またアリシア様が奇跡を起こされた。ありがたや、ありがたや――」
圧倒的な達成感。
そんなお祭り騒ぎムードの中。
私は、ただある事実に打ちのめされていた。
薄々、作業中に分かってはいたのだ。だけど……、完成した姿を見て、私は絶望的な事実に行き当たってしまう。
「これは……、この仕組みじゃアルベルトの元まで辿り着けない……」
この転移装置は、たしかに今後の戦争で大いにに役に立つだろう。
だけども……、
「この転移装置は、魔力を発する生命体が引き合う力を利用したものです。大きな魔力を放つ1つの生物――そんな都合の良い存在が、転移先に居る必要があるみたいです」
転移装置――本来、転移というのはあり得ないほどに高度な魔法だ。
物質をいちどバラバラに分解し、転移先で再構築する手法を取る。遠距離の転移魔法は、使える者が限られる超高度な魔法であり、それを魔道具で再現しようなど神の領域に挑まんとする行為に近かった。
転移魔法では、転移そのものと転移先の指定の2つの工程が必要だ。
この転移装置は、転移そのものに特化しており、転移先の指定には転移者の情報を使うよう術式が組まれている。転移元と転移先に、自然と引き合う2つの巨大な魔力の発信源を配置することで、引き合う力を利用して転移させるという荒業だった。
王宮の傍に、そのような物が都合よく置いてあるはずがない。
なまじ、希望を見つけたと思っただけ絶望も大きい。
そんな時だった。
魔王城から、こんな伝令が飛んできたのは。
「――魔王様の執務室から、心臓が見つかった」
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