16章 新たなる戦いへ
アルベルトの行方
日常が戻ってきつつあった。
12小隊に復帰した私は、翌日から訓練にも復帰し、忙しい日々を送っていた。
そんな日常で、欠けてしまったもの。
――数日経った今、私は一度もアルベルトと顔を合わせていない。
「アルベルトは、どこに……?」
リリアナに聞いても、誰も行き先を知らないという。
ならばと思って執務室に向かっても、そこには居ない。
おかしい。
いつもなら、毎日のように様子を見に来ていたのに。無茶をしないか監視という名目で、何が楽しいのか飽きることもなく。
……いや、それもそれでどうなんだ、と思ったがご愛嬌。魔王様は、リリアナと同じぐらいとっても過保護なのだ。
「別に、文句がある訳では、ありませんけど……?」
そりゃ魔王は、魔族領に生きる魔族を束ねる人間でいうなら国王だ。
本来、毎日のようにふらふらっと会える相手ではないし、この戦争下、忙しいのは納得できる。だけども……、ようやく完全復活した今、唐突に完全放置というのはどうなんだ。
そんな不思議な私の気持ちを聞いた1人の侍女たちが、
「ああ、本当に魔王様にも春が来たんですね!」
「まったく見向きもされてないのかと、気の毒で気の毒で……」
何だか嬉しそうに、そんなことを話しだした。
別に、私とアルベルトはそういう関係じゃ……! いやいや、そもそも見向きもされてないなんてことは……。でも最初は、アルベルトの名前すら聞いてなかったし、気にもならなかったっけ……、などと色々と思い出し、私は何とも言えない気持ちになる。
「魔王様、本当にアリシア様を見つけてから変わりましたよね」
「この間も。アリシア様の処刑の知らせを受けて、あの時の魔王様ったら――」
あ、その話はちょっと興味ある。
侍女2人は、話して良いものかと悩む様子を見せていたが、
「アリシア様って、敵国の聖女じゃないですか」
「ええ、まあ……」
「アリシア様を蘇らせるのに反対した人も多かったんですよ。その、幹部にも――」
ふと、ブヒオと決闘する羽目になったことを思い出す。
「凄かったんですよ、魔王様。話は一向に平行線で――意思決定のために、コロシアムが開かれたんですから」
「コロシアム?」
「魔導皇国の意思を束ねるために――身分を問わずに参加できる闘技大会ですよ。意見が割れた時に開かれるもので……」
何それ、楽しそう。
なかなかに脳筋で、力こそ全てな魔族らしい決め方である。それでも足を引っ張り合って相手を蹴落とすことに全力を捧げる王国より、とても健全なやり方に思えた――私も、随分と魔族に染まってしまったのだろうか。
「その戦いで魔王様は、参加者をちぎっては投げ。ちぎっては投げ。見事に優勝して、アリシア様を蘇らせることを認めさせたんですよ」
それは……、初めて聞く話だった。
本人からはもちろん、魔族の幹部たちからすら聞いたことはなかった。私に気を遣ったのか、あるいは単に11人がかりで魔王に負けたことを恥じたのかもしれない。
「どうして……、アルベルトはそこまで?」
「それは、私たちの口からはとてもとても!」
「でも、魔王様の不在で、アリシア様が探してたって聞いたら喜ぶと思いますよ?」
侍女たちが、ニコニコ微笑ましいものでも見る顔をしている。
不思議なくすぐったさ。
私は、……ああ、嬉しいと思っているのか。正体の分からない感情を、私は他人事のように冷静に分析してみる。
――君には、ボクの花嫁になって欲しいんだ
開口一番、言われたこと。
あの時は、何を馬鹿なことを……、と切り捨てていたけれど。
ここで暮らしてみて。
たしかに、大切にされていると分かってしまって。
その言葉は、今では馬鹿けた幻想ではなく、たしかな実態を持った言葉として私の中に残っている。どの程度、本気だったのだろう。私は、どうしたいのだろう?
次にアルベルトに会ったら、聞いてみようか。
なんてことはないように、さり気なく。
「どうにかしてます。どうにかしてますよ――」
煮詰まった頭をほぐすには、全力で動き回るのが一番だ。
訓練、訓練。
私はリリアナを呼び、全力で組み手に臨むのだった。
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