強敵
結界の耐久度に不安はない。
だけども、こちらから攻撃する術もなかった。
予測される硬直状態。
「ボクのことを忘れて貰ったら困るんだけど」
「私も居ます」
しかし私は、一人で戦っている訳ではない。
今の私には、かつての宿敵であり志を同じくして手を取った頼もしい仲間が居る。気心の知れた戦友が居る。
この状況は簡単に覆せるものだ。
私は警戒を解かず、魔王さんたちに向かって頷きかけた。
「二人とも、お願いします」
「おっと。あなたたちの相手は、わたくしが致しますわ」
魔王さんとシュテイン王子の間に舞い降りる者が居た。
その女はシュテイン王子の操るゴーレムの裏から飛び出すと、こちらに向かって慇懃無礼なお辞儀をしてきた。
白髪のロングヘアがさらりと流されており、その姿は芸術作品のように美しい。見た目だけなら幻想的な美しさすら感じさせる少女。
「イルミナ。気を付けろ、敵は手練れだぞ」
「存じておりますわ。まったく、教会から魔女が二人も現れるなんてねえ」
ころころと笑う少女の声とは裏腹に、その瞳には嗜虐性が垣間見える。
「魔女が、二人ですって?」
「ええ。あなたと――フローラさん」
私の問いに、イルミナは平然と答えた。
聞いていたシュテイン王子にも、特に動揺はない。まさか――
「まさかフローラを切り捨てたのですか?」
「当たり前だろう。あんな自白、ふざけやがって。お陰さまで王族の信頼が揺らぐは、教会に貸しを作ることになるわで、大事(おおごと)だよ」
シュテイン王子は、そう吐き捨てた。
――ああ、そういう人でした。
たとえ愛を誓い合った相手でも、都合が悪くなれば容赦なく切り捨てる。
彼は宣戦布告の手紙を受けて、即座にフローラを切り捨てることを選んだのだ。私が邪魔になったから排除したときと同じように。
「最低ですね」
「いいや、俺は正義だ。これは魔族から人類を守るための聖戦なのだからな!」
シュテイン王子は、獰猛に吠えた。
保身と権利欲に走ったその姿は、どこまでも醜かった。
***
「ボクは今、最高に機嫌が悪い。死にたくなければ下がったほうが身のためだよ」
「怖いですわ。わたくしには、神のご加護が付いておりますので。わたくしたちが勝つことは、決定事項なのですわ」
魔王の怒りの籠もった表情を受けても、イルミナは動じた様子もない。
「言ってるが良いさ」
「アリシア様の敵(かたき)! お覚悟を!」
魔王さんとリリアナが、一斉にイルミナに飛びかかる。
とても巧妙なコンビネーションを交えた刃は、あっさりイルミナの胸を貫いた。どう見ても致命傷に見える。拍子抜けするほど呆気ない幕切れ。
誰もが決着を確信したその時、
「油断大敵ですわ!」
地面に伏したはずのイルミナが消え、突如として魔王さんの真後ろに現れた。瞬間移動、そうとしか表現できないような現象。
「魔王さん、後ろです!」
「なっ⁉」
「遅いですわ――『ジャッジメント!』」
とっさに飛び距離を取ろうとした魔王さんの背中を、イルミナの聖魔法が焼き払う。
「魔王さん⁉ 『ヒーリング!』」
「余所見とは良い身分だね!」
「くっ!」
咄嗟に魔王さんに治癒魔法をかけると同時に、シュテイン王子から再びレーザー攻撃が飛んでいた。辛うじて防ぎ切るが、油断も隙もない。
シュテイン王子の扱うレーザー銃の威力が、少しでも低ければ結界を貼りながらでも戦いに加われただろう。亜人たちの人数が少なければ、ここまで結界の維持に神経を使うこともなかった。その両条件が整ってからの仕掛け――計算して作り出された硬直状態。
『エンシェント・フレア!』
魔王さんと切り結んでいるのを見て、リリアナが魔法を発動。
巨大な火柱が立ち上がり、イルミナを呑み込んだ。間違いなく致死級の魔法が直撃している――それなのにイルミナは何事も無かったかのように復活し、
「無駄ですわ!」
またしても空中から現れ、即座に反撃に転じた。
不浄のものを打ち払う天罰の雷。イルミナがカウンターで放った必殺の魔法だったが、警戒していたリリアナはすれすれのところで回避する。
「不死身だとでも言うの⁉」
「言ったでしょう? 私には、神のご加護が付いてるって」
その後も似たような展開が続いていった。
私は、シュテイン王子からの攻撃を防ぎながら、必死に戦闘を観察する。突破口を探せるとしたら、外から戦闘を観察している私だけだ。
イルミナの戦闘は、シンプルだが実に強力なものだった。
防御を捨てて、確実に相手の命を削るべく攻撃を続ける捨て身の戦法。
致命傷を与えても瞬時に回復されるどころか、攻撃の起点として利用される始末。
そうしてイルミナの動きを観察して、気がついた事実があった。
「魔王さん! 現れた直後のイルミナの動きを観察して下さい!」
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