グラン商会の最後(2)
──絶対に逃さない。
あなたは、この場で殺す。
薄い笑みを浮かべ、私は一歩、一歩と歩みを進める。
「ひぃぃ。警備兵、何をしている! 警備兵っ!」
「無駄ですよ。もうあなたを守る者は、ここには誰も居ませんから」
私は、背中から鎌を取り出した。
黒光りするそれは、警備兵たちの返り血を浴びて禍々しく輝く。
「あはっ、エスタニアさん。言い残すことはありますか?」
「ひぃぃ……。どうか命だけは──」
逃げようとして、エスタニアは無様に尻餅をついた。
そのまま無様に這うように、私から逃げようと必死にもがく。
その顔を踏みつけ、私は耳元でささやくように語りかける。
「あはっ。そうして許しを求める私に、あなたはなんて言いましたっけ?」
「悪かった。悪かった──どうか命だけは許してくれ!」
「死ね! 死ね! って──大歓声を上げてましたよね! 処刑場で、私が断末魔の悲鳴をあげるのを聞きながら! 苦しむ私を見て手を叩いて喜んで居ましたよね!」
私の悲鳴のような叫びを聞いて、エスタニアは恐怖で顔を青くした。
──そうだ、その顔だ。
その恐怖に歪んだ顔だけが、私の黒い感情を満たしてくれる。
まずはすべての指を切り落としてやろうか。
そして醜い命乞いの声も発せないように、喉を潰してやろう。
耳を削ぎ落として、両目をくり抜いて、死ぬよりも苦しい思いをさせてやろう。
そうして、次は──
「第三収容所より報告。襲撃者あり──賊の狙いは奴隷の強奪。繰り返す、賊の狙いは奴隷の強奪。エスタニア様、指示をお願いします」
──はっ、私はなにを……?
魔導具から、声が聞こえてきた。
一見するとグラン商会の商人のように聞こえるが、聞き間違いようがない。
その声は魔王のものであった。
「魔王さん……」
「アリシア!? グラン商会の会長の魔導具だよね。どうして?」
「無事にたどり着けたんです。エスタニアなら、そこに」
私は醜くうごめく人影に視線を送る。
「ひぃぃ……」
エスタニアは、無様にも口から泡を吐き、失禁していた。
「アリシア様──」
「本当にグラン商会を、真っ正面からぶっ潰すなんて……」
呆れたような声が通信の向こうから聞こえてくる。
──これ、作戦は失敗ですね。
一言で言えば、やり過ぎであった。
私は単騎でグラン商会を制圧。
狙いが亜人の奴隷たちであるとは、到底、思われないだろう。
通信による魔力をたどって、亜人たちが捕らわれている収容所の位置を割り出すことは出来ないだろう。
だとしても問題はない。
結局のところエスタニアから、情報を聞き出しさえすれば同じことだ。
「エスタニア、亜人たちの収容所はどこにありますか?」
すっかり戦意が折れてしまったのだろう。
街外れの倉庫の地下。街近くのダンジョンの最奥部。
エスタニアは、驚くほど素直に収容所の場所を話してくれた。
後は魔王たちに情報を伝えて、亜人たちを保護して貰うだけである。
そんなことを考えていると、
「馬鹿めっ! 油断しおったな──!」
エスタニアが、ナイフを片手に血走った目で飛びかかってきた。
──最後まで芸のない人。
何かを企んでいるのは分かりきっていた。
最後ぐらい、少しは意表を付いて欲しいところですね。
私は素手でナイフを弾き飛ばした。
至近距離からの一撃ではあった。
防がれるとは思ってもいなかったのか、エスタニアは呆然と目を見開いた。
「あはっ、さようなら」
──鎌を一閃。
どう、と倒れ伏すエスタニア。
そうして私の鎌は、そうしてあっさりとグラン商会の長──エスタニアの命を刈り取った。
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