グラン商会の最後(1)
私は商会の中を進んでいく。
魔力探知──建物の中の魔力を探り、憎き
「あはっ、エスタリアさん。本当にこの建物の中に居るんですね」
宣言どおり、どうやら本当にこの建物の中に居るらしい。
私のことを舐めきっていたのか、それとも逃げることなどできないとプライドが邪魔をしたのか。
「な、どうして賊がここに!? 警備兵はどうした!?」
「あの程度の戦力で私を止められるとお思いですか?」
こちらを見て警備兵が目を見開いた。
己の職務を果たそうと、私に襲いかかってくる者。
命惜しさに逃げ出す者。
──その末路は同じであった。
「や、やめろ。死にたくねえ──」
「……あなたは、亜人たちのやめて欲しいって声に耳を傾けましたか?」
「はあ? なんだって、そんなこと……」
「あはっ、そうでしょうね。手遅れですよ、あなたはこの商会に加担した──だからここで、酷ったらしく死ぬんです」
くすくすと笑いながら。
私は、容赦なく鎌を振るう。
血濡れた道を、私は歩み続ける。
そうして──
「お久しぶりですね、グラン・エスタニア」
「聖女・アリシア。貴様──本当に生きておったのか」
私は商会の中でも一番大きな部屋にたどり着く。
部屋の中で私を迎え撃つのは、脂ぎった顔の太った中年の男。
──私を陥れるためのパーティを請け負ったグラン・エスタニアその人であった。
◆◇◆◇◆
憎き敵が目の前に居る。
一歩、一歩と私はエスタリアに向かって歩みを進める。
「ふはは、馬鹿め! かかりおったな──!」
エスタニアが、そう叫びながら何かのスイッチを押した。
魔法陣が発動し、私の方に向かって
そして魔力を帯びた蔦は、みるみるうちに私の手足を絡め取った。
「Sランクの魔獣すら拘束する魔導具だ」
宙吊りのまま固定された私を見て、エスタニアはせせら笑った。
空中に拘束された私に、蔑むような視線を送るエスタニア。
「ふっふっふ。しかし愚かなことよ──貴様のことは、たっぷりと奴隷として可愛がった後に、シュテイン王子に献上することにしよう。恨むなら己の浅慮を恨むのだな」
勝利を確信した様子で、エスタニアが嫌らしい笑みを浮かべていたが、
「この程度で、私を捕えたつもりですか?」
「強がるでない。貴様の魔力は、地下牢で散々調べた通りだ。身動きすら取れまい」
「あはっ。この程度で、私の恨みが鎮まるとでも?」
本気で、この程度で私のことを拘束したつもりなのか。
実に下らない。
……こんな相手に良いようにやられたのか。
心を満たしたのは静かな怒り。
私は、集中力を研ぎ澄ませ、魔力を練り上げていく。
──光の加護と
──闇の加護よ
この忌々しい拘束を、打ち破れ。
まったく恐怖はなかった。
光と闇の魔力を勢いよく体外に放出。
それだけでパキーンと音を立てて、私を戒めていた蔦がちぎれ飛んだ。
「なにっ!」
「あはっ、Sランクの魔獣でも拘束できる魔導具でしたっけ? ──ご愁傷さま」
小首を傾げて私は笑いかける。
ぽかーんとしているエスタニアだったが、私の方がSランクの魔獣よりも強かった。それだけの話だ。
「裏切り者! この、バケモノめ……!」
「あはっ。だって私は、魔女なんでしょう? それならこれぐらいは朝飯前ですよ」
今更になって裏切り者ですか。
そうなるように望んだのは、あなたたちだと思ってましたけどね。
エスタニアは、よろよろと逃げようと窓に駆け寄った。
私は支援魔法を壁に向かってかけ、逃走を妨害する。
──絶対に逃さない。
あなたは、この場で殺す。
薄い笑みを浮かべ、私は一歩、一歩と歩みを進める。
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