赤い華を咲かせましょう
魔王たちと別れた私は、早速、グラン商会に向かう。
漆黒のバトルドレスをなびかせ鎌を持ち、憎き
「飛んで火に入る夏の虫だ。本当に1人でノコノコ現れやがった!」
「捕えたら好きにして良いって話だったよな。ひっひっひ、奴隷として末永く飼ってやろうぜ!」
下卑な笑みを浮かべる警備兵たち。
ねぶるような視線──実に不快だった。
警備兵たちは一斉に魔法銃を私に向かって放ってきたが、
「あはっ」
飛んでくる魔弾を鎌でひと薙ぎし無効化する。
グラン商会の庭園を舞うように駆け、鎌を振るい次々と無力化していく。
向かってくる者には一切の容赦するつもりはない。今夜、私はグラン商会を壊滅させるつもりでいた。
「ば、馬鹿な──。グラン商会が開発した最新鋭の魔法銃だぞ……!?」
「そんな旧式の魔法陣。戦場で使ってたら一瞬で死にますよ。こんな風にね──?」
奴らの自信の源は、手にしたグラン商会の商品か。
私は魔法銃の術式に干渉して、魔法陣を書き換えていく。
グラン商会で取り扱われていた魔法銃は、魔力を通して魔弾を撃ち出すタイプの魔法銃である。その命中精度は本人の魔力制御によるところも大きく、込められる魔法にも応用が効かない。
彼らはこれこそが世界の最先端だと豪語するが──私はそうは思わない。
「な、なんだこれは──」
変質していく魔法銃を見て、警備兵の1人が怯えた声を上げた。
「撃て──魔女を撃ち殺せ!!」
「あはっ、無駄ですよ」
あまりにも脆弱。
魔法陣の一部を書き換えてやるだけで、簡単に機能を失わせることができる。
否、それだけでなく──
「闇の加護よ──」
私は魔法銃の魔法陣に干渉して、あっさりと制御権を奪い取る。
銃弾として撃ち込むのは、魔弾などという生温いものではなく、魔族が得意とする呪術。さらに私がアレンジを加えるなら
「あはっ。上手く生きました──眼前に立ち塞がる敵を撃ち抜け!」
自律制御──。
魔法銃は警備兵たちの手を離れ、まるで意思を持つように私の周りを旋回。
そのまま私の手を離れると、次々と
「闇の加護だと……魔女め! そのような邪法を、よくも……!」
「あはっ、そうです。私は魔女ですから──」
呪術に身を蝕まれた警備兵の隊長が憎々しげにうめくが、もう遅い。
立っているのも辛いという様子で、武器を支えにしてどうにか臨戦態勢を維持しているだけだ。
この男には聞きたいことがある。
私が一歩、また一歩と歩みを進めると、警備隊長の瞳に怯えが走った。
「グラン商会の長──エスタニアは、どこに居ますか?」
「……くそっ。魔女め、地獄に落ちろ──!」
「あはっ。地獄なら、もう味わいましたよ」
居場所を言うつもりはないと。
それなら残念ですが──
「さようなら」
私は鎌を一閃。
警備長の首を刈り取り、グラン商会に血の雨を降らす。
返り血をぬぐうこともせず、私は静かに振り返る。
「た、助けてくれ!」
「俺はグラン商会の悪い噂を知らなかったんだ!」
「悪いのはエスタニアの野郎だ。俺たちは何も悪くねえ!」
──今更になって怯えはじめた警備隊たち
白々しい。
常日頃、グラン商会で甘い蜜をすすっていたくせに。
最後まで警備兵としての役割をまっとうしようとした警備隊長の方が、まだマシだ。
この期に及んで醜く命乞いをしようとする姿──醜悪なことこの上ない。
「知りませんね。あなたたちは、私の前に立ち塞がった。だから酷ったらしく死ぬ──それだけのことですよ」
あはっ、と笑う。
せいぜい怯えるが良い。
その恐怖だけが、今の私の心を鎮めてくれるのだから。
「──さようなら」
警備兵たちの体内に入り込んだ呪術が暴走する。
魔法式は一切の容赦もなく肉体を蹂躙していき──やがては赤い華を咲かせて絶命に至らせた。
「さてと。エスタニアさんは、どこですかね?」
私はくすくすと笑いながら、グラン商会に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます