いざ、食材集めの遠征へ!

 そして、またたく間に歓迎会の日が訪れた。



「ありがとうございます、魔王さん。まさか私のために、歓迎会を開いて下さるなんて」

「アリシアのためなら、お安い御用だよ。それより食品はすべて、現地調達したいだなんて、やっぱり君は変わってるねえ」


 呆れたように言う魔王。


 やっぱり、て何だ。

 キールやブヒオなどの魔王軍幹部だけでなく、付き合いの長いリリアナまでうんうんと頷いている。至って普通の要求しかしてないと思うけど。

 そんな私の疑問を余所に、私たちはアレーヌ湖に向かうのだった。


***


 アレーヌ湖に到着し、早速、私たちはいくつかのチームに分かれて焼き肉パーティの準備を始めることになった。

 私と同じチームになったのは、


「頑張りましょうね、アリシア様!」

「今度は君が何を見せてくれるのか──楽しみだよ」

「魔王様、ほどほどにしておかないとアリシア様に嫌われてしまいますよ?」


 リリアナ、魔王、キールの順だ。

 何が楽しいのか魔王は、ウキウキと声を弾ませている。

 平々凡々な私を見て、何がそんなに面白いのだろう?



 まあ良いか。今日は、魔王への恩返しも兼ねている。

 楽しんでくれるなら結果オーライだ。早速、私たちも準備に取り掛かるとしよう。


「魔王さん、ここら辺で取れる一番美味しいモンスターは何ですか?」

「そうだねえ、ピンキーピッグなんて絶品なんだけど……。なかなか姿を見せないし、そう簡単には──」

「ピンキーピッグですね。どんな見た目で、どんな魔力を纏っていますか?」


 私は魔王から、ピンキーピッグなるモンスターの特徴を聞いていく。

 なるほど──炎の魔力が中心で、サイズは小さな猫と同じぐらいだと。



 言葉で伝えるには、あまりにも曖昧な情報だった。

 まだまだ情報が足りない。


「魔王さん、頭の中で強くモンスターを念じて貰えますか?」

「……? こう?」

「その思念を魔力として私に渡すイメージで──そうです、そんな感じで」


 魔力を同調させて、私は魔王の思念を読み取っていく。

 同じ属性の魔力を持つもの同士で波長を揃えることで、意思を伝えるいわゆる「念話魔法」の一種だ。


「ありがとうございます、見えました」

「え、いったい何が!?」

「なるほど、ほんとうに豚みたいなモンスターなんですね」


 呆気にとられた様子の魔王をよそに、私は次の工程に差し掛かる。



「何をしているんだい?」

「少しだけ気配を探ります。意外と便利なんですよ──光の加護よ!」


 私は、魔力を精緻にコントロールし、辺りに解き放つ。

 索敵魔法は特務隊時代から得意としていた魔法で、主に敵の居場所を探るのに使っていた。今回のように特定のモンスターを探すのにも使えるはずだ。



「残念ながら、この辺には居ないみたいですね」

「ボクとしては、君が次々と見せる訳の分からない魔法について、小一時間ほど問い詰めたいんだけど?」


 何故か魔王は、頭を抱えていた。

 特に変わったことはしていないと思うんですけどね?


***


「ピンキーピッグが居るとしたら、もっと森の奥の方だと思うよ」


 そんな魔王の情報を元に、私たちは森の奥に歩みを進めていた。



 せっかくのパーティだ。モンスターの肉だけでは味気ないだろう。

 そう思った私は、ついでに山菜を回収していく。


「理解に苦しむな。何故、わざわざそのような草を食するのだ?」

「な──草じゃありません! 一度、食べてみてください。きっと病みつきになりますから!」


 私の後ろについてきて失礼なことを言うキールに、私はそう言い返す。

 和気あいあいと食材集めは進行していた。


 残念なことに、ピンキーピッグは見つからないけれど。

 あ、あそこにあるのは──!



「立派なキノコが生えてますね! 魔王さん、せっかくなので持っていきませんか?」

「それ毒キノコ! なんでアリシアは、そんなピンポイントで毒キノコだけ見つけてくるの!?」


 あれ? おかしいですね。

 特務隊でのサバイバル生活を経て、随分と食べられる物を見つけるのは上手くなったはずだと自負していたのですが。


「アリシア様は、キノコだけは駄目なんです……。キノコだけは──」

「え? たしか食べられましたよ?」


 リリアナが遠い目をする。


 そんな様子を見て、魔王はくつくつと笑っていた。

 おのれ、宿敵の失態を見て笑うとはなんと非道な──!



 そんなことをしながら食材集めの旅をすること数十分。


「あ! 小規模な炎の魔力反応──これはピンキーピッグです!」


 私は、ついに目的のモンスターを見つけ出す。

 ピンキーピッグ──魔王いわく、ほっぺが落ちそうになるぐらいに美味しいモンスター。



「本当に!? さすがだよ、アリシア!」

「すぐに向かいましょう。あ、念の為に隠蔽魔法を重ねがけしておきますね──!」

「君は本当に高度な魔法を無駄撃ちしていくね……」

「当たり前です。どんなことにも全力で──ですよ?」


 私はメンバー全員に隠蔽魔法をかけ、ピンキーピッグの居場所に向かう。

 そこで見た光景は──



「えいやー!」

「何をしとるんだ!! その程度のモンスター、さっさと倒さんか!」


 犬耳の生えた少年と、小さな豚型モンスターが戦う姿。

 そして──犬耳の生えた少年の後ろには、嫌みな顔をしている王国の奴隷商人の姿があった。

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