第5話
重くないはずの段ボール箱が重く感じられる。
気持ち悪さが抜けないまま、定時になってしまった。
バスの座席にも座れず、段ボール箱を足元に置くこともできず、ふらふらしながらバスに揺られた。
なけなしのちからを振り絞って自分の部屋にたどり着き、膝から崩れ落ちた。
電気を点けずにうずくまっていると、床が軋む音がした。
昨夜からイケメン納豆がいることを、すっかり忘れていた。
こんな無様なところ、見せられない。でも、動けない。
気ばかりが急いて動けずにいると、目の前で、ぐしゃりと何かが潰れた。この音は、段ボール箱だ。
「畑野さん」
多分。納豆が、納豆の入った段ボール箱に乗り、踏みつけている。
「無理して好きにならなくても、いいんです。畑野さんが皆に優しくて自分に厳しいこと、充分にわかります。だから、無理しないで下さい」
明かりの見えない暗闇の中で、納豆に抱きしめられ、目を閉じた。
気持ち悪さが、すっと抜ける気がする。気持ち悪さは、胃の腑ではなく、胸部に澱んでいた。
この日私は、久しぶりに、電気代を節約することをやめた。
煌々と蛍光灯を点け、納豆以外の食品で調理をして、深夜までだらだらと過ごした。
イケメン納豆は、他愛もない私の話に付き合ってくれた。
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