怪しい
「ほえー、綺麗な人なのな」
目の前に座ったエルフを、まじまじと見つめるスズ。
「ちょっと失礼よ。ごめんなさい。良かったら紅茶飲みませんか?」
「いや、結構だ。心遣い感謝する」
「……」
「……」
「……」
「……」
4人のテーブルには沈黙の幕がかかったように静かだ。
スズはお菓子を美味しそうに頬張り、ステラは窓の外を眺めている。
ミリーは間を持たせるように、少なくなった紅茶を飲み干してしまわないようにと、ちびちびと口をつけている。
エルフは、3人と目を合わせない様にと、もう既に見飽きた店内を見回している。
((き、気まずい!))
ミリーとエルフは、心の中で叫んだ。
少しして、コニーが椅子と籠を持ってやってきた。
「エルミアさん、お待たせしました。ついでにエルミアさんに合いそうなサイズのものを何点か持ってきました」
そういうとコニーは籠から胸当てや、弓使いが使いそうな防具を取り出す。
「でも、正直エルミアさんに合うサイズとなると、一から作らないと行けないですね」
「そうなのか」
「しっかりと体形に合わせるのであれば、この子たちのようにオーダーメイドしてもいいかと思います」
コニーはそういって、ステラとミリーを見る。
「ちょっと見せてくれない?」
「いいわよ」
ミリーは立ち上がって、青いマントを脱いで自分の服を見せる。
白と空色をベースに如何にも魔術師らしい服だ。よく見ると、派手な動きをしてもその動きを妨げないような工夫がされているようだ。
それを見たステラも立ち上がり、灰色の外套を外す。
赤と黒で配色された、普通の店では見ないような異国情緒の服を身にまとっている。外套を外すと、肩が出るようになっている。
剣士らしいといえばそうだが、女性らしいデザインになっている。
「今あたしの服も作ってもらってるんだ。楽しみなんだにゃ」
「デザインも豊富なのだな。しかし、値は張るのだろう?」
エルミアと呼ばれたエルフが、コニーに訊ねる。
「そうですね。エルミアさんは胸が大きいので、市販品だと探すのは難しいです。でもオーダーメイドすれば、冒険用の服に悩むことはなくなります」
コニーが商人の目でエルミアを見つめる。
「すぐには手に入らないのだろう? すぐに要り様だから、申し訳ないが、店主が持ってきたもので構わないよ」
エルミアはコニーが籠から取りだした防具をいくつか手に取り、品定めをしている。
「では、ごゆっくり選んでくださいね」
そういってコニーは、他の客の対応に向かった。
「今から冒険者になるんですか?」
「冒険者になる、そうだな。冒険者になるんだな」
ミリーの質問に、エルミアは歯切れが悪そうに答える。
「冒険者登録はしたのかにゃ?」
「登録が必要なのか」
「冒険者ギルドで登録するんだな。 知らないのかにゃ?」
「わ、忘れていただけだ。冒険者になるにはギルドで登録するのは当たり前だからな」
エルミアは装備を手に取って見るが、それが何に使うのか分かっていないようだ。
「着付けして貰ったほうがいいですよ? 結構装備しにくいものもありますから」
見かねたミリーがエルミアに助言する。
「そうだな。ありがとう」
エルミアは店員を呼び、着付けのために店員とともに別の部屋に向かった。
「怪しいわね」
「そうなのかにゃ?」
「うん、怪しい」
「ど、どう怪しいのにゃ?」
スズは顎に指を当て、首を傾げる。
「だって考えてもみなさいよ。ここはハーム。初心者冒険者が集まりやすい町よ」
「そうだにゃ。だから装備の仕方が分からなくてもおかしくはないのな。あたしだって、装着は自信がないのな」
「それにしても変。あと登録のことが気になる」
ステラの言葉にミリーは頷く。
「そう、冒険者になるのが目的なら、最初に『竜宮屋』じゃなくて冒険者ギルドに行くと思うわ」
「それは、そうかも知れないけど……」
「ここからは仮説だけど、エルミアさんは本当は冒険者になるつもりがないのか、何も知らない無知のお馬鹿さんかっていうことになるわね」
「それか、その両方」
「鋭いわねえ」
不意に声を掛けられビクッとする3人。
先程までエルミアが座っていた椅子にコニーが座っていた。
「コニーさん! ビックリしたわよ」
ミリーが胸を撫でおろす。
「いやあ、実に鋭いわね。私も何か変だと思ったのよ」
コニーが3人に近づいて、声をひそめる。
「何か知ってるの?」
ステラが先を促す。
「採寸したときに気づいたんだけど、エルミアさんの服の素材、結構いいやつなのよ。如何にも町娘っていう服なのにね」
「それ、本当なの?」
ミリーが食いつき、顎に手を当てて何やら考えている。
「ね、不思議でしょ」
コニーはにやにやしている。
「ありがとう。助かった」
エルミアが試着室から戻ってきた。
着付けてもらった装備をそのままつけているようだ。多少の違和感はあるが、普通の冒険者に見えなくもない。
エルミアは店員とともにカウンターに向かい、会計をしているようだ。
「どうする?」
ミリーがわくわくしている表情を隠さずに2人に訊く。
「心配」
ステラが短く答える。
「尾行でもするのかにゃ?」
「それよ! 任せたわスズ」
「え、なんであたしなのな?」
「ミリーと私はこの町だと目立つ」
思い返してみると、確かにハームの町を歩くと2人は有名人のように色んな人に話しかけられている。尾行には向かないだろう。
「スズなら、アズキもいるから尾行しやすいじゃない!!」
ミリーは、これだ! という表情でスズに迫る。
「……と………いのにゃ」
「「え?」」
「もっと、2人と一緒にいたいのにゃ! また別行動なのな!?」
スズがそう言うのも無理はない。
今日は3人一緒に過ごして、そして打ち上げに参加する予定だったのだ。それに行けなくなってしまうかもしれない。
あまりにも切ない。
ミリーはステラに特定の間隔を開けて、何度か瞬きをする。
それを受けたステラも、同じように瞬きを返し、深いため息とともにミリーを睨む。
「スズ?」
なだめるようにステラが言う。
「……なんなのにゃ」
「スズが喜ぶかわからないけど……スズの毛繕いとか、一緒にお風呂とか入るから……」
「!! ほんとなのにゃ?」
「うん、嫌ならいいけど」
「嫌じゃないのにゃ! 一緒にも寝るのな!」
「……うん、いいよ。だから……」
そう言われたスズは立ち上げる。
「ほわっ! 今ちょうど出て行っちゃったのにゃ! あたし、行ってくるのな!!」
スズはアズキとともに、慌ただしく店を出ていく。
「「……」」
置いて行かれた2人はお互いに睨み合っている。
「ステラ、今日も他の女と寝るの?」
「何その言い方」
ステラは頬杖をつく。
誤解されてしまうだろう。ただ単に添い寝をするだけだ。
「私と寝てくれない!」
「ちょ、声大きい」
ミリーが店内を見ると、コニーと客の何人かがこちらを見ている。
「……でも、寝てないじゃない」
「寂しいの?」
ミリーは頷く。
結局、昨日ステラはベッドを作って、そこで仮眠を取った。ひとりにベッドはひとつ。
(ホント、子犬みたい。だけど)
「でも、私のこと何だと思ってる?」
「大切な仲間よ」
「じゃあ、さっきの何? 道具みたいに扱った」
先程瞬きを使ったモールス信号で『スズにステラを貸してあげるから』と送ったのだ。
「……」
ミリーは答えずにステラを見つめている。
「昨日もそう。どっちが悪い?」
「……私」
「うん」
「ごめんなさい」
「うん、いい子」
うな垂れたミリーの頭をうりうりと撫でる。
「「「……」」」
その様子を見ていたコニーと数人の客。
(((なにあれ、尊い!!!)))
(なんでみんな添い寝したがるの)
ステラはうんざりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます