報酬受け取り

 かららん。


 ギルドに着くと各パーティーの代表者としてリック、カエデ、ミリーがギルマスの部屋へと、今回の緊急討伐依頼の報告に向かった。

 残ったステラは、魔物討伐の証となる『証明部位』の提示をギルド職員に求められた。

 ステラは事前に、ミリー達が仕留めた単眼ベアーの証明部位と魔石をミリーから受け取っている


「では、こちらにお願いします」

 ギルド職員がカウンターの上に出すように言う。

「ここじゃ、狭い」

「はい? 単眼ベアーの証明部位は犬歯か魔石のはずですが」

 ステラがその言葉に、そういうことじゃないと首を振る。


「死体、丸ごと3体持ってきた」

「え、それはどういう?」

 ギルド職員が何かの冗談だろうという困惑の表情を浮かべる。

「ステラの言っていることは本当よ。買取場か解体場とかの広いところに連れて行ってあげて」

 見かねたアンナが助け舟を出してくれた。

「わ、わかりました。では、こちらに」

 奥の解体場に案内されるステラ。

 それに伴ってスズ、ラン、ヒューム、それとスズがついてくる。


 その他のディックとヴァン、ジオは早くも今夜の打ち上げの算段をしているようだ。



「こちらにお願いします」

 ギルド職員に促され、ステラは異次元から3体の単眼ベアーを出す。

 1体は目がつぶれ、腕一本が欠損、お腹には無数のトゲが刺さったような形跡がある。

 1体は全身傷だらけの状態で、毛皮の状態は良くないが、首から上の状態は良く単眼もきれいに残っている。

 1体は目立った傷は肩の刺し傷程度で毛皮の状態もよく、切り離された首から上の単眼も残っている。


「犬歯取った方がいい?」

 ステラが解体用のナイフを取り出しながら、ギルド職員にたずねる。

「いえ、必要ありません。このまま解体をギルドの方で致しますが、残したい部位などはありますか」

「俺はないね。肉も調理しにくくて美味しくはない。単眼と毛皮は確かに高価だが、冒険者には無用のものだ。」

 ヒュームが答えてくれる。これは職員だけじゃなく、ステラとランに向けた言葉でもある。

「いらない」

「わたしも」

 ステラとランも答える。


「承知しました。解体には時間がかかります。解体後、解体手数料を引いた買取金額をお渡しします。金額の分け方はどうしますか?」

「金はパーティーごとでいい。3つに分けてくれ」


 パーティごとに分けるのは、事前に話し合っている。

 9人で分けた場合、冒険者を引退しているギルド職員である『荒野の矢』が最も取り分が高く、功労者であるステラ達が最も低くなっていしまう。

 既に安定した給料を貰っている『荒野の矢』は、なくてもいいと言ったのだが、冒険者のルールに則り、依頼で得た金は分割することにした。

 結果、パーティーごとに分けることで話が落ち着いたのだ。

 まあ、『荒野の矢』は、今回の買取金をそのまま、今夜の打ち上げ資金にするつもりだから、後輩冒険者が得をするようにはなっている。




 ステラたちがギルドカウンターに戻ってくると、リック、カエデ、ミリーの姿があった。

「ステラ、やっぱり今回の単眼ベアーの出現は、この間のキラービーのせいだったみたい」

 ミリーがどこかばつの悪そうな顔でいう。


「そっか。怒られた?」

「いえ、微妙な感じだったわ。キラービーを駆逐していなかったら、コーラルの町が危なかったし。でも、そのせいでハームの町の近くにキラービーを追って、迷い込んだ単眼ベアーが現れた。私たちは自分の身を守っただけだから、私達に非はない。けど、2つの町のギルド間で今後の対策について話し合いするつもりだって」

 ハームの町のヤクザの身なりをしたギルマスと、コーラルの少年にしか見えない魔人属のギルマスが話し合うのかとステラは思い浮かべる。


「もしかしたら話し合いの場に同席することになるかも、と言われたわ」

「それで、そんな顔してるの?」

 ミリーは自分の思っていることが顔に出やすい。

 頬をむにむにと両手でマッサージをするミリー。

(ミリーって本当、子犬みたい)


「あ、それとキラービーの大群はコーラルから、監視員が見ていたってことで報酬が確定したわ。ハームから金貨2枚、コーラルからは金貨5枚ね。それと今回の報酬も貰っておいたわ。こっちは金貨2枚」

「すごい」

 金貨1枚で、3人パーティなら仕事しなくても1か月は暮らせるくらいの金額だ。それが9枚。


「す、すごい金額なのにゃ!」

「居たのスズ?」

「ずっとステラと一緒にいたのな!」

 ぷんすこスズ。

「おい、嬢ちゃんたち、今回の打ち上げは、夕方橙の刻から『炉端亭』ってところでやるぜ。よろしくな」

 ディックがやってきて教えてくれる。楽しみにしているのがありありと伝わってくる。


「わかったわ。ありがとう」

 ミリーが返事をすると、ディックは手を振りながら去っていく。

「スズも、もちろん来てって言っていたわ」

「そうなのか! 楽しみなのな」

「ミリー、スズ、これからどうする? 宿で休む?」

「とりあえず、『竜宮屋』じゃないかしら。スズの面倒も見てもらったし」

 ミリーの提案に従うことにした。




『竜宮屋』に行くと、コニーは他の客の採寸をしているとのことで、ステラたちはいつものテーブルを陣取ってお茶の準備をした。

 商談用のテーブルなのだが、ステラたちは平気で使っている。自分たち以外でここを使っている人物を見たことがないのだ。


「スズは何をしていたの?」

 紅茶と菓子を口にし、一息を着いたミリーが訊ねる。

「何にもしてないのな。依頼を受けようにも2人が居ないのに勝手に受けられないし、宿にいるか適当にギルドの中をふらついてただけなのな」

「あー、確かにそうよねえ。初心者冒険者の指南をしてくれる『荒野の矢』も私たちと一緒にいたから、仕方ないか」

「そうなのにゃ。でも思ったよりすぐに帰ってきてくれてよかったのな」

「スズのために頑張った」

「本当? って、嘘つかないでほしいのにゃ! さっきまで忘れてたくせに!」

 ステラの一言にガタッと席を立つスズ。

 テーブルの上の紅茶が揺れる。


 スズが立ち上がると同時に、奥から採寸が終わったのかコニーともう一人の人物がやってきた。

「あら、ステラ、ミリー帰ってきていたのね。スズちゃんが心配していたわよ」

 コニーがステラたちに声を掛ける。


「それで悪いんだけど、ちょっとそこ空けてくれない?」

「店主、大丈夫だ。私は気にしない。せっかくの茶会を邪魔しては申し訳がない」


 水色の髪の毛をハーフアップにしたエルフが、コニーに伴ってやってきた。エルフの歳は分かりにくいが、セーラムより背が高く、落ち着いてるように見える。

 セーラムとライアン以外のエルフを初めてみたステラは、『耳が長いな』という印象を受けた。

 セーラムの耳は髪で隠そうと思えば出来る程度の長さだったが、目の前のエルフの耳は、ヒト属の3倍から4倍はありそうだ。

 エルフの瞳は宝石のような緑色をしていて、整った顔をしている。


「あら。そういって貰えると助かります。じゃあ、ちょっとそこに座っていてくださいね。今、私の椅子を持ってきますから」

「え、ちょっと店主?……」

 コニーは朗らかに笑い、奥の部屋へと走っていった。


 テーブルには椅子が4つしかついていない。

 その中の3つは既にステラたちが使っていて、空いている椅子はミリーの隣だけだ。

 まさか、自分がここに座るとは思っていなかったのだろう。

 お茶会に割り込み参加のようになるのが、気まずい。


 エルフは狼狽えたもののすぐに冷静さを取り戻し、咳払いをした。


「失礼する」

 そう断って彼女はミリーの隣に座った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る