陣地合戦?

 ステラ、リック、ヒュームとカエデの4人が拠点に歩いていく途中、遅れたやってきたヴァンとジオと合流し、拠点に到着すると、ミリー達のチームが簡単なスープを作ってくれていた。

「おう、嬢ちゃんたちがスープを作ってくれたんだ。疲れただろう。あったまるぜ」

 ディックが満面の笑みで迎えてくれる。


「皆、怪我はない?」

 ミリーがスープを配膳しながら、6人を見回しながら心配してくれる。

「ヒュームが怪我をしたな。他のみんなは?」

 リックの質問に、ヒューム以外の全員が首を振る。

「ないわい。完全に見てただけだからな」

 ヴァンが事もなさそうにスープに口を付ける。

 少し悔しげだ。


「そうか、良かった。一旦大休憩を取ろう。仮眠の充分じゃないものもいるだろう。ただ見張りは2名立ってもらう。残ってくれる奴はいるかい」

「俺は残ってもいいぜ」

「僕も起きてます」

 ディックとジオが手を上げた。


「ありがとう。ヴァン、ギルドに例の合図を」

「おお、そうじゃったな」

 ヴァンは、上空に3つのファイアーボールを上げる。

 ギルドマスターから指示された合図だ。

 ハームから3つの火の玉が見えるかどうかは分からないが、そういう約束事になっている。成功した合図だ。



 そして、テントに戻った女性4人。

「私、血を浴びたから、シャワー浴びたい。ミリー洗濯お願い」

 ステラはミリーにそう言うと、ステラはシャワーに向かった。


 ミリーはステラの服を、スキル『結解』で作った箱の中に入れ、清浄魔法、洗浄魔法や水と風を使ってジャバジャバ洗う。

 そして、乾燥する際には、ステラがいつもそうするように、花と香木のお香を少しずつ入れる。

「よし、完了」

 ミリーは乾燥した服を籠にそのまま戻す。

 カエデは思う。

(あ、ミリーは畳まないんだ。ステラは畳んでくれたのに)


「コホン!」

 ミリーは咳ばらいをする。

「ベッドは3つしかないわ。分かるわよね?」

 ミリーは2人を睨む。

 ここにはステラ、ミリー、ラン、カエデの4人。2人は誰かと一緒に寝なくてはならない。疲れているのに2人で寝るのは辛いだろう。

「「コイントス!」」

 ランとカエデは、拳を握って気合を入れる。


「違うわよ! 2人とも、もういいでしょ。楽しんだでしょ?」

「コイントスをしたほうがいい」

「コイントスをしないんだったら、私たちが一緒に寝るわよ」

 カエデとランが一緒に寝たら、ベッドが二つ余る。

 そうなるとミリーの策略が上手くいかなくなる。

 つまり、今回の件は『誰がステラと寝るか』という事なのだった。


「そ、その時は、ベッドを無くしたらいいのよ」

「さすがにステラも気づわよ。気付かなくても私が教えるけど」

「な……」

「コイントスしよ?」

 ランが提案をする。

「わかったわよ。するわよ!」


 ぴん、くるくる。ぱしん。

「裏」

「裏よ」

「なら、私は表ね」

 

「いやっふう!! よしよし!!」

 コイントスの結果、ミリーがその権利を獲得した。

 ミリーは当然狂喜した。歓喜乱舞である。


「残念……寝ようかしら」

「おやすみー」

 カエデとランは興味を無くしたのか、適当にミリーをあしらいベッドにもぐりこんだ。


「シャワー出たよ。誰か使う?」

 ステラは長い髪を乾かしながら、シャワーから出てきた。

 冒険者の服ではなく、軽い寝巻に身を包んでいる。

「カエデもランも大丈夫だって。もう休もう?」

 ミリーがそわそわしながら言う。金色の髪の毛をくるくるしつつ。

 

 ランはおもむろにベッドの上に起き上がり、うさ耳の手入れをし始めた。

「うしろのほう、自分じゃ無理。気になる」

 ちらちら。

 カエデも身を起こし、ステラに話しかける。

「ステラ。さっきのお香……なんだったかしら。今貰えないかしら?」

 ちらちら。


「な、何をしているのあなた達! 寝たんじゃなかったの? 約束は守ってよね」

「約束?」

 ミリーの訴えに、ステラが疑問顔でミリーを見る。


「な、なんでもないわ」

「うん、なんでもない」

「気にしないでいいのよ」

「?」

 ミリー、ラン、カエデの言葉に少し違和感があるけど、まあいっか。

 

「ミリー、寝ないの?」

 ミリーはステラが寝た後のベッドに潜り込むつもりだったので立ったままだ。

「ま、まだ眠くないのよねー?」

 ミリーはステラから目をそらす。


「そう。カエデ。これさっきのお香」

「ありがとう。あっ」

 そう言ってカエデは、ステラの腕を絡め取り、ベッドに押し倒す。

「大丈夫? やっぱり体調良くないんじゃない?」

「えっと、少し動悸がするわ」


「ねえねえ、カエデ、ステラ。耳の後ろ、梳いて」

 すかさずタイミングを外さない様に、ランが櫛を2つ差し出し、おねだりをする。

「いいわよ、ラン。ここに寝て」

 ランとカエデは、ステラを挟むこむようにベッドに寝る。

 狭いベッドに3人。

 ランはステラに耳を櫛で梳かれるたびに、満足げな声を出している。


「……3人は、狭くない?」

 ステラがランの耳を櫛で溶かしながら言う。

「大丈夫よ」

 カエデがステラの背中にくっつく。

「平気」

 ランはステラの胸に頭を埋めながら返事をする。


「大丈夫でも、平気でもないわよ! ステラは私と一緒に寝るの! 離れなさいよ!」

「「……」」

 ランとカエデは、ステラに気取られない様ににやりと笑う。


「ミリー、どういうこと? 一緒に寝る?」

「い、いいから! ステラも2人から離れてよ!!」

 ミリーは顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「えっと、ごめんね」

 ステラは2人に断ると、ベッドから立ち上がり、涙目のミリーの前に立つ。

「ミリー、どうしたの? らしくないよ」

 ステラがミリーの頭を撫でると、ミリーが我慢できずに泣き出す。

「ひっく、ひっく。だって、だって……」

「ほらほら、泣かない」

 ステラはミリーをベッドのふちに座らせて、涙を拭いてやる。


「「……」」

 いったい何をしていたのか、何を見せられているのか。

 正気に戻ったランとカエデは自分のベッドに戻って休むことにした。 


 ステラはミリーが寝付くまで、ミリーの頭を撫でていた。

(子犬みたい)




 大休憩の後に、9人はハームの町に帰ってきた。

 合図がハームのギルマスに届いていたのか、門の前では何人かのギルド職員が待ってくれていた。


 門の前で待ってる人だかりの中にいるスズを見て、ステラとミリーが顔を見合わせる。

「「スズのこと、忘れてた!」」

「まあ、教える時間がなかったことにしよう」

「そうね、心配かけたくないものね」

「全部、聞こえてるのな!」


 頭の上に黒猫のアズキを乗せてたスズが、近づいてステラ達を睨む。

「緊急事態だったんだから、仕方ないでしょ?」

「でも、一言くらい欲しかったのな! あたしコニーさんとずっと待ってたのに! 同じパーティーなのに!」

「どうどう」

 ステラがスズの耳をさわさわする。

「はわぁー、って 馬鹿! 騙されないのにゃ! シャー!」

 スズは尻尾をピンと伸ばして、ステラを威嚇する。


「なに、この子、かわいいー。ステラ達の仲間なの?」

 カエデがスズと目線を合わせる。

「こんにちは。私カエデよ、こっちはラン」

 カエデが自己紹介をする。

「あたしは、スズ! どうぞごひいきに!」

 元気良く手を上げて、名乗るスズ。

 商人の挨拶がまだ抜け切れていない様だ。


「スズ、悪いがまだ仕事が残っているんだ。ギルドに行って終了報告をせねばならん」

 ギルドから借りていた物資をギルド職員に渡したリックが、女子5人の輪に入ってきた。

「そうなのかにゃ。では、あたしも一緒に行く!」

 ステラたちと会えて安心したのか、嬉しさ満点、元気百倍のスズである。

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