剣連撃

_チャーリーチームの場合__



 ヴァンに合流したステラとジオ。

「ヴァン、見えてる?」

「いんや、見えてねえ、ホントにいるのかよ」

「照らす。眩しいかも」


 ステラはそう断って、単眼ベアーの頭上に継続して輝く光源を発生させた。

「おお、居た居た。俺が魔術であいつの足を止める。2人はそれを合図に走れよ」


 ステラは剣を両手に一本ずつの二刀流、ジオは走りやすいように大剣をまだ背負っている。

「大地よ大地、我の指示に従い敵の足を拘束せよ。グランド・エンゲージ!!」

 ステラとジオは敵に向かって走っていく。


 単眼ベアーの足元に、人間の腕に見える小さな触手が何本も組付き、その動きを制限している。

(う、なにこの気持ち悪い魔術)

 見なきゃよかったと思うステラ。


「はあ!!」

 ジオが背中から抜刀する勢いそのままに、単眼ベアーの頭めがけて打ち下ろす。単眼ベアーの方が明らかに大きいものの、大剣であれば頭から切り裂くことは出来そうだ。

 が、単眼ベアーは両腕でその剣を受け止める。

「くっ、馬鹿力め。剣を離せよ」


 ジオが単眼ベアーと力比べをしている隙に、ステラは二刀で単眼ベアーに切りつける。


「スキル『剣乱舞』『剣連撃』『舞踏術』」

 ステラは単眼ベアーの胴体に無数の傷を付けていく。


 ジオがその速度に生唾を飲む。

 致命傷にはほど遠いが、すぐに単眼ベアーの全身から血が噴き出し、無数の傷がついていく。


 ジャキンッ、ジャキンッ、ジャキン……。

 剣が堅い物にあたったときの金属音が響く。


 ジオの目にはステラの剣筋が見えない。

 切った後に傷が付く、そのことで剣を振ったということが分かる程度だ。そしてステラは単眼ベアーの周りで踊るような軽快な動きを見せている。

 

 単眼ベアーの皮膚は厚くとても堅い。

 大剣か魔術でない限り、一撃で致命傷を与えることは出来ないだろう。

 ステラは片手剣だ。幾ら傷を付けようとも致命傷にはならない。


『グ、グオオオオオオオ!!』

 単眼ベアーが痛みに耐え切れずに、大剣を離し、雄たけびを上げた。


「なんじゃ、と?」

 ヴァンがステラの攻撃に戸惑いを見せる。


 ステラの剣が、回数を追う毎に速さが増し、単眼ベアーの体を深く傷つけていく。

 単眼ベアーはステラの動きを止めようと腕を振り回すが、ステラがすれすれを跳躍しかわした。

 ステラはかわしながらも単眼ベアーに傷を増やしていく。

 単眼ベアーは自らの血で、真っ赤になっている。


「おしまいっ!」

 ステラが叫ぶと、スパッと単眼ベアーの首を切り落とした。



「「……はい?……」」



「おわったよ?」

「あ、ああ、そうじゃな。単眼ベアーの首を落とすやつなんて始めてみたわい」

「普通、目を刺すんですよね?」

「だって、単眼高く売れるんでしょ? 毛皮は駄目にしちゃったから」

「そ、そうじゃが」


「よいしょっと」

 ステラは単眼ベアーの死体を異次元に収納した。


「リックのところが近い。応援に行く」

「うむ、坊主も行くぞ」

「え、はい!」

 ステラはヴァンの許可を受けると、全力でリックたちの単眼ベアーへと駆けていく。



_ブラボーチームの場合__



 ステラがブラボーチームの現場に駆けつけると、単眼ベアーの右肩には3本の矢が刺さっていた。


 ヒュームが暴れ狂う単眼ベアーの攻撃を受け流し、カエデは魔術詠唱の途中だ。リックは弓に矢をつがえている。



「ステラ、いっきまーす!!」

 ステラが3人が向かって叫んだ。



 ブラボーの3人がその声の方を見ると、ステラがこちらに向かって疾走してくるのが見えた。

「へえ? ステラ?」

 カエデの拍子抜けた声が聞こえる。

「おい! もうそっちのヤツは倒したのか!?」

 ヒュームが困惑から、回復し直ぐに冷静さを取り戻した。


「ヒューム、後退しろ! カエデ詠唱止め!」

 リックは、ステラの移動速度を見て、咄嗟に叫ぶ。

『魔女の娘』、ステラが何するかわかったもんじゃない。最悪こっちにも被害ができるかもしれない。


 リックが2人に攻撃を止めさせたことを確認すると、

「はっ!!」


 ステラは単眼ベアーに一瞬で肉薄し、その首を


 スパン!

 

 と、簡単に切り落とす。

 単眼ベアーの首からは、血しぶきが噴水のように飛び出した。


(スキルは20秒程の継続、と)

 ステラは剣の刃先を見つめ、魔力が乗っているのが見て取れる。



 少しずつ朝を迎えつつある、草原の中。

 昇りかけた朝日を浴び、鮮明になったステラの姿を見て、3人は驚愕した。

 二本の剣を携えたステラは、2体の単眼ベアーの返り血を浴び、その全身を真っ赤に染めていた。


 白い陶器のような肌や、長い銀髪のところどころを赤くし、血で染まっていない部分が朝日を反射し、そのコントラストが神々しくも見える。


「ふう。3体の単眼ベアー討伐完了」


「「「……」」」

 カエデはその場に崩れ落ち、リックとヒュームはステラの姿を見て、何も言えずにいる。


「リック?」

 ステラに呼ばれて我に返るリック。


「あ、ああ。お疲れ様。大休憩にしよう」

「ん。死体は収納魔法でしまっておく」


「ステラ?」

 ヒュームがおどおどしながら、ステラに声を掛ける。

「ん?」

「あ、いや。ステラだよな。うん。む、向こうに行く前に少し血を拭った方がいいぞ」


 ヒュームの言葉を受けて、自信の体を見回すステラ。

 確かにこれは酷い。

「ん、そうする」


 ステラは頷き、短く返事をすると単眼ベアーを収納し、魔法で滝のように水を作り出し、豪快に浴びる。

 ザァーと水が流れていく。

「冷た」


 水を浴びた後で、温風で身を乾かす。

 その風の余波で、草原の植物をかさかさと鳴らした。


「戻ろ」

 ステラの言葉になんとか頷く3人。


「なんでもありだな」

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