出陣
ハームの町中は、昼間の光を浴びているのにもかかわらず、騒々しさとのせいで重苦しく感じる。
ギルドの前には、既に7人の影があった。
既に冒険者を引退した『荒野の矢』の4人と、おそらくは現役の冒険者だろう、女性魔術師2人と男の剣士1人。
「ハームの町じゃあ、これくらいしか集まらんか」
引退したが今でもガタイのいいディックが悔し気に言う。
「仕方ないさ、ここは初心者冒険者の町だからな」
リックは集まった『荒野の矢』以外の冒険者を見渡す。
他の3人の装備は悪くはないが、自分の実力に自信がないのがアリアリと見て取れる。
無駄に自信があるのは危険だが、自分の力を信じていない冒険者も危険だ。Dランクということはそれなりに実力はあるのだろうが、経験は少なそうだ。
「私たちも行く」
ステラ達が7人に合流する。
「ステラとミリーじゃないか。最近冒険者になったばかりだろう? Dランクじゃないと参加できないんだ」
ディックが、やれやれと肩を竦める。
「私たちもう、Cランク冒険者よ」
ミリーが銀色の冒険者カードを『くわっ』と見せつける。
「本物……なのか。いや、考えてみると嬢ちゃんたちなら、可笑しくはないのか」
ディックはしげしげとカードを眺めている。
「何だ、緊張感のないやつらだな」
ギルドから、ギルドマスターのガルクがやってくる。
雑に縛ったロマンスグレーの髪、左目の眼帯。スーツ姿がいかにもヤクザって感じがする。
「現時点をもって君たちに『緊急討伐依頼』を請け負ってもらう。ハームの町の近くに単眼ベアーが3体現れた。おそらく最近発生したキラービーの大軍を追っていたのだろう。今回はギルド職員でもある『荒野の矢』にも参加してもらう。全員で9人、それを3分隊にわけ、3人一組で組んでそれぞれの単眼ベアーにあたってほしい。いいな?」
(うちのシマを荒らそうとするもんがおる。わしと同じ隻眼じゃ。おめえら、チャカ持って走ってこい!)
ステラは勝手にヤクザの組長が言いそうな言葉に変換して、笑いそうになる。
「組み合わせはどうする?」
ステラたちの他に魔術師が3人、剣士が3人、弓使いが1人。
「私とステラは、剣でも魔術でもどちらもできるわよ」
「そうだったな。君たち、ランクと名前は?」
リックがミリーの言葉に頷き、3人の冒険者パーティに質問をする。
「ジオです。Dランク、魔術は使えませんが剣には自信があります」
「Cランクのラン、火魔術が得意」
「私はDランクです。カエデといいます。風魔術と少しだけ回復が使えます!」
少し考えるリック。
「悪いが、俺の方で組み合わせを決めさせてもらう。ディックとミリー、ランがアルファチーム。ヒュームと俺、カエデがブラボーチーム。ジオとステラ、ヴァンがチャーリーだ」
ヒュームは『荒野の矢』のカッコつけ剣士、ヴァンは『荒野の矢』の魔術師だ。
前衛と後衛、そこに遠距離も近距離も出来る者が入っている。チームにはそれぞれ回復が出来るメンバーが必ずいる。バランスのいい組みわけだ。
この短時間で振り分けるのは、さすがの慧眼だといえるだろう。
「すぐに発って欲しいが、準備もあるだろう。野営の装備もはこちらで準備するから、持って行けよ。橙の刻(18時)にはここを出てもらう。その間にジョブ変更等の準備をしたければ済ますように」
そう言ってガルクは支度金として、一人当たりに小金貨を3枚配った。
ステラのもとにジオと、ヴァンがやって来る。
「おお、ステラと一緒に戦うことができるなんて思ってもなかったがな。一応わしが一番経験がある。このチームの指揮はわしが取るぞ。いいか?」
ヴァンがあご髭を撫でつけながら言う。
「大丈夫」
「よ、よろしくお願いします」
「うむ、ではジオは大剣を持っているようだが、重戦士系統のジョブは持っているか?」
「いえ、まだ上級職は選択できないので『剣士』だけです。ですが、普段から大剣を盾代わりにして戦っています」
「なら、いつも通りの戦い方で頼む。単眼ベアーは一撃は重いが、遅い。よく見ればかわせる。無理に受けるな。ステラはどういう戦い方をするんだ?」
「手数勝負。今のジョブは『舞術剣士』だから」
「ふむ。珍しいジョブを持っておるな。ならステラが攻撃の起点に、坊主とわしがサポートする形で行くぞ。では準備にかかってくれ」
「ほうほう、ヴァンも丸くなったな。で俺らだが、リーダーはどうする?」
偉そうに腕を組んで笑うディック。
ミリーとランが同じ、アルファチームだ。
「え、ディックじゃないの? 一番の先輩でしょ」
「いや、俺は前衛だ。後ろを見るほど器用じゃねえ。俺はミリーをリーダーに推すぜ」
「私には指揮は向かない。お願いしたい」
「え、えええ!!」
「まあ、そんなに固くなるなよ。戦闘の指揮はミリーに任せるってことさ。その他は一応俺に従ってもらうってことで。んで、基本的な戦い方の提案をするが、俺が敵を食い止める。その間に2人は魔術で攻撃してもらって構わない。ただし、俺に当てるなよ?」
「大丈夫。当てる」
ぐっと拳を握るラン。
「フリじゃねえぞ」
「当てても、腕一本くらいなら治せるわ。当てましょ」
ミリーが親指を立てる。
「おい、お前ら変に意気投合するなよ」
「おお、みんなやる気じゃないか。俺らはどうする?」
ヒュームが涼しそうに笑う。
「『いつも通り』さ。カエデは好きなように魔術を放って良い。それに合わせて、俺らは動く。リーダーは俺が務める」
「え、いいんですか? さ、作戦とか考えなくて」
カエデが心配そうに言う。
「大丈夫、『荒野の矢』はもともと、そういうパーティなのさ。俺らは苦労する役回りだからな。さて準備しようか」
「はいはーい、重い荷物は私たちが持つわよー」
手を大きく挙げたミリーが、再度集合した面々に向けて告げる。
「詳しくは言えないけど、便利な『収納魔術』だと思って」
ステラが首を傾げながら言う。
テントの資材や食料を、次々に異次元に収納する様子を見て、他の7人が驚く。特に魔術師は。
「なにあれ」
「ど、どこにいっちゃったの?」
「うっほお! そんな魔術があるのかあ! たまらん、たまらんぞおお!」
雄たけびを上げたのは、ヴァンである。もちろん。
「赤の刻(21時)までは歩き続けてくれ、ヴァンの光魔術で暗くなっても野営の設置は問題なくできるだろう。頼んだぞ」
ギルドマスターの言葉で、討伐に向かう9人。
その影を夕日が照らしている。
(これが全員サムライだったら、良かったのにな)
ステラが少し残念がる。
((でも……))
ふと、ミリーとステラの目が合い、お互いに疑問顔になる。
((何か、忘れているような気がする……))
ステラとミリーが抱いた疑問は、他の冒険者の話す冒険譚に消えていった。
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