リック
キラービーの素材を買い取ってもらったが、キラービーの大群に関する特別報酬に関しては、キラービーの周遊の有無の事実確認や、コーラルと調整して金額を決めて後日支払われるようだ。
スズの冒険者登録を終えて、3人はギルドの中の武器屋に来た。ハームのギルドの建物の中には、武器屋や防具屋もあるため、初心者には至れり尽くせり。
「スズは、魔術師の装備の方がいいわよねえ……」
ミリーは、スズの体格にも合う防衛杖がないか品定めをする。
「でも、あたし魔術使えないよ?」
「え、そうなの? 召喚士は魔術師系統でしょ?」
「そうかもしれないけど、魔術なんてひとつも使えないのな」
スズは黒虎のアズキを召喚している。今は虎ではなく猫サイズに小さくなってスズの頭の上に載っている。
「ステラも、ミリーも魔術どうやって覚えたのな?」
「私は気付いたら使えてた」
セーラムが使えるので、面白半分で真似しているうちに自然と使えるようになったステラ。
魔術は『詠唱さえすれば絶対に発動するもの』と思っていたステラだが、ハームの町で元冒険者の『荒野の矢』から話を聞いて、魔術には生まれ持った素質が必要なのだと知った。
「私は訓練したわよ。水に浸かったり、土を触ったりしてね。親和性を高めていったのよ」
「「親和性」」
スズとステラの声が重なる。
魔術でいう親和性は属性との関係を差し、魔法では得手不得手に関係している。似ているようで少し違う。
「魔術の素質がないっていう人でも、訓練次第で何かしらの魔術がつかえたりするから、スズもそのうち使えるかもね」
ミリーは、魔法を使う自分が魔術の説明をしているということに、むずがゆさを覚える。
セーラムもきっとこういう気持ちだったのだろうか。
「魔術! 使いたい!!」
スズは、親和性を高めれば自分も使えるようになるかもしれないと希望を抱く。
「でも、今は使えないのな。だから、ナイフとかのほうがいいのかも」
「迷うわね」
うーんと悩む3人。
「お、ステラとミリーじゃないか」
声がした方を見ると、『荒野の矢』の弓使いリックが立っていた。
「久しぶりだな。どっか行ってたのか?」
「さっきコーラルから帰ってきたのよ。久しぶりね」
「うん、久しぶり」
ステラ達は、リックと話すのが好きだった。
『荒野の矢』の他のメンバーは変わり者が多いが、リックは常識人の中の常識人だった。無駄に声がでかい剣士や、すぐにカッコつけたがる剣士、少しマッドな要素が入っている魔術士のなかでリックは普通だった。いい意味で普通。
「2人がここで、武器を買うとは思えないから、そっちの子の武器でも買うのかい?」
「そう。この子、さっき冒険者登録したんだけど、どの武器にしたらいいかと迷っていて」
「こんにわ! スズって言うのな!」
スズは元気に手を挙げて挨拶をする。
「知り合いなのな?」
ミリーが、『荒野の矢』と自分たちの関係をざっくり教えた。
「おお、この方が有名な『荒野の矢』なのな!?」
「あはは、現役時代よりも有名になって困ってるよ」
「リック、明るくなった?」
ステラが知り合ったときは、無口なおじさんのイメージだったのだが。
「まあ、ここ最近は先生みたいなことやってるからか、話すのが苦にならなくなってな」
苦笑いをするリック。
「しかし、スズもそうだが、嬢ちゃんたちは相変わらず綺麗だな。会うほどにびっくりするよ」
平然と言ってのけるリック。
人を選びそうな言葉でも、リックなら不思議と嫌じゃない。
「それで、そんなスズにオススメなのが明日開催される、うちらの指南なんだが」
「褒めて勧誘するとか、商売人のやり口よ?」
「あはは。勧誘といえば勧誘だが、俺らの指南では剣とか弓、ナイフの使い方も教えてる。基本的な使い方はもちろんだが、実践で気を付けることとかもな。だから、武器に迷っているなら、指南で体験してみるものいいかもな」
「指南かにゃ。最初は参加するつもりだったんだけど、ステラたちと一緒に依頼受けてもFランクになれるから、どうしようかと思っていたのにゃ」
初心者冒険者のスズのランクはGランクで、先輩冒険者と共同でないと依頼を受けることができない。初心者が無理で危険な依頼を受けないようにするための措置である。
ハームのギルド主催の冒険者指南の場合、「銀の森での薬草採取」も内容に含まれているため、参加すればFランクに昇格できるようになっている。
「ステラと私は明日、コニーたちと相談することあるから、参加してきてもいいんじゃないかしら」
「なら決まりだな」
武器屋の中で買い物を続けるというリックを残し、3人はスズの初心者指南の申し込みをした。
「そういえば、アンナさん、化粧水どうですか?」
アンナはすっかりステラ達専属になっていた。
「どうもこうも、すごいわよアレ。化粧なんてしなくても良くなったくらいよ?」
アンナの肌は確かに綺麗になっている。
若返っているといった方が正しいかもしれない。
「困ってることはない? 例えばヒリヒリするとか、違和感はないかしら」
「そういったものはないわね。スーッと肌に馴染むから使いやすいわよ」
化粧水は問題なく使えているらしい。
獣人であるスズにも使ってもらったが、問題はなかった。ちなみにスズのボサボサの髪にも使ってみたが、いい効果は得られなかった。
肌の化粧水の他に、髪の手入れ用も準備したいが、調合方法が分からない。
「ありがとう、アンナ」
「お礼を言うのは、こちらの方だわ」
ギルドを出たステラ達3人は、今度は『竜宮屋』のコニーのところへやってきた。
スズの防具の調達と、化粧水の話をするためだ。
「いらっしゃい! あら、2人とも帰ってきたのね」
コニーが明るく迎えてくれる。
「ただいま。この子の防具を選んでほしいんだけど」
「この子……ね。拾ってきたの?」
「そんなわけないでしょ? いくら猫だからって」
「冗談よ。私コニーよ。よろしくね」
「あたし、スズなのな」
スズは元気よく手を挙げてアピールする。
「スズちゃんこっちに来て。採寸するわ」
コニーはスズの手を引いて、奥の部屋へと入っていく。
店内には客が2人いるが、それぞれ売り場であれかこれかと悩んでいるようだ。ステラ達は他の客をよそに、店内のテーブルに座ってお菓子を広げ、お茶にした。いつも通りの光景だ。
お茶は、紅茶ではなく薬草茶にした。
いくらステラたちとは言え、さっきハームの町に着いたばかりなのだ。
自覚はないものの、疲れをケアする必要はある。
カン、カン、カン、カン!
カン、カン、カン、カン!
一定の間隔で鳴らされる鐘の音が4つ。
それが何度か繰り返される。
非常召集の合図だ。
鐘が4つは、Dランク以上の冒険者を呼ぶための警鐘だ。
「ミリー!」
「行くわよ!」
拡げたお菓子をそのままに、2人はコニーの店から出てギルドへと走っていく。
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