休日にて

 頭の上の猫耳をピコピコさせ、ステラに笑顔を見せる少女。 

「そうそう、そっちの銀色の髪の子が旨そうに食ってたから覚えてたのな」

 さっきから『な』が微妙に『にゃ』に聞こえる。


 少女はキアラの目の前にひょこひょこ進んで、依頼内容を伝える。

「えと、ハームの町まで護衛依頼を出したいのな。屋台を引いていくつもりだから徒歩になっちゃうんだけど、大丈夫かにゃ?」

「徒歩でですか? 2泊……屋台を引いているからもしかしたら3泊は掛かってしまいますよ? それに伴って、依頼金も多くなってしまいます」


「大丈夫、そのために今日まで稼いで来たんだから」

 そういって革袋を持ち上げて見せる少女。

「わかりました。でも正直、こんな依頼に集まるかはわかりませんよ? ハームの町に行くDランク以上の冒険者が自体少ないですし、期間も読めませんし」

 

「そ、そう、なのな?」

「まあ、依頼を受けてくれそうな冒険者がいないでもないですけど」

 と、ちらとステラ達を見るキアラ。

「出来れば、女冒険者がいるパーティーが嬉しいんだけど……」

「その条件だと、さらに数が減ってしまいますね……」

「あたししかいないから、一応、心配なのな」


 うんうんと頷くキアラ。

「ならもう決まりね。この子達、今日Dランク昇格試験に合格したばかりだけど、どうですか? 信頼は出来ます」

「この子達が?」


 ステラたちを見る少女の猫耳が、ぴくぴくと動いている。

 顔見知りではあるし、見た感じ年も離れていない。

「おお! 是非とも頼みたいのな! 都合は合わせるのな!」


「いいわよ。喜んで受けるわ!!」

「うん、これも何かの縁」


(あの耳モフモフさせてくれないかしら……)

(もしかしてあのサンドイッチ食べ放題!?)



 一日休みを取ってから、ハームへの護衛依頼を受けることにした。


 初めてきた港町で、買い物と観光をしたい。

 渡来品の店を見て周ったり、武器を買いおなすのもいいだろう。ステラの剣は昇格試験の時に刃がボロボロになってしまっているから。

 渡来するものは武器や食料だけでなく、書物などの娯楽品もやってくる。

 だから、丸1日の時間をかけて、町の中を適当に見て回りたい。


 そのことをギルドで話すと、依頼主である黒猫セランスロープの少女、スズも「面白そうだから、あたしも見て回りたい」と、ぴょんぴょん飛び跳ねたので、それならと、町を散策することにした。



ーーーー


 休みの日。

 

 朝の二度寝を存分に楽しんだステラは、空腹に耐えかねベッドから起き上がり、寝ぼけ眼を擦りながら部屋を見ると、既にミリーの姿はなかった。

 多分先に町に出ていったのだろう。

(珍しい。いつも私が先に起きるのに)

 ベッドの上で、大きな欠伸をしつつ、グーッと背伸びをする。


 ステラの左上腕には、セーラムの『六花の魔女』の紋章である、六角の雪の紋章がついている。しかし、ミリーのものとは違い、ステラの雪の紋章の周りには、ぐるりと楔形の文字が囲んでいる。

 ステラは、この楔形の文字が、自分の身を守るためのものだということは知っていた。

 自分の中に流れる、魔人属とは違った、ヒト属と『魔物』の気配が融合した気配を誤魔化すためのものだ、と。

 楔形文字は、古いエルフ文字らしい。色んな言語を学んできたステラだが、どんな言葉が書かれているのかは分からない。 


 手櫛でシャッシャッと髪を梳かし、ベッドから這い出てて今日の服について考える。

(ミリー、休日用のお洒落な服で行ったよね? 休みだし)

 とりあえずと、顔を洗い、セーラムに精製法を教わった化粧水を、顔にシャバシャバかける。

『こういうのは、惜しげなく使うのがいいんだよ』

 と、セーラムが言っていたことを思い出しながら。


 今日の服の気分は……。

 収納魔法で服を取り出す。面倒だから髪はまとめない。

 服に袖を通し、忘れ物がないか一度確認して部屋を出る。

 荷物は、基本的に収納魔法で異次元にしまっているが、部屋に出し忘れたのものがあると、わざわざ取りに来ないといけない。


「あ、忘れてた」

 ステラは宿屋を出る間際、受付にも見えない死角で、異次元から小さな鞄を取り出す。

 外では、鞄を通じて異次元から色んなものを取り出すため、鞄は必須になっていた。鞄がないと今みたいに、いちいち物陰に隠れないといけない。


「思ったより、日が高い」

 手の平を傘にして、太陽の位置を測ってみるが、その眩しさに負けて目を細めることしかできない。


 空腹をまず満たすためにステラは、野菜や蒸した魚介類等を、薄く焼いた小麦の生地に巻いたものを屋台で買った。

 これなら、歩いていても食べられるし、邪魔にならない。

 

 モグモグしつつ、キョロキョロと町を歩く。


(ミリーは……スズと一緒かな)

 探知魔法でミリーの魔力反応を探ると、割と遠い場所にいるのが分かる。

 町の地図が手元にあるか、この町の建物の場所を把握していれば、詳しい場所を特定できたかもしれない。


(今度から町に来たら、最初に地形を把握しよ)

 ちょうど、食事を食べ終えると近くに武器屋があった。

「お」


 口の周りと手の汚れを、清浄魔法を付与したハンカチで拭き取り、武器屋に入る。

「おおー」

 外観に比べてかなり中は広く、剣はもちろん弓や矢など、冒険者に人気の装備品が並んでいる。変わったところでいうと、鞭や爪などもあった。


 目当てのカタナがないかと店内をザッと、見てみるがないようだ。

「お嬢ちゃん、誰かに贈り物?」

 口髭を生やしたエプロン姿の男が話しかけてきた。

 どうやらこの店の主人らしい。


「違う。私が使う剣」

「ほう。そういう風には見えんが。人は見かけによらんからな。気に入ったのがあったら、店の奥で試し切りも出来るからな」

「これと近いものが欲しい」

 ステラは背中から鞘に収まったままの自分の剣を取り出す。

 いかにも最初からありましたというように出すが、主人は驚く。


「どっから出した!? まあ、いいかどれ見せてみな」

 驚きはしたものの、冒険者には不思議な能力を持ったものが多いうえ、冒険者のスキルなどを詮索するのは御法度だ。

 主人は鞘から剣を抜き、訝しげな顔をする・

「ぬ。片刃……なのか。わざわざ片方の刃を潰しているな」


「うん、無駄に生き物を殺したくないから。殴るため」

 その言葉に主人は、ステラの赤い瞳をじっと見つめる。

「うん、嘘はついてねえみてえだが、確かに両刃だと、どうしても殺してしまうか。しかし、片刃の剣か、変わってるな。ランクは?」


「……C……になったばかり」

 ステラは悩んだが、ちゃんと返答することにした。

「Cね。うん。今まで使ってた剣で足りないところとかあったかい?」

 真剣な顔の店員の質問に、ステラは考える。

 銀の森で魔物を狩っていた時には、気になることはなかったけど。


「おじさん、スキルにも詳しい?」

「ああ、多少はな」


 昨日、ギルドでジョブを選んでいる時に見た、上級職の『剣士系』の大体のジョブに付加されるスキル、『剣解放』が気になっていた。


「あー、『剣解放』を使える剣は、こういう武器屋にはねえよ。というか、鍛冶屋に行かんと打って貰えん。しかも腕が良くないと無理だ。その人に合わせた能力になるからな」

「鍛冶屋」

「そうだ、この町には剣を修復はしてくれても、新しく打ってくれる鍛冶屋はないんだ。しかも、『剣解放』が出来る剣を打てる職人は、王都の向こうのぺザンテの町辺りだろうな」

「そっか……」


「まあまあ、そんなに落ち込むなよ。でも、そのスキルを知ってるってことで、嬢ちゃんが強いってのがわかった。元から片刃の剣は少ないが、うちにもある、見ていってくれ」

 主人はステラを片刃の剣に案内するが、ステラは一つの剣が気になり足をとめる。

「どうした?」

「この剣」

 大剣を指で差す。

 ステラの身長と変わらないくらいの大きさがある。


「これは渡来品なんだ。向こうで有名な鍛冶屋が打ったもんらしい。わかるのかい?」

「うん。他のとは違う。頑丈? なのかな。魔力がある」

 魔力で剣全体が保護されるようだ。

「そりゃ本当かい? そいつぁ、よかったぜ。俺も気になって迷った末に仕入れたんだ。そういうことなら、もうちっと値を上げとくかね」

 主人は嬉しそうに笑う。

 剣の魔力に気づかない主人が、この剣を仕入れたということは、彼の持つ勘や培ってきた目利きのおかげなのだろう。


 その後、いくつか試し切りをしたステラは、そのなかで良さそうなものを2本購入した。もともと使っていた剣は、ただ同然の値段だったが武器屋に買い取って貰うことにした。

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