Dランク冒険者

「そうそう、警戒することに越したことはないけど、もうちょっと女性らしくしましょうね」

 ツカツカとヒールの音を鳴らしながら、20台前半くらいの魔術師の格好をした女性が、テーブルに近づいてきた。


「ちょっとお話しいいかしら。私はDランク冒険者のリンス、魔術師よ」

 ミリーとステラは、顔を見合わせる。

「ええ、いいわよ。どうぞ。私はミリー」

「ステラ」

 二人が自己紹介をすると、リンスはミリーの隣に座った。

 リンスは薄紫の髪を肩まで伸ばし、深い紫色の瞳を携えている。女性から見ても大人の魅力溢れる女性だ。


「よろしくね、ミリーちゃんとステラちゃん、それでお二人はGランク?」

「そ。だから依頼に一緒に行ってくれる先輩冒険者を探してるってわけ」

「困ってる」

 二人はリンスを見つめる。

 この機会を逃したら次はいつになるかわからない。


「ふふ、いいわよ。お姉さんが一緒についていってあげる。でも明日の夜はちょっと用事があるから、明日の朝の出発がいいのだけれど。この時期は蝙蝠マウスとか植物魔物なら、どの町でも常時討伐依頼にあるから、それでも良ければ」

「私たちも出来るだけ早い方がいいから、それでお願いするわ。常時討伐依頼だったら、朝一にギルドの前に集合で集合でいいわよね」

「よろしくね。じゃ、私はこれで」

 リンスは、手をあげて店を出ていった。


「……最初にしてはなかなか、いい感じじゃない?」

「うん。順調だね」


ーーーーーー 


 次の日、ギルドに行くと既にリンスが入り口で待っていた。

「リンス、早かったのね」

「リンス、おはよう」

「おはようございます。さ、中に入りましょ」


 かららん。


「あら、ステラとミリー。おはよう。そちらの方は?」

 ギルドに入ると、アンナが出迎えてくれた。

「こっちはDランクのリンス。昨日、宿屋の食事場であったのよ。一緒に依頼に行ってくれるってことになったの」

「そうなのね。ハームのギルドにようこそ。リンスさん」

「よろしくお願いするわ」


 アンナに簡単に挨拶を済ませた3人は、依頼ボードで依頼の確認をすることにした。

「蝙蝠マウスの常時依頼とは別に、最近できた狩場での討伐依頼あったわ。この場所なら、夕方までには帰ってこれるわね。受付に行きましょう」

 リンスが依頼をすぐに見つけ、依頼ボードから依頼書を外す。

「私もリンスと一緒に受付に行く。ミリー待ってて」

 ステラとリンスは二人で受付へと向かって行く。

「うん、いってらっしゃい」

 ミリーは情報ボードを確認することにした。


「はい、ではDランクのリンスさんとGランクのミリーとステラの共同での依頼になりますね。今回はGランクの教導という意味もありますので、リンスさんお願いしますね」

「理解しているわ」

「では、リンスさんのカードを確認しますね」

 アンナが、リンスの経歴を確認するためにカードを石板の上に置いた。


「カードをお返しします。教導を伴う依頼を沢山受けているんですね。リンスさんなら安心してGランク共同依頼任せられそうです」

「ありがとうございます。私としても女性冒険者が増えることはうれしいことですからね」

 リンスはアンナに向かって微笑む。

「楽しみ」

 小さくガッツポーズをするステラ。


「受注が済んだようね。じゃあ、早速行くわよ」

「ええ、準備はもういいの?」

「大丈夫。宿でお弁当も作ってもらった」

「さすがね、私も準備は済んでいるわ。行きましょう」


 楽しそうにギルドを後にする三人。

 まるで親戚のお姉さんと一緒にピクニックに行く子供2人に見えた。



 蝙蝠マウスの住処は、他の魔物と比較して、人間の生活圏に近いことが多い。

 彼らの厄介なところは、繁殖力が強く、家畜……場合によっては人間をも襲うことがあることだ。蝙蝠マウスは決して強くはないのだが、基本群れで行動するため時として驚異になる。


 蝙蝠という名の通り飛行することが可能で、家畜や魔物、人間の血を主食としている。一匹当たりの吸血量は多くなくとも、それが群れであれば貧血はもちろんのこと、死亡するケースも少なくない。例え死亡を免れたとしても、後遺症を引き起こすことがあるから注意が必要な魔物だ。


 冒険者を雇えない村やその周辺に、蝙蝠マウスが出現した場合、家畜を餌としておびき寄せ、火のついたこん棒や松明などで村人達が退治するらしい。

 蝙蝠マウスは火が苦手だから、火魔術を使えば割と簡単に一つの群れを壊滅させることは出来るが、それでも世界規模で考えれば、全く絶滅しないあたりがまた、蝙蝠マウスの脅威なのかもしれない。

 とにかく、蝙蝠マウスの討伐は気を付ければ、何ともない簡単な仕事だ。

 特に魔術を使えるものにとっては。


「と、言うのが蝙蝠マウスの説明でした」

 リンスは道中、ステラとミリーに蝙蝠マウスの特性について教えてくれた。ステラは素直にほーと感心しており、ミリーは頷いていた。


「でも、結構愛くるしい顔をしているのよ? 鳴き声も可愛いの」

 そういってリンスはその顔を思い出したのか、少女のように軽く身悶えする。

「へ、へえ、そうなのね。でも私は遠慮したいわね。蝙蝠翼が気持ち悪いもの」

「私は興味ある」

 ステラは、なんにでも興味を持ってしまう性格なので。


「そういえば、お2人はなんで冒険者になろうと思ったの?」

 リンスは唐突に質問をした。

「私達2人とも、両親がいないの。もちろん、親代わりの人はいるけれどね。夢を叶えるためにも、世界を見て回れる冒険者として生きようって思ったの。ステラと一緒にね」

「あら、まさかご両親がいないだなんて思っていなかったわ。ごめんなさいね」

「別にいい。仕方ないことだから」

「でも、危険な冒険者以外にも選択肢は合ったんじゃない? 二人とも可愛いんだもの」

 確かに、貴族の屋敷に侍女として勤めれば、身分のない女性としては良い立場にあると言えなくはない。

 まともな給金を貰うことは出来るのだから。

「そうね、別の道があるのだったら、そうするかもしれないわ」

 リンスの言葉にミリーが答えた。



「確かこのあたりの洞穴ね。ミリーちゃんが魔術を使って群れを攻撃。急襲に驚いた蝙蝠マウスは、慌てて襲い掛かってくると思うから、ステラちゃんはミリーちゃんの側で守ってあげてね。私はその他の蝙蝠を魔術で撃退する」

「わかったわ。ステラお願いね」

「うん」


 実際はステラかミリーが、単騎で討伐しても楽に倒せるだろう。

 無数の矢を飛ばすような魔法を使えば確実に殲滅出来る。例え、それで仕留め切れずに反撃されても、二発目の魔法か近接武器で確実に対応できる。

 ミリーなら蝙蝠マウスが逃げない様に飛行能力に対して阻害魔法を掛けても良いかもしれない。

 手段はどうであれ、二人のうちどちらかが『ちょっと』働けば十分である。


 しかし、ここにはリンスがいる。

 二人の実力は、特に魔法に関しては隠しておきたい。

 なので、ここは初心者らしく先輩の指示に従って、さっさと気がかりな「Gランクの初回依頼」という面倒事を片づけたかった。


「さ、洞穴が見えてきたわよ」

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