だから行かないって
「……で、この様子を見ると、ギルマスの思惑はうまく行かなかったんですね」
特別応接室に戻ってきたアンナが部屋の重い空気を察して、ため息を吐く。
ステラとミリーの二人は未だぶつぶつと何やら呟いている。
「二人とも、ギルドカードができたわよ」
二人にギルドカードを渡すと、2人の表情がぱあっと明るくなる。
少し機嫌を取り戻したようだ。
「今からカードについて説明するけど、大丈夫?」
「「お願いします」」
「ではまず、ランクについてね。
冒険者のランクはSからGまでの8つになるわ。
Gっていうは初心者として便宜的に設定されているもので、1つでも依頼をこなせばFランクに上がることは出来る。初心者であるGランクは、必ず他のランクの冒険者と一緒に依頼を受けることになるわ。
それから他のランクの説明だけど、FとEランクが単独で受注できるのは、採集依頼や簡単な討伐依頼などね。もちろん、他の冒険者と一緒であれば護衛依頼やダンジョンなどに潜る調査依頼、中程度の魔物の討伐依頼に行くことができるわね。
次のDとCランクは、単独パーティで護衛依頼、ダンジョンの調査依頼ができるし、討伐依頼の幅も広がるわ。採集依頼も珍しいものが増えてくる。下のランクの世話役としての側面もあるわ。中堅の冒険者の役割ね。
BとAランクは、指揮官としての役割が増えるわ。複数のパーティの指揮を取ったり、単独での上位貴族等の護衛依頼、高難易度の調査依頼、危険度の高い討伐依頼ができるわ。でも、このあたりになると、採集依頼は特別なものでない限り受注できないし、依頼はほぼ指定依頼が占めるわね。
最後のSランクは、ちょっと特殊ね。BやAランクと扱いはほぼ一緒なんだけど、一人で戦争できるほどの戦力を持っている場合や、国が敵に回せないような人達が多いわ。まあ、色んな意味で手に負えない冒険者が指定されるわ」
二人は頷きながら聞いている。
ランクに関しては、事前にセーラムに教えてもらった内容と違いは無いようだ。
セーラムの冒険者カードを見せてもらった時、セーラムのランクはCランクだった。
実力や経歴、そして世界から「六花の魔女」として扱われているところからしても、取り扱い上はSランクなのだが、Bランク以上だと貴族の扱いを受けたり貴族の依頼が増えるため、Bランクには上げなかったらしい。
複数冒険者パーティの指揮官として、セーラムに依頼しようにも、実際にはCランクなのだから依頼できない。なのでセーラムはわざとランクを上げていなかったのであった。
暗黙の了解で「六花の魔女」はSランクとしてギルドも国も扱っている。
「後はカードについての説明ね。
カードには、その冒険者が過去にどんな依頼を達成したのか、信頼できる人物であるのかなどの経歴が記載され、管理されるわ。経歴の記入と中身の確認は、冒険者ギルドや王城などでしか出来ない様になっているわね。
それとカードの色だけど、Gランクは青、FとEランクはブロンズ、DとCランクは銀色、BとAランクは金色、Sランクは黒になるわ。加えてEとC、Aランクは、カードの右下に星マークが付くわ」
ここまで説明して、アンナはステラの淹れてくれたくれた紅茶を飲む。
「カード、無くしたら、どうするの?」
ステラが心配そうに聞く。盗まれたら大変だ。悪用されてしまうかも。
「以前は無くす人がいたけど、今はその心配はなくなったわ」
「どういう仕組みなの?」
ミリーがカードを透かすように眺める。
「どこかの魔女の魔術で、自動的にその人の元へ帰ってくるようになっているわ。相当な高等魔術らしいわ」
「「……」」
「ちなみにカードに冒険者経歴管理等のシステムも、別の魔女様がやったっていう話よ」
「「………」」
((いやいや!! 魔女ってそうそういないんだけど!!?))
ごほん、とガルクが咳払いをする。
「で、銀の森の指南の件だが……」
「まだ、そのことを言っているの?」
「受ける気はない」
「い、いやでも、そこをなんとか考えてはくれないだろうか」
ガルクはうっすらと顔に汗を滲ませ、平伏しそうな勢いだ。
「それ以上言うんだったら、考えがあるわ」
ミリーが腕組をする。
「? な、なんだ?」
「これは例えばの話なんだけど、男性のギルドマスターが入っている特別応接室から、少女ふたりが服が乱れた状態で出てきたら、皆さんはどう思うかしら」
「もしもの話」
「い、いや、冗談だろう?」
「そうね。これは例え話だし、冗談よ」
「でも、実際にそうなったら、町はその噂でもちきりになるね」
少女2人が笑いもしない、冷淡な表情なのを見てガルクの顔は蒼褪めていく。
「やめてくれ! 俺が言った『銀の森』のことは、無かったことに!!」
あってはならない事態を想像したガルクは、しっかりと地に手を付けた。
アンナも特別応接室に入ってくる前の一部始終を思い返し、顔を青くしていた。
ーーーーーーーーーー
「でも、初めての依頼は先輩が同行しないとダメなのね」
ステラとミリーは、宿場一階の食事場で夕食をとっていた。
お金は困らない程度にある。
先程ギルドで換金してきたのだ。銀の森での地獄のような魔女の鍛錬の合間に、銀の森で狩った魔物の素材を収納魔法で異次元に保管していたため、換金する素材は大量にあった。
お金があると言っても、いつ無くなるかわからない。
先程ギルドを出るときに、謎のギルマスからの臨時収入があったが。
「でも、あの指南には参加できない」
「場所が違うところだったら、文句なかったのにね」
「明日、アンナとかリックに相談すればいい」
ギルドの職員、元冒険者の「荒野の矢」に相談すれば、良いパーティを教えてくれるだろう。
「そうね。変な冒険者には捕まりたくないもの」
「最初はどんな依頼がいい?」
「やっぱり、私は魔物の討伐がいいわ! 探知でぱって見つけて、サクッと討伐してみせるわ!」
「私もそう思ってた」
ふふっと、笑い合う2人。
「ちょっといいかな」
若い3人の冒険者が声をかけてきた。年は15あたりだろうか、その装備から、剣士と2人と弓使いの組み合わせだろう。
「うん、どうしたの?」
ステラが答える。
「いや、君たちの明後日の銀の森の指南に参加するんだろ? だから、挨拶をと思ってさ」
他の冒険家の舌打ちと、ため息が聞こえてくる。
美少女2人組に誰が先に声をかけるのかという空気読み合戦でもしていたのだろう。
「どうして?」
ステラが首を傾げた。
「だってさ、君たち今日冒険者登録していたじゃないか。石板に手を置くところを見ていたんだ」
「そう。でも銀の森の指南に参加するのは、遠慮しているの。冒険者になったからって、その指南に参加しなきゃいけない規則もないし。だから、悪いけど、挨拶は出来ないわね」
ミリーが周囲の冒険者にも聞こえるような声で言った。
「そ、そうなのか。なら、そうだね……。僕たちはこれで……」
3人組は、何か言葉を紡ごうと一生懸命に考えたら、ミリーにそこまで言われてしまうと何も言えなくなってしまったらしい。
3人組はすごすごと去って行く。周囲からは微かな笑い声と、口笛が聞こえてくる。口笛はミリー達へのものだろう。
「はあ、早速捕まったわ。ステラも気をつけてよね」
「でも、本当に挨拶するだけだったかも」
「そんなわけないわよ! あいつら品定めをするようにジロジロと舐め回すように見ていたのよ! 警戒するに越したことはないわ」
「でもミリーの胸はそんなにない。私よりもない」
「同じくらいはあるわよ!」
「し、みんな聞いてる」
「な!」
ミリーは顔を赤くし周囲を見るが、咄嗟に全員が顔を背けたため、誰とも目が合わない。いくら少女とは言え、気を遣ってくれたのだろう。
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