魔女
セーラム、ステラとミリーの女子三人は家に帰ってきて、紅茶とお菓子を囲んで魔法の講義をしている。
ライアンは森の中のベンチで本を読んでいるうちに眠ってしまったのでそのまま放置してきた。
「じゃあ、まずこの世は間違いというか、勘違いで溢れています」
どこから持ってきたのか、テーブルの上には黒板とチョークが置いてある。
ステラは、セーラムが奇書の中の学校をモチーフにしていることをなんとなく理解したが、当然、ミリーは見たことがない。
さらに、何故かセーラムはメガネを掛けている。
形から入る方なので。
無論ステラはセーラムのメガネ姿に興奮しているのだが。
「ではまず、私は『六花の魔女』と呼ばれています。それは知っている?」
「当然です! だから魔術の弟子に……」
「私は魔術師ではありません。魔術を使えないわけじゃないけど、使いません」
「え、セーラム様は魔術師ではないのですか」
「うん。違うよ。だから、実はステラに魔術を教えていたけど、ずっと後ろめたかったんだ」
苦笑いのセーラム。
「あ。そういえば、ママは魔術の詠唱覚えてない。いつも本見ながら詠唱してる」
「そう、バレてた?」
「……不思議には思ってた」
「で、でもセーラム様は、ウィンド・カッターとアイス・シュートを放ってましたよね」
「あれは、ウィンド・カッターでも、アイス・シュートでもないよ。そう見せていた属性魔法かな」
「何が違うの?」
ステラが首を傾げる。
「私の使っているのは、『魔法』って『魔術』とは違うんだよね。魔術は魔力を詠唱と呼ばれる術式で何らかの属性に変換したり、詠唱をを起動装置のように働かせる技術なんだよね。……わかるかな」
「魔術書でもそのような記述だったと思います」
「私も呼んだことある」
「そして、魔術は基本属性の4つ。そして根源属性の2つがあるよね」
「水、風、火、土が基本」
「光属性と闇属性が根源属性ですよね」
「うんうん。これは当然知っているね。じゃあ回復魔術はどの属性になるかな」
「回復魔術は、使えるものが少ないから、研究が進んでいないって聞きました。現在の研究では、水魔法の上位属性の一つと言われている様ですが」
「詳しいね。でも世界一般というか、人々の認識の中では、『魔力を詠唱によって魔術として形成し、何らかの属性に変換させて効果を発揮する』ってことになってるね」
黒板にかわいらしいイラストを描き、説明するセーラム。
「私が『六花』って言われてるのは、銀髪の髪が雪に見えるからっていうのもあるけど、『6属性』を高等な段階で使用できるからっていうことも含まれているかな」
「すべての属性に適性があるのですか!? さすが魔女様!!」
「さすママ!」
「まあ、実際は違うんだけどね」
苦笑いのセーラム。
「「え」」
「だって、私が使ってるのは魔術じゃなくて、魔法だから」
「じゃあ、魔法って何なんですか!?」
「魔法っていうのは、簡単に言うと……」
「簡単に言うと?」
「なんですか?」
「なんでもあり」
「「……」」
「魔法は、想像できたものなら、なんでもあり。属性の適性とか関係なし。まあ、もちろん得意な属性ってのはあるけど、それが想像しやすいか便利かどうかだから、これに関しては完全に好みの問題になのよね。
つまり、属性とかそれの適性ってのは魔法には必ずしも必要な要素じゃないの。必要なのは想像力。
だから勝手に『セーラムは全部の属性持ちなんだ』って思われてる。女性で魔法を使える人間を『魔女』って呼ぶんだけど、取り方によっては『六花』も『魔女』も、同じ意味なんだよね」
「「………」」
「あれ、面白くなかったかな? 分からなかった?」
「「…………」」
「だから、魔術の先生とか無理かな。私は魔術とかそういう研究とかには詳しくないし、魔術の詠唱は魔術書を読んだほうがためになるよ」
「「……………」」
沈黙に耐え切れなくなったセーラムは、ムズムズしてきた。
ステラは、いつも通りの無表情だが、喜びと戸惑いを行き来しているようなそんな感情が読み取れる。
ミリーは、ほとんど口を付けていない紅茶を見つめ、完全に顔を青しくいる。
「とりあえず、私、ライアンを呼んでこよう……2人はゆっくりしていてね」
セーラムは二人を残し、森に入っていった。
森の広場に着くと、森の木々を金色に染めていた。
広場のベンチの上では、ライアンが本を読んでいる。
「起きていたのかな。帰ってきても良かったのに」
「いや、ここがあまりにも居心地が良くて。故郷を思い出します」
ライアンは本を閉じて立ち上がる。
「それはそうだよ。エルフの私が作ったんだから」
「そうですね」
ライアンと、セーラムは並んで家に戻っていく。
「それで、どうでしょうか?」
ライアンは訊きにくそうに言った。
「どうってなにかな? 魔法のことを知ったあの子たちのこと? それとも、魔女としての素質があるかってこと?」
「ふふっ、両方ですよ」
「魔法は誰にでも使えるもんじゃない。使えたとしてもその反動に耐えられる者は少ない。だから、私は出来るだけ魔法を教えたくはない、かな」
「では、その反動とか色んな代償を無しにして考えてください。あの子には素質はあると思いますか?」
「ミリーは、上級属性魔術の氷属性を使っていたから、可能性はあるかな」
そうして、考え込むセーラム。
横を歩くライアンをちらと見ると、彼は真剣な顔をしていた。
「素質のテストは一応してあげるつもりかな。でも、弟子にするのは別」
「それでも構いません。あの子も馬鹿ではありませんから、きっと分かってくれますよ」
「……町まで送ろうか?」
もうじき、家に着くというところでセーラムが訊く。
「それが、困ったことに町の宿場は、一部屋しか空いていなくて。ミリーを泊めていただけませんか。もうこんなに遅いですし」
ライアンは、わざとらしく肩を竦めた。
「……最初からそのつもりだったでしょ」
「そんなことはありませんよ」
「まあ、町に宿がないのは仕方ないかな」
「はい。仕方がありません。では、ミリーによろしく言っておいてください。明日の朝また来ます」
「ん、じゃあね」
「あ、そうだ。セーラム一つ聞いておきたいのですが」
「なにかな」
「町の門にいるあの森ウルフは何なのでしょう。町の子供たちを背中に乗せて街道を駆けていましたが」
「しらん」
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