第12話 現実になった怖い話
※この話には残酷な描写が含まれます。予めご了承の上、お読み下さい。
「ーでさ、その後どうなったと思う?」
徳井は、俺たちにオチを想像させるような言い回しで話を区切った。
「やっぱりその人は◯んじゃうんじゃない?」
「違うよ、取り憑かれてずっと恐怖に怯えながら暮らしていくんだよ。」
ああでもないこうでもないと口々に思いついたことを話していると、徳井は「やっぱその二択になるよなぁ。」と鼻で笑った。
「人に促しておいて馬鹿にしてんのかコラ。」
「あぁ、すまんすまん。怖い話ってのは、大体オチが決まってるよなって話をしたくてさ。」
徳井は肩をすくめ、ポケットから電子タバコを取り出した。
夏場の飲み会には怖い話がつきものだ。
大学のサークルで知り合った俺たち5人は、この日徳井の部屋で酒を飲みながら怖い話を楽しんでいた。
「怖い話は聞いてて楽しいけどさ、別に現実に起こるわけじゃないから結局はエンターテイメントだなって思うわけよ。心スポに行っても”なんか物音が聞こえた気がする”程度で、幽霊に追いかけられるとかって話は作り話が多いし。」
「でも、実話でそういう体験したって人は居るわけじゃん?」
「それを確認する方法がないんだから、言ったもん勝ちな所あるだろ。」
確かに一理ある。「本当にあった怖い話」とか「怖い体験談」とか、よく巷で出回っている話でも結局は「話」であって、それを確かめる術はない。
しかも、映像技術も発達している現在では本物か作り物かなんて素人目には区別なんてつかない。「証拠映像だ」と見せられれば、簡単に信じてしまうだろう。
近頃心霊ブームが来ているのは、そういった背景があるためかもしれない。
「てことでさ、俺たちで新しい怪談作ってみねーか?それが流行ったら面白いじゃん?」
「都市伝説的な?」
「そうそう、口裂け女とか、メリーさんとかみたいにさ。俺たちがルーツの話が全国に広まったら、自慢できんじゃん!」
「いいね、なんか検証みたいで面白そう!」
満場一致で、俺たちなりの最恐・怖い話を考えることになった。
「まずオチから考えようぜ。」
「そうだな。オチが重要だし。やっぱ定番の◯ぬパターン?」
「いやいや。気味悪さを出すために取り憑くパターンでしょ。」
「伝染パターンは?」
「あぁ、聞いたらその人も同じ目に遭うってやつね。」
「なんか不幸の手紙みたいだし、あんまりリアリティ無い感じするなぁ。」
「確かに。伝染パターンは無いな。あと、死パターンも無し。」
「んじゃ、取り憑くパターンでいく?」
「そうだな。」
「じゃあ取り憑かれたらどうなるか決めよう。」
各々頭を絞り、結末を考えた。
「事故に遭う」
「気がついたら朝だった」
「毎晩夢でうなされる」
「金縛りに遭う」
「追いかけられる」
ひとりひとり提案するが、どうにもしっくり来るものがなかった。
「怖さに欠けるというか…なんかありきたりな終わり方だな。」
人は見聞きした範囲内でしかものを考えられないので、どうしても天井が見えてしまう。
「しかたねーじゃん、怪談師じゃあるまいし。所詮俺たちが考えた所でってところはあるよ。」
俺の言葉で皆黙ってしまった。
「…体の一部を失う、っていうのは?」
長い沈黙の後、6人目が提案した。
「体の一部か。腕とかって事?」
「そういう見るからにな感じじゃなくて。爪とか、歯とか、頭皮とか。」
「頭皮って…。」
急に気持ち悪いワードが出てきたので俺たちは少し引いてしまった。
「ね、腕とか脚を失うより気味悪いでしょ?」
女の子は含み笑いをしながら言った。
「…確かに気持ち悪いし、爪とか歯ならぶつかったりコケたりした拍子に失いそう。リアルな感じがあるかも。」
徳井が頷くと、他の皆もそれに同意した。
「じゃあ、オチは”体の一部を失う”で決定だね!」
提案した女の子は嬉しそうに締めた。
「じゃあ次は発端かな?」
「そうだね。誰かと出会う感じにする?”一つ頂戴”とか曖昧なこと言われて、何がですか?って聞いたら―みたいな。」
「それ、なんか聞いたことある感じのパターンだな。」
「じゃあこの話を聞いた帰り道で必ず事故に遭って―とか?」
「聞いた全員が事故に遭うのはリアリティが無い。」
再び俺たちは行き詰まった。
「オリジナルで一個の話を考えるの、こんなに難しいんだな…。」
「サ◯エさんとか週刊漫画とか、定期的に話考えてる人すごいな。」
此処で何故サ◯エさんだけ名指しなのか俺は気になって仕方なかったが、周りは気にしていない様子だったので流すことにした。
「数人で怖い話をしているといつの間にか一人増えてて、その子が話したことが現実に起こってしまう、っていうのはどうかな?」
先程採用された女の子が再び提案した。
「なにそれ、気味悪い!」
「いつの間にか知らない人が混ざっているっていうのは聞く話ではあるけど、その後に付随した話が怖いな。」
「でしょ?しかも、その人が話す内容はランダム。唯一統一しているのは、”その話が現実に起こる”って事だけ。」
「おぉ、なんかそれいいかも。」
「お前、よく思いつくなぁ。」
「えへへ。」
「もうほぼ話完成じゃん。」
6人で考えていたのに、一人の意見で話が出来上がってしまった。
「じゃあ、この勢いで私がまとめちゃってもいいかな?」
「いいと思うよ。」
「うん、怖くしちゃって!」
「じゃあ―」
女の子は活き活きしながら言った。
「私の話を聞いたあなた達からは、一人ずつ体の一部貰うね♡」
「えっ。」
驚いたのもつかの間、女の子は立ち上がり、隠し持っていたナイフでひとりひとり襲い始めた。
「きゃぁぁぁぁ!!」
「おいっ、止めろ!!」
不意を突かれた俺たちは、酔いも回っていたため抵抗しきれず、俺は右耳、徳井は鼻、他の3人は右手薬指と左足小指、そして下唇とそれぞれ体の一部を削ぎ落とされてしまった。
女は俺たちがパニックになっている隙を見て逃走。直ぐに通報したが、5ヶ月経った今でも捕まっていない。
女は俺たちいずれかの知り合いではなく、いつの間にか混ざり込んでいた。
見知らぬ人間が居たというのに何の違和感もなく飲み交わし、そして怖い話をしていた。その事にも恐怖を覚えるが、女は果たして実在する人物なのだろうか。女は何の目的があって俺たちの一部を奪っていったのだろう。
考えても答えが出るわけではないが、今後飲み会を開くときにはこまめに点呼するようにしたい。
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